小泉環境相と学生がガチンコ討論? 映画『犬部!』を獣医師の卵たちはどう見たか

 東北の大学に実在した動物愛護サークル「犬部」。その実話をもとに誕生した映画『犬部!』が7月22日、公開された。

 公開に先立ち、犬部の後輩たちにあたる獣医学部の学生たちと、同作の篠原哲雄監督、主演の林遣都さん、そして動物愛護を管轄する小泉進次郎環境相をオンラインで結んだ、特別イベントが開催された。

元保護犬・女優犬「ちえ」は小泉大臣がお好き?

 檀上にずらりと並んだのは、篠原監督、主演俳優・林遣都さん、そして小泉進次郎環境相。だが、集まった記者の関心は、もっぱら林さんがリードを握りしめていた、タレント犬のちえちゃん(11歳)に注がれていた。

 カメラの砲列が並び、フラッシュがまたたく。内気なちえちゃんは、落ち着かない様子だったが、小泉環境相がすぐ脇にしゃがんだところ、突然激しくしっぽを振って、飛びつき、顔をベロぺロと舐め始めたのだ。これには檀上のメンバーも報道陣も大笑い。

映画『犬部!』、主演の林遣都さんと、出演犬ちえちゃんになめまわされる小泉進次郎環境大臣
フォトセッションの雰囲気に圧倒されて、若干怖がっていたチエちゃん。すぐ隣に小泉環境大臣が座ると……この通り! 自然なチエちゃんのふるまいに、誰もが笑顔になった

「はーい。人間のみなさん、こちらに目線ください!(笑)」

 カメラマンからそんな声が飛ぶほど、和やかにイベントは幕を開けた。

これは犬の映画じゃない。人間たちのドラマなんだ!

 ステージ上とオンラインで結ばれた先には、原作「犬部!」の舞台になった、北里大学獣医学部の学生たちが。彼らの映画への感想や、制作関係者への質問からトークセッションは始まった。

Q.林遣都さんに質問。たくさんの動物たちと共演する上で、心がけたことは?

林遣都さん
「動物プロダクションの方々がお世話をする様子をよく見せてもらって、多くを学びました。とにかく話しかけてあげて、とアドバイスいただいたので『今朝、ご飯は何食べたの?』とか『そのドッグフードって、おいしいの?』とか(笑)。少しでも時間があればそばにいて、話しかけるようにしました」

小泉環境相
「我が家にも元保護犬のアリス(13歳)がいますが、ひと口に保護犬、と言っても、たどってきた道、保護犬になったいきさつは千差万別。中には人間を信用していなかったり、トラウマを抱えている子もめずらしくない」

林遣都さん
「そうなんです。ミックという子がいたんですが、その子は本当に憶病で。少しでも時間をみつけてはそばにいるようにして、少しずつ距離を縮めていきました。触れることもできなかったのが、やがて、そばに座ることを許してくれた。知らない人の姿におびえていたのに、僕といる時、知らない人が入ってきたら、僕のそばに身を寄せてくれた。『あ、認めてくれたんだ!』そう思ったあの瞬間は忘れられません。撮影が終わって東京へ戻るときも寂しくて寂しくて。共演者に対してあんな気持ちになったのは初めてでした(笑)」。

映画『犬部!』、主演の林遣都さんと相棒犬ちえちゃん
主役の花井颯太を演じた林遣都さんと、颯太の愛犬・ハナを演じたタレント犬・チエちゃん。チエちゃん自身、保護犬だ

Q.篠原監督へ。どうしてこの「犬部!」を映画化しようと思ったのか。

篠原哲雄監督
「元になったノンフィクション小説を読んで衝撃を受けた。まずはそこからです。犬の映画というと、ある犬が人間と触れ合う中に感動を見つけて描くことが多い。でも、この作品は『動物たちの幸せ』という大きな問題に取り組もうとする人間たちのドラマ。そこに惹かれました。あえて一人にスポットをあてるのではなく、さまざまな立場の、いろんな考えの人間を描くことで、この問題の難しさを考える、きっかけになるといいな、と思って撮影しました」

犬部創設から16年。動物愛護はどう変わった?

