パーキングビルに捨てられた子猫姉妹を迎えた一家 「あの子の分まで元気に生きて」

 夜のパーキングビルに、段ボール入りで捨てられていたのは、目が開いたばかりの子猫3匹。見つけた若者は「拾い猫厳禁」を父から言い渡されていたが、放っておけずに持ち帰って育て始める。やがて3匹は、譲渡先を見つけるため、海辺のNPOへ。子猫を迎えたいとお見合いにやってきたのは、悲しい出来事で愛猫を失って立ち直ろうとする一家だった。

(末尾に写真特集があります)

笑顔が戻った「猫のいる暮らし」

 小学5年生の直矢くんは、子猫をひざの上に乗せて、ニコニコが止まらない。学校からは小走りに帰ってくる。帰宅は直矢くんが一番早くて、母の希(のぞみ)さんの帰宅時にはすでに、2匹の子猫たちのお水もトイレもきれいにしてある。

 中学3年生の智騎(ともき)くんは、受験生。テニス部の部活は7月で卒業だが、勉強と部活で疲れた頭と体を、子猫たちがたちまちリフレッシュしてくれる。

2人の男の子と2匹の猫
まろんちゃんにほおずりする直矢くんと、くるみちゃんをなでる智騎くん

 姉妹猫の「まろん」と「くるみ」は、5月の末にやってきたばかりだ。

 希さんが職場に、兄弟が学校に行っている間は、サークル内で遊んだり眠ったりしているが、誰かが帰ってくると、サークルから飛び出してくる。智騎くんも直矢くんも、「遊んで、遊んで」と見上げる顔が、もう可愛くて可愛くてたまらない。

 先住猫とあんな別れ方をして、もう猫を飼うのはつらすぎると思っていたけれど、やっぱり猫は可愛い。猫のいる暮らしはいい。その思いは、3人とも同じだ。

2匹の子猫
一見そっくり。よく見ると違う。どっちもおんなじに可愛い!

夜のパーキングに捨てられて

 まろんとくるみは、南房総にある町のショッピングセンターのパーキングビルの上階に捨てられていた子猫3匹のうちの2匹だ。

 その階に車を止めていて、帰りがけに子猫の鳴き声に気づいたのは、判澤さんという22歳の青年。壁ぎわの暗がりに置かれた段ボール箱から、鳴き声は聞こえる。雨風が吹きすさぶ夜だった。

 中をのぞくと、まだ目もよく見えていないようなキジトラが2匹と、茶トラが1匹いるではないか。

「ああ~っ!と思いましたよ。おやじから『猫は拾ってくるな』と厳命されているし、放ってはおけば死んじゃうし」

 前にも、あとをついてきた子猫を連れ帰ってしまったとき、父は烈火のごとく怒った。が、その猫「寅次郎」はちゃっかりと居着き、いまや大猫となって、気が向くと家業である理容店の待合室に寝そべっている。

 子猫を3匹も連れ帰ると、案の定、父は怒って「家を出ていけ」とまで言った。それでも、最後は父に許してもらい、判澤さんが仕事場にいる日中は妹がミルクを飲ませてくれた。そして、2カ月後、譲渡先を見つけてもらうために、保護活動を夫妻で続けているNPO「ドリームキャット」の千鶴子さんにバトンタッチできた。

3匹の子猫
保護直後の3匹(判澤さん提供)

 判澤さんは言う。

「文句を言いながらも育てることを許してくれた父と、大協力してくれた妹に感謝です。子猫たちを送り出した後の寂しさは、家族全員のものでした。父はいつの間にか子猫たちを可愛がるようになってましたから(笑)」

「次の猫を迎えたら?」

 子猫たちを預かった千鶴子さんは、顔見知りの希さんに声をかけた。

「次の猫を迎えたら? いま、子猫が3匹いるわよ」

 千鶴子さんは、希さん一家の深い悲しみを知って、そう勧めたのだった。

 一家は、希さんが保護した「りん」という茶白の雌猫を亡くしていた。

 おととしの8月に、交差点で車にぶつかり、道路脇の車の下に隠れていた生後8カ月くらいの猫だった。夜間救急の動物病院に連れていくと、肺から出血してて「今夜がヤマかも」と言われたが、一命をとりとめた。

コタツと猫
りんは、愛らしい猫だった(希さん提供)

 後遺症もなく、元気になったりんちゃんだったが……。翌月、大きな台風が南房総を直撃。家は半壊して住めなくなった。

 どうしても、「猫可」のアパートがなくて、家を建て直す間、知り合いにりんちゃんを預けることにした。

 建て直し中の昨年8月。りんちゃんを預けた家で、家人みんなが外出中に、その悲しい出来事は起きた。漏電からガスボンベに引火し、家はあっという間に焼けてしまったのだ。りんちゃんは、助からなかった。

 事故に遭い、がんばって生き返った命なのに、守ってあげられなかった。可哀想で、つらくて、3人でおいおいと泣いた。

「でも、何か月たっても泣いてばかりいる私をこれ以上悲しませまいと、智騎は言いました。『僕は、りんちゃんが死んだとは認めていないよ』と。ふたりとも、私の見ていないところで、そっと涙を流していたと思います」

 涙をにじませて、希さんは語ってくれた。

りんちゃんの分まで元気に

 壊れた家の跡に新しい家が建った。千鶴子さんから「猫を迎えたら」と勧められて、一家はじっくり話し合った。そして、決めた。

「りんちゃんの分まで、今度はしっかり育てよう」

 お見合いの日。りんちゃんと同じ女の子を1匹、の予定だった。

 だが、兄弟は、それぞれ姉妹を抱いて、もう手放せない。

「学校に行かなくなってしまうんじゃないかしら」と心配しながらも、希さんは思いきって姉妹2匹を迎えることとした。立ち会った判澤さんは、姉妹がこの上なく可愛がられることを、兄弟のうれしそうな様子から確信したという。

家族と猫
笑顔を取り戻した一家

「ここのおうちに来てよかったと、2匹には思ってほしい。りんちゃんの分も、元気につよく生きてほしい」

 そう、希さんは願っている。きっと、りんちゃんも空の上で、お母さんたちが笑顔で過ごしているのを見て安心しているに違いない。

 まろん・くるみ姉妹といっしょに捨てられていた茶トラの男の子も、都内にもらわれていき、可愛がられて暮らしている。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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この連載について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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