思春期の失恋 「ボールで遊ぼう」慰めてくれたのは猫のアトムだった
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
慰めてくれる猫
内気だった高校生の頃の私は、好きになった男の子に好きな人がいると聞き、勝手に失恋をした。私は人に涙を見せるのがとても苦手だったから、部屋で一人、ひざを抱えて声もたてずに泣いていた。それに陽気で美人で失恋知らずの母や姉から慰められるのも、なんだか余計に傷つくから嫌だった。
「ことん」
ん?なに?
涙でくしゃくしゃになった私の目の前に、ジグソーパズルのピースがひとつ、落ちていた。不思議な気持ちで顔を上げると、トコトコと部屋の隅に向かう白いふわふわのアトムのお尻が見えた。
アトムはベッドの下へ手を入れて、お尻をふりふり、尻尾をふりふり、何かを懸命に引っ張り出していた。そういえば、やりかけのジグソーパズルをベッドの下に避難させていたなぁと、ぼんやり思い出していると、またひとつ、パズルのピースをくわえてアトムが戻ってきた。
真っ白で耳と尻尾に淡いグレーのポイントの入ったアトムは、ロシアの人みたいに透明度の高い薄いグレーの瞳で、心配そうな顔で私をじっと見つめた。
「もしかして、慰めてくれてる?」
びっくりして涙も引っ込んだ私を見て、アトムはうれしそうに今度はゴム製のスーパーボール(若い人は知らないかな)をドリブルして持ってきた。
たたーん、たたーん、たったたーーん。
転がってきたボールをつかみ「アトム、遊ぼう!」と言った私は、すっかり笑顔になっていた。
飼い主の変化に敏感な猫もいる
もしかすると「そんなアホなことあるかいな」と思うかもしれないけれど、これは本当にあったお話。もしこれが犬の話なら、すんなり納得なのかもしれないけれど、猫っぽい犬がいるように、犬っぽい猫もいるのだ。
人間と暮らす動物たちは飼い主の小さな変化にとても敏感で、心配したり励ましたりしてくれる。もしかしたら共同生活が得意な犬の方が、そういったことが顕著かもしれないけれど、普段自由気ままのように見える猫だって全然負けていない。
一度、夜中に自転車で転んで大怪我をした時も、最強にクールな猫が朝までずっと添い寝をしてくれて、痛みよりも添い寝の興奮でうまく眠れなかったし、腹痛の時に必ずおなかを温めに来てくれる猫もいた。
だからというわけではないけれど、小さな猫たちのちょっとした変化には、こちらもきちんと気付いていたい。体調管理はもちろんだけれど、数匹で飼っていれば全員が満足いくように遊んであげられず、1匹だけしょんぼりしていることとか、仲良しの猫の体調不良を伝えに来たりとか、細々したことを猫たちは真剣に伝えに来る。
忙しい日はつい「ごめん!あとで!」と言ってしまうから、なるべく要領よく仕事をこなしたいと日々思う。
でもこの原稿を書いている最中も、パソコンの前を猫たちが横切り、ちょっと席を外せばキーボードの上で眠っている。その様子についデレデレとしてしまい(そういう時間は飛ぶように過ぎて行く)、気づけば到底あらがえない睡魔が襲ってくる。うっかり昼寝をして、ぎょっとすることなど日常茶飯事だ……とか言い訳してないで、さくさく仕事、片付けようっと。
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