メリーさんの羊を熱唱!? 我が家の用心棒だったチワワの「ペーター」
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
我が家には、物心ついた時には犬がいた。「物心ついた時」とは、もう45年くらい昔になる。でもどんなに時間が経っても動物たちとの思い出は、いつでも鮮明に記憶の引き出しから飛び出してくる。
両親は最初にダルメシアンのラッキーと、チワワのペーターを飼い始めた。チワワの名前は、幼い私が好きだったアニメの「アルプスの少女ハイジ」の登場人物に由来しているらしい。そういえば私はハイジの関連商品として売られていた羊のぬいぐるみを、ぼろぼろになるくらいどこへ行く時も抱えていたから、そのアニメがよっぽど好きだったのだろう。
ラッキーは大型犬だったので、調教師さんが毎日のように来て散歩に連れて行ってくれた。そして私と姉でそれについて行き、ラッキーが子猫を見つけて連れて帰ってきたのが、初代の猫、トラとミーである。
それまでは庭に遊びにくる猫たちをペーターが指導し、よちよちと庭で遊ぶ私がケガをしないようにしてくれていた。
ペーターは家の中と広い庭を自由に走り回っていたので、散歩は不要だった。チワワにしてはガッシリと筋肉質で、私にとって本当に頼もしいお兄ちゃんだった。
その上、とても優しくて、家族みんなが耳をふさぐようなひどいピアノの練習に付き合ってくれて、私がくじけないように応援してくれた。バイエルのようなつまらない曲の時は、近くのソファでじっと聞いているのだが、私が休憩に「メリーさんの羊」を弾き始めると、庭に出るガラス戸から外に向かって「アオーーーーン、ウォーーーーーン」と楽しそうに歌ってくれた。
その歌声は近所に迷惑にならないくらいのほどよい音量で、時々私の方を振り返りながら歌うペーターは、最高の相棒だった。
結局「メリーさんの羊」以外、全く上達しなかったし、今では楽譜を読めるかどうかも怪しいけれど、それにはもう一つ理由がある。ピアノは、そのあとどんどん増えていく猫たちに、いつも占領されていたからだ。
昔はキャットタワーなんてなかったので、程よい高さと段々があって、木のぬくもりもあって、その上、すぐ近くには必ず布張りで横長の椅子があるなんて、猫にとっては最高の遊び場兼寝場所だった。布張りの椅子にはすてきな刺繍(ししゅう)が施されていたが、あれよあれよという間に格好の爪とぎとして活躍し、ボロボロになったので、これまたすてきな布がかけられるようになった。
高校生までピアノの家庭教師が毎週木曜日に来ていたが、そんなわけで私はその先生が満足いくような練習量は確保できなかったので、いつも木曜日は逃げ出したいような気持ちだった。
中学生になる頃にはもうペーターは虹の橋を渡ってしまっていたけれど、木曜日が来るたびに、「ああ、ペーターと一緒に『メリーさんの羊』だけ、ずっと弾いていられたらいいのに」と思いながら、きりきりと痛むおなかをさすっていた。
その後、大学進学の勉強が忙しくなることを理由にようやく恐怖の木曜日から解放されたけれど、私に天賦の音楽の才能があったら、ペーターともっと違う曲を一緒に楽しめたのかもしれない。でも、いつかまたペーターに会えたら、私はやっぱり「メリーさんの羊」を弾いて、今度は思う存分大声で2人で合唱したいと思っている。
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