小泉環境相
「北里大学に犬部が誕生したのが2004年。この映画では、その後獣医師になって活躍する仲間たちの現在の姿も追っています。そこで、この16年の間に、動物愛護はどう変わったか。資料を用意しました」

全国の犬・猫の殺処分数の推移
全国の犬・猫の殺処分数の推移

改正動物愛護法 動物飼養管理基準の制定と強化
改正動物愛護法 動物飼養管理基準の制定と強化

「この期間中、動物愛護をめぐる状況は大きく変わっています。まず、グラフにある通り、殺処分数は12分の1にまで減少。

 そして、環境省としては動物飼養管理基準の制定と強化を続けている。具体的にはケージのサイズであるとか、飼養者ひとり当たり、何頭までの動物をお世話するのが適正なのか、など、基準値を数値化することで、動物の福祉にそぐわない事業者には明確なレッドカードを突きつけられるように、法整備をすすめている。

 動物虐待への罰則も強化された。ひとりでも多くの人にこの映画を通して動物愛護について考えて欲しいのと同時に、環境省が取り組みを続けていることも知ってもらえたらと思う。

 逆に、私から学生の皆さんに聞いてみたいんですが。環境省がこのような取り組みをしていることについて、獣医師を目指して勉強している、今後最前線に立つ予定の皆さんに、もっと知ってもらいたい。何を、どう発信すれば届くのだろうか?」

 この逆質問に答えてくれたのが、6年生になる中村さくらさんだった。

中村さくらさん
「大学という閉ざされた環境で、学生は勉強に実習に忙しい。正直なところ、今現在、省庁の動きがリアルタイムに届いているかといえば、課題は多い。実際、獣医学部は、むしろ農林水産省(畜産業に関して)とのつながりが濃厚なので……」

小泉環境相
「おおっと……! 確かに! そうでした! そう考えると、獣医学部は、農林水産省(畜産)、文部科学省(動物園あるいは獣医学教育)、厚生労働省(公衆衛生獣医師=食品安全対策など)、そして環境省(動物愛護、生物多様性)とも関わりがあるんですよね。ここへきて、縦割り行政の課題点が浮き彫りになっちゃったなあ……(笑)」

中村さくらさん
「各省庁の動きなど、学生にもぜひ届くべきと思う。それは月刊や季刊の冊子がいいのか、あるいは獣医学部の学生代表が集まる獣医学部生の団体があるので、そういう組織と省庁とで対話の機会を持つセッションを行うとか。そんな試みがあってもいいのでは?」

映画『犬部!』の篠原哲雄監督、主演の林遣都さん、小泉進次郎環境大臣
オンラインで北里大学獣医学部の学生たちとつながり、熱い討論を繰り広げた。

命に対して責任を持つ 誰もが向き合うべき問題に立ち返ろう

篠原哲雄監督
「各省とも、それぞれの立場で動物のことを考えている。今のは非常にいい議論だったと思いますね。立場ごとに接する側面は違っても、私たちが考えるべきは、立場を超越して、人として動物とどう向き合うか、ということ。人と動物が共に幸せになるにはどうしたらいいか。人として誰もが考える機会を持つといい」

小泉環境相
「この映画を観て、犬を飼おう・保護犬を引き取ってみよう。そんな風に思う人はきっと出てくる。素晴らしいことだけれど、ちょっと待って。終生、最後まで命に責任を持つ。それはそんなに簡単なことではない、ということを、一度立ち止まって、じっくり考えてみて欲しい。

 コロナ禍で、ペットを飼おうという人が増えている。その一方で、飼いきれなくなって手放そうとする人が増えている。こんな悲しい現実は、終わらせなくちゃならない。一人ひとりが考えなくちゃ、この問題は終わらない。理想と現実のはざまで悩む、学生たちの姿を描き切ったこの映画で、楽しみながら、動物たちの現在に思いを馳せてもらえればと思う」

林遣都さん
「不幸な動物たちを減らすために、僕ら俳優にできることはごく限られている。それでも俳優として、いち動物好きとして、誠心誠意、伝えたいと思って取り組んだ作品です。見た人がそれぞれの立場で、動物の可愛さに癒されながら、少しだけ考えていただけたら。と思います」

『犬部!』
2021年7月22日(木・祝)全国ロードショー
監督:篠原哲雄 脚本:山田あかね 原案:片野ゆか「北里大学獣医学部 犬部!」(ポプラ社刊)
出演:林遣都、中川大志、大原櫻子、浅香航大ほか
配給:KADOKAWA
『犬部!』公式ホームページ
(c)2021『犬部!』製作委員会

映画『犬部!』の特集はこちら

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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この特集について
映画『犬部!』特集
行き場のない犬や猫を救うために立ち上がった、現役の獣医科大学生たちの奮闘を描く映画『犬部!』が、7月22日に劇場公開! この特集ではキャストの林遣都さん、中川大志さんのインタビューなど、関連記事をお届けします。
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