拒否柴って本当にかわいい? 散歩の小さな悩みが関係の悪化につながる

 柴犬の飼い主さんにとって毎日の散歩は必須といえる習慣ではないでしょうか? それだけに柴犬は散歩に関する悩みが多くなりがちです。たとえば、においを嗅いでばかりで進まない、リードを引っ張って歩く、座り込む「拒否柴」になってしまう、といった飼い主さんを困らせる問題です。

「愛犬と意思の疎通がはかれないばかりか、対立して関係が悪化することもあります」と獣医師の山下國廣先生。散歩の時間を柴犬と一緒に楽しむためにも、散歩の悩みを解消しましょう。

柴犬の散歩に関する「5大悩み」

 柴犬の飼い主さんからよく相談される悩みは下記の5つです。自立心が強く好奇心旺盛なタイプの犬にありがちな問題で、メスよりオスのほうがにおい嗅ぎとマーキングをよくする分、悩む飼い主さんが多いと思います。

(1)リードを引っ張り続ける
(2)あちらこちらに引っ張る
(3)においを嗅いでばかりで進まない
(4)散歩の途中で歩かなくなる(家が近くなると帰りたくなくて抵抗する)
(5)散歩に出るのを嫌がる(リードをつけようとすると逃げる)

 飼い主さんの横についてスタスタと歩く散歩を理想としているからでしょう。しかし想像してみてください。犬にずっと横にいたり注目され続けたりするのは「ちょっとうっとうしいかも」と思いませんか? 商店街や観光地などの人が多いところで横についてくれれば十分です。

 そもそも散歩は連行や整列行進ではなく、運動だけが目的でもありません。人間も寄り道したり景色を楽しんだりしますよね。犬も楽しいことを探しながらぶらぶらと散策しているのです。柴犬も飼い主さんも、散歩がお互い苦にならない楽しい時間にしましょう。

柴犬
犬は人間より優れた嗅覚(きゅうかく)を使って世界を感じている(写真提供:なっちゃん)

考え方を変えるだけでも散歩が楽しくなる

(1)リードを引っ張り続ける→犬は「人間は遅いな」と思っている
 もともと犬の歩くペースは人間より速いので、リードにつないで歩けば犬が先に行って引っ張るようになるのは当たり前とも言えます。犬にしてみれば「人間は遅いな」と思っていることでしょう。そして犬は引っ張り続けているうちに、「人間を引っ張らないと前に進めない」という感覚になり、引っ張りが定着します。犬ぞりを引いているそり犬とまったく同じですね。犬がリーダーシップを取ろうとしているから前に出るという考えは迷信です。

 犬が引っ張り続けるのをやめさせたい場合は、「リードに力がかかっていない状態でのみ進める。リードが張ったら進めない」というルールにして、飼い主さんがしっかり守ること。ときには犬が本来の速さで歩けるように、飼い主さんが軽く走りながらついていってあげることも大切です。リードが短すぎると引っ張る原因になるので、180〜200cmの長さを使いましょう。

柴犬
人間が軽くランニングをするくらいのスピードが犬には歩きやすい(写真提供:なっちゃん)

(2)あちらこちらに引っ張る→興味を引くものがあるから
 前だけでなく、あちらこちらに引っ張る場合は、柴犬の興味を引く対象がいろいろなところにあることが理由です。好奇心が旺盛だから、警戒心が強くて調べないと安心できないから、進むのが遅いので周りが気になるから、といったことが考えられます。とくに悪いことではありません。安全な場所では自由にさせて、ものが落ちている危険な場所では早歩きで立ち去りましょう。

「あんまりウロウロしないでほしい」という意識でリードを持っていると、犬は飼い主さんのことを「自分のやりたいことを邪魔するうっとうしい存在」と思ってしまいます。逆に飼い主さんが愛犬の興味をもつものを先に見つけて、「おいで、これ何だろう?」と声をかけて連れて行ってあげれば、犬は「自分の興味をわかってくれる存在」として認識してくれるようになります。

