「ペット信託」って何? 愛するペットを、新しい飼い主へ確実に託す方法 

 最後までペットと生きる方法を探るシリーズ。その一つ「ペット信託」について、日本で初めてこの仕組みを形にした行政書士の磨田(とぎた)薫さんに教えてもらいました。

「どうぶつ系行政書士」の磨田薫さん
「どうぶつ系行政書士」の磨田薫さん(磨田さん提供)

「ペット信託」の流れは? 費用は?

――まず「ペット信託」はどういうものですか?

 信託契約とは、「ある目的を達成させるために」信頼できる人に託す契約のことをいいます。ペットについての信託契約の場合は、飼い主さんが信頼できる第三者と契約を交わし、「自分に万が一のことがあった時に備えてペットの飼育費を管理し、その時が訪れたら飼育してくれる人(施設)に飼育費を支払う」ということを託すものです。

 この場合の万が一とは死亡時だけでなく、病気で飼えなくなった時なども当てはまります。

――飼育費だけで、手間代や報酬は発生しないのですか?

 手間代や報酬を設定することもできます。ただ、これまでのケースでは設定しない(無償の)人が多数です。信頼できる第三者というのが誰なのかにもよります。

――主な流れ、手順は?

【登場人物】は3人。

  1. 飼い主
  2. 契約を交わす「信頼できる第三者」
  3. 万が一の時に飼育をお願いする人(施設)

 ①と②の間の信託契約書を作成し、公証役場で公正証書にします。

 それをもとに銀行で「信託契約専用の口座」を開設します。口座が開設できたら、契約書に記載している、万が一の時の飼育費を入金します。以後は②が管理し、①の万が一の時に口座から引き出し、③に支払います。

 なお、信託契約を結んだ友人が飼育先にもなるなど、②と③は同一の場合もあります。また、現状、銀行で信託契約専用の口座を開設するのに非常に時間がかかり、地域によっては口座開設が困難であることも多く、まだまだ発展途上の段階にあります。

――信託契約を結べば、本当にちゃんと面倒を見てもらえるのでしょうか? 

 面倒を見てもらっているかを定期的に確認する、信託監督人を設定することもできます。ただ、監督人への報酬が発生しますので、設定している人はあまりいません。

「この人ならお金目当てではなくしっかりお世話をしてくれるだろう」と思える人(もしくは施設)をしっかり事前に考え、選ぶことが大切です。

「ペット信託」のイメージ(図は磨田さん提供)
「ペット信託」のイメージ(図は磨田さん提供)

――「ペット信託」にかかる費用の目安は?

 飼育先が兄弟や友人などなら、準備する飼育費は任意で幅があり、これまでのケースでは1匹につき50~150万円が多数です。施設(老犬ホーム、老猫ホームなど)を飼育先に設定する場合は、その施設の規定に従います。平均で猫は200万円、犬は300万ぐらいです(犬種により幅あり)。

 この他に、契約書作成にかかる費用などが発生します。

ペットの情報を整理しておく

――必要な準備は?

 信頼できる第三者を探すことと、万が一の時の飼育先を決めること。あと、愛犬や愛猫の詳細な情報を整理しておくことをお勧めしています。

 私は通称「うちの子愛情ノート」を書いてもらうようにしています。迎えた時のことや名前の由来、病歴、性格、食べ物アレルギーなど、細かく記すものです。

 飼い主さんには当たり前のことでも、託される人は知らないことばかりです。スムーズに飼育を開始できるように、そして、ただでさえ飼い主さんと離れて新しい環境で、不安で体調を崩しやすい愛犬愛猫のストレスを和らげられるようにと作りました。

 市販のエンディングノートにもペットについて記すスペースがありますが、あれだけでは何も伝えられないと思いました。

「うちの子のこと 愛情整理ノート」(写真は磨田さん提供)
「うちの子のこと 愛情整理ノート」(写真は磨田さん提供)

――子供や知り合いなど、信託契約をする相手や飼育を託せる人がいない場合はどうしたらいいのでしょうか?

 その場合は「ファミリーアニマルサポート」制度をお勧めします(次回詳しく紹介)。私の運営する、福岡県古賀市の新しい飼い主を探す保護猫カフェ「Cafe Gatto(カフェガット)」を飼育先にしていただくこともできます。犬の場合、遠方の場合などはその地域の施設などを探すことになりますが、地域によっては紹介も行っています。

実際のケースは?

 基本情報がわかったところで、「ペット信託」を利用した方の具体例を紹介してもらいました。

 猫1匹と暮らす50代の独身女性Aさん。この方の場合は、病気になって愛猫を残していかざるを得ないと知り、色々調べた末に相談されたケースです。

 Aさんにはお兄さんがいましたが、愛猫を託すのは不安に感じており、友人との信託契約を選びました。飼育先は「Cafe Gatto」に決め、その引き受け費用=飼育費(一律で1頭150万/税別)を信託専用口座に用意。

 また、残すお金を愛猫に使うことを理解してもらうため、併せて公正証書遺言(※1)も作成し、お兄さんへの思いを付言事項(※2)で記しました。信託契約をしてくれた友人には遺贈(※3)でお礼をすることにしました。

 Aさんが亡くなった時、友人が手配し、すぐ猫を迎えに行くことができました。お兄さんは最初、自分がいるのに他へ猫を渡すことにも納得いかないようでしたが、信託契約書と遺言書を見せて話をしたことで、納得してもらうことができました。

「口約束ではなく、正式な書類をしっかり作ったことで、愛猫さんが路頭に迷うことはなく、その後の手続きもスムーズにすることができたと思います。今その愛猫さんは『Cafe Gatto』で元気に過ごしています」(磨田さん)

※1 公正証書遺言:公証役場で公証人へ口頭で内容を伝えて作成され、公正証書として役場に保管される。公証人への手数料、証人2名、証人への手数料が必要。
※2 付言事項:法定遺言事項以外に、遺言者の気持ちや相続人に伝えたいことを記すもの。
※3 遺贈:遺言によって、財産を相続人以外の人に贈ること。

すべての飼い主が考えるべきこと

「ペット信託」を考えるべきタイミングについて、磨田さんはこう話します。

「私は動物と暮らし始めるタイミングですべての人が考えるべきだと思っています。若くても万が一のことは起こりえます。そういう仕組みがあると知っておくこと、信託契約までしないにしても、もしもの時に誰に頼めるかを考え、確認しておくことは飼い主の愛情だと考えます」

あくびをしている犬
磨田さん宅の愛犬きなこちゃん。自身も犬と猫と暮らしている(写真は磨田さん提供)

「若い方でもおひとり様、ご夫婦でも50代以上の方は、真剣に考え、形にしておくことをお勧めします。実家がある、兄弟がいる、子どもがいる、といった理由で何もしていなかったら、実際に万が一の時がきたら『飼えない』となるケースは多々ありますので」

 なお、「ペット信託」の相談はコンスタントにあり、コロナ禍に入った昨年は特に問い合わせが多かったといいます。自分が入院、隔離になること、死亡することもあり得る状況が、「自分に何かあったら」と考えるきっかけになったのかもしれません。

 次回は今回のお話にも出てきた、「ファミリーアニマルサポート」制度についてご紹介します。

(次回に続く)

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石井聖子
猫依存症の名古屋在住ライター。幼少期は犬、亀、鶏、インコと暮らし、猫歴は30年以上。現在は3ニャンズ(と夫)と同居。さらにワンコも一緒に暮らすのが野望。夢は弱い立場にいる動物と子ども、全ての人が一緒に幸せになれる方法を見つけること。

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この連載について
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