車のエンジンルームに入り込んでいた子猫 発見してくれた整備士の家ですくすく成長

 寒い季節は、外にいる子猫が暖をとるために、車の下のわずかの隙間からエンジンルームに入り込んでしまうことがある。気がつかずにエンジンをかけて走らせてしまうと、最悪の場合、ファンベルトに絡まったり、振り落とされたりして、悲惨な結果となることも。車の故障や事故にもつながりかねない。定期点検の車からいちはやく子猫を発見し、家に迎えた整備士の飯島健太さんに、子猫侵入防止のために気をつけたいことを聞いた。

(末尾に写真特集があります)

ボンネットを開けると、猫の毛が!

 飯島健太さん(34歳)は、ある自動車メーカーの千葉県内ディ―ラーの整備工場で働いている。

「高校生の時は将来の目的もなく、その先生がいなかったら卒業できていなかった」と健太さんが慕う担任の先生が、「こんな道もあるよ」と教えてくれたのが整備士養成の専門学校だった。卒業して、先生が乗っている車の会社の整備士になった。今も先生の車の整備を担当させてもらっていて、それが自分なりの恩返しだと思っている。勤続14年、現場の要として、社内の信頼も厚い。

 去年のちょうど今頃、ぐんと冷え込んできたある日のこと。6カ月ごとの定期点検の車を担当した。

「この季節は、ボンネットのふたを開けてまっ先に確認する箇所があるんです。それは、エンジンの熱を逃がさないためにふたの裏側についているスポンジです」

 寒い季節に多い、エンジンのぬくもりを求めて子猫が侵入した形跡は、スポンジに毛が付着しているどうかで、一目瞭然なのだ。

「その日は、細い毛がけっこう付着していました。なので、『あ、エンジンルームに猫が入ったな』とすぐにわかったんです」

 もういないだろうと思ったが、そっとエンジンルーム周りの隙間をのぞき込む。いた! 小さなキジトラ猫が、エンジンとラジエーターの間の隙間にうずくまっていた。

エンジンルーム
「この部分にうずくまっていました」(写真と実際の車とは別)

 子猫は怖がってササッと移動したが、その様子を見て、「けがはしていない。元気でよかった」と、健太さんはほっとした。この子1匹だけと確認し、両手で救いあげて小さな箱に入れ、上からカゴをかぶせた。愛らしい顔だちの子で、暴れずにおとなしくしていてくれる。

 すぐに、車の持ち主に電話を入れた。

「子猫がエンジンルームにいましたが、お宅の猫ちゃんではありませんか」

 違う、という返事だ。「ご近所の猫ちゃんでは?」という問いかけにも「心当たりはない」との返事である。

 会社内で、これから猫を飼いたい人はいないか聞いてもらったが、急なことでもあるし、希望者はいなかった。

「妻にも電話して相談し、『じゃあ、うちで預かります』と上司に申し出ました。うちには先住猫がいて、『もう1匹迎えたいね』と日ごろから話し合っていたんです」

段ボールに入った子猫
保護直後。携帯の箱に入る小ささ(健太さん提供)

わがまま先住猫の性格が丸くなる

 獣医さんに連れて行って、ひと通りの検診をしてもらう。生後1~2カ月の女の子で、ノミがいたのでノラの子らしいが、健康だった。名前は「モカ」とした。

 先住猫の「ビル」は、3歳のマンチカン種の雄猫である。妻の恵美さんと共に「子猫とじゃれる」図を楽しみに迎えたのだが、みごとに当てが外れた。ビルは、「おもちゃにもまったく興味がなく、飼い主たちをずっと見透かしているような、ふてぶてしくてわがままな猫」だったのである。もちろん、それはそれで可愛かった。

 いきなりやってきた子猫に、ビルは怒って威嚇した。健太さんたちは、ネットで調べた「まずはケージ越しで、少しずつ一緒の時間を長くする」やり方で、同居を慣らし始めた。

 モカはといえば、最初からビルにグイグイ接近し、ひと月過ぎて気がつけば、2匹はいい仲になっていたという。

2匹の猫
やんちゃなモカと、泰然自若のビル(健太さん提供)

「ビルのために買ったのにまったく無駄だったおもちゃに、モカの食いつきがすごくて。猫じゃらしを振りながら、『これ! これをやりたかったの』と妻も喜んでいます。それを、ビルがむすっと眺めている(笑)。モカが来てから、ビルの性格がコロッと変わって、すっかり丸くなりました。妹ができたのがうれしいようです」

子猫侵入防止のためにできること

 エンジンのカバーに足跡がついているのを見たことはあっても、健太さんが実際にエンジンルームにいる子猫を見たのは、モカが初めてという。だが、先輩整備士たちから、冬場の子猫のエンジンルーム侵入事案についてはいろいろと聞いているので、その点検作業のリストにない箇所も目を配る。後輩たちにも「この時期は、エンジンルームの隙間をよく見てね」と指導している。

「子猫と同じくらいネズミの侵入も多く、巣を作ってしまうこともあります。巣作りのために集めた葉っぱ類が、部品に詰まってしまうことも。子猫やネズミのエンジンルーム侵入は、その動物のいのちに関わることと、車の故障や思わぬ事故にもつながることから、未然にしっかり防ぎたいものです」

2匹の猫
寄り添って眠るビルとモカ(健太さん提供)

 ここで、国で定められている運転者義務を思い出してほしい。法定点検のほかに、エンジンルームや外回りなどの点検を、運転者が日常点検としてエンジン始動前にすることが義務づけられている。

 外出先での再運転時などボンネットを開ける余裕がない場合も、ボンネットをこぶしでコンコンとたたくことを、エンジンをかける前の習慣にしたい。子猫が潜り込んでいたとしても、音に驚いて出ていく効果がある。

「この季節、エンジンルームが広くて下から入りやすいSUVタイプの車を運転なさる方や、外猫のいる地域にお住まいの方などは、とくに気をつけていただきたいですね。でも、子猫の侵入は、どの車種でも、どの地域でも、一年を通してあるので、エンジン始動前のコンコンは、あらゆる場合の習慣にしていただくのがベストです」

 最近は、小動物や小石がエンジンルームに入り込むことを避けるために、下にネットが張ってある車種も増えてきたそうだ。

「ネットは、ご相談いただければ、手作りで後付けすることも可能です」とのこと。

マフラーをまいた猫
2回目のしあわせなクリスマスを迎えるモカ(健太さん提供)

 ビルとモカが2匹そろって、帰宅時に玄関まで迎えてくれるのが、健太さん夫妻の楽しみである。

 最初っからの兄妹のように寄り添って眠るしあわせそうな姿を見て、「ああ、あの日、エンジンルームから救えてよかった」と思う。そして、ぬくもりを求めてエンジンルームに潜り込む、ねぐらのない外暮らしの子猫がいない世の中になりますようにと心から願う。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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