その接し方、柴犬にはパワハラ・セクハラ・いじめに 信頼されるコミュニケーションを
柴犬と暮らしていて「距離を置かれている気がする……」と思ったことはありませんか? もしかしたら信頼関係が揺らいでいるサインかもしれません。柴犬はもともとパーソナルスペースが広い犬種で、ちまたではそれを「柴距離」と言われています。しかし飼い主さんの接し方に問題があって距離を置かれているケースも少なくありません。
獣医師の山下國廣先生は、「家族のなにげない態度が柴犬へのパワハラ、セクハラ、いじめになっていることもあるのです」と注意をうながします。柴犬の性格への理解を深めて、コミュニケーションを見直しましょう。
柴犬は要求を通すために甘えるふりをする?
柴犬の性格をひとことで言うと「ツンデレ」。普段はツンツンしてぶっきらぼうなのに、ふとしたとき心を許した家族にだけデレッと甘えるのが柴犬です。柴犬がツンデレに見える理由は大きく分けて2つあります。
ひとつは、柴犬が「おとな」へと成長していくこと。子犬のころには飼い主さんを追いかけて常に甘えていても、成長するにつれてかまわれるのをうっとうしく思う場面が増えていきます。これは子どもが思春期を迎えて自立にするのと同じで正常な成長過程です。
日本犬は他犬種に比べて精神的な成長が早く、生後6カ月をすぎれば飼い主さんと距離を置くようになることも。甘えん坊な子犬の印象が強すぎると、成長後の態度とのギャップがツンデレに見えると思います。子犬のころは呼べば飛んできたのに、今ではチラッと見るだけ……という態度は「柴犬あるある」でしょう。
もうひとつは、犬が自分の要求を通すために甘えて見せることが定着している場合です。家庭犬の柴犬のツンデレは、このケースがかなり多いと思います。飼い主さんのひざにあごをのせて甘えていた柴犬が、おやつをもらった途端去っていくのはよくあること。「こうすれば飼い主は言うことを聞く」と犬が学習して甘えるふりをしているわけですね。自分の要求が通り、目的が達成されれば甘える行動はあっさり終わります。この豹変(ひょうへん)する態度がツンデレと思われるのでしょう。
要求行動への対処法は、エスカレートしないように無視するのがセオリーですが、柴犬の場合「なでて」と甘えてきたときにはこたえても弊害は出ないと思います。なで続けると怒るタイプの柴犬もいますが、多くは飼い主さんが「やめて」というサインを見逃している可能性が高い。犬が「もっとなでてほしい」と思っているくらいでやめるのがコツです。
接し方を間違えれるとパワハラ、セクハラ、いじめに
(1)パワハラ:犬に体罰や圧迫感を与えること
犬に暴力を振るうのは体罰や虐待と知っている飼い主さんでも、犬のマズルをつかんだり抑えつけたりして叱っている人は少なくありません。力づくではなくても、怖い声で脅すような叱り方をしていませんか? しかし叱りながら拘束するような対応は、柴犬にとって暴力の痛み以上に精神的な圧迫感や屈辱感を伴う行為で、パワハラでしかありません。
このような対応は飼い主さんとの対立をあおることになり、やがて柴犬を叱ろうとした途端かみつくようになります。弊害としては、慢性的な心理的対立感から、飼い主さんに対して意図的に反抗したり攻撃的になったりすることが増えます。
(2)セクハラ:犬に一方的な好意を押し付けること
人間同士では「一方的にスキンシップを求めるのはセクハラ」というのは常識です。しかし犬の場合、「犬をかわいがる=スキンシップ」という思い込みが広まっているため、柴犬のようなむやみに触られるのが好きではない犬に対しては、飼い主さんの好意の押し付けがセクハラになっている場面がとても多いものです。
愛犬が本当になでてほしいと思っているのか、こちらがなでたいだけなのか、よく考えて接してください。一方的なスキンシップに困りながらも我慢して受け入れてくれる柴犬もいますが、セクハラに耐えかねてうなったりかみついたりするようになる柴犬も珍しくないからです。
(3)いじめ:犬には理解できないことをする、笑いものにする
柴犬にとって理解できないことを強要されるのはいじめに等しいと思います。たとえば散歩後の足拭きは「散歩から帰ったら毎回いじめられる」という感覚をもっているのでないでしょうか。犬には「部屋が汚れるから足を拭かなければいけない」ということは理解できませんが、「部屋に入る前に足を拭く」という習慣を教えることは可能です。
そのほか、柴犬が食べているガムを取り上げるふりをして、わざと怒らせたりしていませんか? 飼い主さんはショックかもしれませんが、相手の反応を笑いものにするのも典型的ないじめの一種です。子どものいじめ問題でも、加害者側は「遊びのつもり」「からかっただけ」と思っていることが多いですよね。いじめられても我慢する犬もいますが、不満をため込んで爆発する犬もいます。
柴犬の感情を読み取ってコミュニケーションに役立てよう
柴犬の感情表現はとても豊かです。ただしトイ・プードルやラブラドールレトリバーに比べれば地味に見えるかもしれません。日本犬と洋犬の感情表現の違いは、日本人と欧米人にそのまま当てはまります。日本は感情をあらわにしない察する文化で、アメリカは感情をストレートに表現する文化です。喜怒哀楽の感情はまったく同じでも、表現の方法が違うわけですね。この共通性について、何か理由があるのか偶然の一致なのかはわかりません。
日本犬は欲求の自己制御ができるタイプが多いく、さりげないアピールが得意。「かまってほしい」「おやつがほしい」と思っても、飛びついたり騒いだりせず、「おすわりして待っているほうが得」とじっと待てるのです。なんとなく日本人の気質に通じるものがありますよね。
私の愛犬のすぐりの場合、子犬のころはかまってほしいときに前脚でガチャガチャと窓をたたいていましたが、私に無視されていると、爪の先でチャキッと1回だけ引っかく技を身につけました。ガチャガチャと音がしていると「犬が騒いでいるんだな」と無視できましたが、チャキッという音には「なんだ?」と思って反応してしまったからです。欲求を自己制御したわずかな動きで、目的を達成するアピール方法だと感心しました。
柴犬ならではのサインといっても個体差が大きいので、愛犬と付き合いながら理解していくものだと思います。犬の立場に立って考える視点があれば、付き合っているうちに理解できるようになります。観察力を磨いて、柴犬の感情をうまく察してあげられる飼い主さんを目指して欲しいですね。
【前の回】活発な柴犬の子犬の育て方 飼い主あるある「3大悩み」を解決
- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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