(3)においを嗅いでばかりで困る→犬はにおいを楽しむ動物
 飼い主さんだって、出かけたときには景色を眺めたり店先の商品を触ってみたりしながら歩きますよね。整列行進でもないのに「キョロキョロしないで前だけを見て歩け」と言われたら窮屈で楽しめないでしょう。犬は見たり触ったりする代わりに、においを嗅ぎながら歩くものです。

 においを嗅いだあとマーキングをすることもあるので、住宅街や観光地では素早く通り抜けて、それ以外の安全な場所では基本的に好きなだけにおいを嗅がせてあげましょう。

柴犬
地域に応じた散歩マナーを守ることも大切だ(写真提供:なっちゃん)

(4)散歩の途中で歩かなくなる→犬と飼い主の対立で関係悪化のサイン
 進もうとしても動かない犬側の理由は、まだその場所でやりたいことがある(においを確かめたい、遊びたいなど)、もしくは、進もうとしている方向に犬にとって嫌なこと(苦手なもの、帰れば散歩が終了する)があるからです。それを飼い主さんが理解してあげれば、「座り込みをして困る」という悩みは解決に向かうと思います。

 リードをツンツンと引っ張って犬に「早くいこうよ」とうながすのはやさしそうな対応に見えますが、実は柴犬の意思と飼い主さんの意思が対立している状態です。犬は飼い主さんに抵抗すれば自分の意思を通せると学習するので、散歩のときだけでなく日常生活のさまざまなシーンで抵抗するようになります。

[対立を生む犬の座り込みを解消する方法]

  • 飼い主が「早く進みたい」と思っただけで気安くリードを引かない
  • 止まっている時間的余裕があるならリードをゆるめて待つ
  • リードをツンツンと中途半端に引かないこと
  • 抵抗する犬と向かい合わせになって、「もう行こうよ」などと説得しない
  • これ以上止まっていられないときは、犬に「行くよ」と声をかけて飼い主が進行方向に向けて走り、犬が抵抗しても絶対に速度を緩めない
  • 犬が抵抗をやめてついてきたらほめてごほうびを与える

(5)散歩に出るのを嫌がる→散歩は好きでも捕まえられたくない
 散歩が好きなくせにリードをつけようとすると逃げる、という柴犬はたくさんいます。飼い主さんから見れば「リードをつけなければ散歩に行けない」と矛盾しているように感じますよね。

 犬はリードをつけられたり飼い主さんに追い詰められたりするのが嫌で逃げているので、散歩が好きかどうかは関係ありません。拘束や捕獲への嫌悪感でいっぱいの状態で、「リードをつけてもらうと散歩に行かれる」ということと結びついていないのです。追い詰められた柴犬がいかくするようになったら要注意。うなれば飼い主さんがひるむことを学習すると、日常生活のさまざまな場面でいかくするようになります。柴犬と飼い主さんと対立関係になってしまい、良いことは何もありません。

 散歩に行くときとは別に、「リードをつけてもらうと良いことがある」「リードをつけても自由がなくなるわけではない」と根気よく教えましょう。たとえばリードをつけたらおもちゃで遊ぶのも一案です。

柴犬
リードをつけたらおもちゃやおやつをあげよう(写真提供:なっちゃん)

まとめ

 柴犬との散歩を楽しむためには、あえて決まった習慣をつくらないこともポイント。柴犬は保守的なタイプなので、一定の年齢まで決まった手順で決まった物事をしていると、変えようしても対応できなくなります。

 たとえば散歩の時間を決めない、散歩コースを日替わりにする、散歩の合図を決めない(リードを持ったら散歩という習慣をつくらない)など、飼い主さんが工夫してアレンジみてください。柴犬は「今日はいつどこへ散歩に行くのか楽しみ」と飼い主さんに期待するようになります。

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監修:山下國廣(やました・くにひろ)
獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。

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金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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この連載について
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