数値規制の「解説書」案、書きぶりに懸念点 これでは猫の酷使は防げない

繁殖業者のもとにいる猫
繁殖業者のもとで繰り返し交配、出産させられている猫(動物愛護団体提供)

 環境省の「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」が5月17日に開かれ、懸案だった犬猫の繁殖業者やペットショップに対する数値規制(飼養管理基準省令)についての「解説書(仮称)」の内容がほぼ固まった。今後、検討会座長の武内ゆかり・東京大学大学院教授(動物行動学)と環境省動物愛護管理室とで最終的な詰めを行ったうえで、6月1日の省令施行までに公表することになるという。

数値規制の運用、解説書の書きぶりがカギ

 この日明らかになった案を見て、悪い意味で驚いたことがある。私はこれまで、今回の規制には具体的な数値ではなく文章で規定されたものが多く含まれていて、そのあいまいさから、規制の実際の運用にあたって解説書の書きぶりが重要なカギになると、指摘してきた。

 特に問題視していたのは、日照時間が長くなると発情期がくる季節繁殖動物である猫に照明をあて続け、「酷使」することを防ぐための条文で、「自然採光または照明により、日長変化に応じて光環境を管理すること」などとなっていた。

 この条文を業者が守っているかどうかを、実際に業者の監視・指導にあたる自治体職員はどのように確認すればいいのか。環境省がこの日示した解説書案には、「猫で年2~3回を超えるような繁殖が見られる場合は、適正な光環境の管理が行われていないものとして、勧告や命令の対象になる場合がある」と書かれていた。

「年3回」出産が追認される懸念も

 だがこれでは、猫の酷使は防げない。

 以前に取材した一般財団法人「日本小動物繁殖研究所」代表の筒井敏彦・日本獣医生命科学大学名誉教授は、猫の繁殖について次のように説明していた。▽雌猫は1日8時間以下の照明(日照)では発情せず、12時間以上の照明(日照)では発情する▽交尾した日から67日目前後に出産する▽子猫に母乳を与えている間はホルモンの影響で母猫の発情は抑制される▽子猫が離乳するとその2~8週間後に再び発情期がやってくる――。このため本州の気候では、春と秋、年2回の出産が一般的になるわけだ。

 だからこそ繁殖業者は、繁殖用の雌猫に1日12時間以上照明をあて続け、本来なら日照時間が短く発情しない冬場も含めて1年を通じて発情するようにする。早く離乳させれば、そのぶんだけ早く次の発情期がくることから、業者によっては社会化期など考慮せずに子猫を無理に母猫から引き離すところもある。そうして雌猫に継続的に、年3回ペースの交配、出産をさせ、子猫の「増産」をはかるのだ。

 環境省が17日に示した解説書案の書きぶりでは、この「年3回」の交配、出産が追認されてしまうのではないだろうか。そうなれば、業者のもとにいる猫は、生後8カ月くらいでくる最初の発情期から、最後の出産を終えて引退する7歳までの間、最大18、19回程度の出産を強いられることになってしまう。

猫の飼育環境向上へ対応を

 検討会が終わったあと、環境省動物愛護管理室に取材すると、こう説明した。

 「年2回が普通であり、『うちの猫はみんな毎年3回産むんだ』などという業者がいたら、それはおかしい、(当該条文を遵守しているかどうか)あやしいから、(自治体職員は)出産日を確認したらいい、というニュアンスのつもりだった。(2022年6月に)マイクロチップの装着が義務化されれば個体管理がより確実にできるようになるから、その段階でもう少し詳しく書き込んだ施行通知を出すことなどを検討したい」

 だが解説書の書きぶりが現在の案のままでは、業者に対する監視・指導の現場で誤解と混乱が起きる可能性が高い。省令は、経過措置を設けられた一部の規制をのぞいて6月1日に施行される。繁殖業者のもとにいる猫の飼育環境を確実に向上させるために、環境省には早急な対応を期待したい。

【関連記事】数値規制で自治体職員は効果的な監視や指導が行えるか? カギは「解説書」

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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