と殺されなくとも生きられない 極限まで体を作り変えられたブロイラーのリアル
個性が光る２羽の鶏
どどーんとでかい体、小さな顔とトサカ、通常の２〜３倍太い脚と、通常の３倍重い体重。鶏には見えない鶏の大ちゃんと福ちゃんは、肉用鶏＝ブロイラーの女の子だ。
彼女たちは同じ時期に保護された。
福ちゃんは好奇心旺盛で、初めての場所でも探索に余念がない。大ちゃんに最初に寄り添っていったのも福ちゃんの方で、彼女が心を開いたからこそ、親友になれたのだろう。福ちゃんは社交的で人とのコミュニケーションも大好きで、抱っこも好きだった。
一方大ちゃんは扉があいていても、決して知らない場所に自分からは行こうとしない。まだ幼くて自我が発達しきっていないこともあったが、怖がりなのではなくて、用心深く、よく考えてから行動するタイプだ。
健康状態はボロボロ
保護したあと、２羽の血液検査をしたが、２羽とも多くの数値が異常値だった。
肝臓疾患、筋肉の障害、中性脂肪過多、腎不全、高い血糖値、胆管の障害、腹水や胸水の貯留など、治療が難しかった。
日齢が上の福ちゃんは、より体重が重たく、足は次第にガニ股になり、歩くのがやっとの様子。多くのブロイラーが骨格異常や過密飼育により歩行困難や起立不全になるが、その一歩手前だ。
大ちゃんはそうではなかったが、成長しきるとやはり、足が弱くなり歩いたり登ったりすることはどんどん難しくなっていった。
鶏らしい普通の暮らしを知る
たとえ体格は異常でも鶏。夕方暗くなれば家に戻り、寝床に入る。家に来て1週間ほどして、砂浴びを大ちゃんがはじめ、それを真似して福ちゃんも砂浴びをはじめた。残念ながら体が重すぎてとまり木に止まることができないけれど、まだ若い大ちゃんは家に来た頃は自分の身長の高さは飛び上がることができた。
２羽は寄り添い、体が大きすぎて届かないお尻についた汚れは、お互いに取り合っていた。大ちゃんが大好きな福ちゃん、福ちゃんに押されながらも福ちゃんに対して思いやりを見せる大ちゃん。でも、２羽の別れはすぐにやって来た。
福ちゃんの突然死
ブロイラーは、40～50日でと殺されなかったとしても数週間後には死亡してしまうほど、不健康な体に作り変えられている。心臓発作などで突然死することが多く、福ちゃんもこの犠牲になった。ある朝、福ちゃんは朝ごはんを食べるためにベッドから降りてきたところで、倒れていた。まだ息はあったが、数分の間に息を引き取った。
一緒に暮らし家族だと感じていた親友がいなくなると、鶏も私達人間と同じように落ち込むもの。そして私達が見てきた鶏の多くは、次の親友をなかなか作ることをしない。人間も、家族や親友が死んでしまっても同じ関係になれる人がいないのと同じように、大ちゃんにとって福ちゃんの代わりはいない。
見直しと議論を
次の家族を作ってもらうために、以前バタリーケージから保護された鶏の歩ちゃんを迎えてくださった方にお願いをして、大ちゃんは移住した。
幸い大ちゃんは、新しい飼い主さんと、猫と先住鶏と新たな関係をつくることができ、幸せに暮らしている。
でも、夏には腹が異常に熱くなり、生きることに冷房の中でも精一杯になる。彼女があと何年生きられるのか……私達はいつも不安だ。
生命倫理というものがあるが、ブロイラーについて、人間はこの生命倫理なんてとっくに飛び超え、今も無視し続けている。動物を育種改変で極限まで操作し、自然に生きられない姿に変えた。先天性異常を持って生まれてくるひよこも増えている。
今の鶏肉のあり方は正しいのだろうか。
もう一度、見直して、議論し直さなくてはならないのではないだろうか。
（次回は2022年２月14日です）
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