初めて飼った猫を亡くし落ち込む女性 周囲の支えと勧めで2匹の子猫を迎えることに
スナックのママが愛した猫が、病名もわからぬまま10歳足らずで旅立った。ひどく落ち込むママを、家族、獣医師、動物看護師の友人、店のお客さんも心配し、支え……ついに次の猫を迎えることができた。しかも今度は2匹一緒。ママの自宅を訪ねて、新たな生活や、猫への思いを聞いた。
まさに猫中心
5月半ば。黒猫「ヤソ次郎」とキジ白「パリ之進」の2匹の兄弟猫が住む部屋を訪ねた。
広めのワンルームに、キャットタワーが4つ、猫トイレが3つに、大きめのケージ。
「まさに猫中心。私は猫の部屋に住まわせてもらっている感じですよ(笑」
そういって、飼い主のシロミさんがほほ笑む。
シロミさんは新宿・歌舞伎町にあるスナック「木天蓼(またたび)」の店主。今はコロナでやむなく休業中だが、兄弟猫はそんなシロミママを家で日々、癒やしているという。
「ちょうどこの前、妹夫婦を呼んで2匹の1歳の誕生会をしたんです。こんな風にまた笑って猫と暮らせると思わなかったし、感慨深いな」
そう言って、シロミさんは部屋の一角に目をやった。そこには黒猫の写真と白い骨つぼが置かれていた。
先代猫が原因不明の病に
ヤソ次郎とパリ之進を家に迎えたのは昨年6月。その11カ月前の2019年7月まで、シロミさんは雄の黒猫、アサジと暮らしていた。
シロミさんが説明する。
「アサジは私にとって初めての猫でした。もともと猫に興味はなく、とくに黒猫は得意でなかった。でも元婚約者が猫好きで、結婚するなら一緒に飼おうよということになって……」
保護猫サイトを見ていたら、苦手なはずの黒猫にシロミさんはひと目ぼれ。縁を得てアサジと暮らし始めたが、その後、彼と別れることになった。シロミさんはアサジの“親権”をもらい、引き取ることにした。
「優しい猫でいつも鼻チューをしてくれた。依存といっていいほど、夢中になりましたね」
アサジは、シロミさんの妹ヨーコさんにも愛された。ヨーコさんは2011年の東日本大震災後、ふだん首輪をつけないアサジのために「避難時もすぐつけられて、どこにもないオシャレな首輪」を考案。ネットショップ「innit」で販売までするようになった。
そのまま平穏な暮らしが続くと思われたが、アサジは9歳になって、体調を崩した。
せきをして、後ろ脚を引きずり、食欲を失い、どんどんやせていく。だがシロミさんが病院で検査をしてもらっても、「わからない」と、たらい回しのようになった。
途方にくれるなか、シロミさんは、猫を専門に診る動物病院「猫の病院シュシュ」で動物看護師をする友達の、のりかさんを頼った。
「もともと妹の友人でしたが、困ったら連絡してと言ってくれていて。私の家から距離があるのでなかなか行かれなかったのですが、駆け込みました」
ペットロスを周囲が心配して
今回の取材には、のりかさんが同席し、病院での様子を振り返ってくれた。
「アサジはうちの病院に来た時、もう立てない状態でした。当時のシュシュの阿部麗先生がアサジを預かったのですが、検査できないほど状態が悪く、すぐに酸素室に入りました。2日後、危ないという時にシロミさんを病院に呼んだら息が止まり、先生が心肺蘇生をしたら、シロミさんを見ながらアサジが奇跡的に息を吹き返して……家に帰ることができたんですよ。アサジとの絆を感じた瞬間でした」
アサジが戻ったシロミさんの家に、妹夫妻も駆けつけた。すると、目を見開いてふたりの顔をみつめてナア~ッと大きい声を出したという。アサジの体に激痛が走るようだったので、シロミさんは刺激をしないように、ただそっと、鼻の頭やおでこをなで続けることしかできなかった。
「息を引き取ったことを確認した直後に、やっと抱き上げることができて、長い長い鼻チューをしました……」
生まれて初めて愛した猫の死。シロミさんは「努力したつもりでも足りなかったのかも。家猫で9歳は若い……」と悔いた。
一方、最後にアサジを診た阿部先生も、「もう少し早く来てもらえたら……」と悔やんでいたそうだ。
のりかさんが続ける。
「阿部先生はアサジが亡くなった後、シロミさんに『保護した黒猫をいつかたくしたい』とおっしゃっていました。じつはシロミさんの妹さんにも、『姉は自分からは探そうとしないだろうけど、黒猫がいたら姉に教えて』と私は頼まれていたんです」
アサジをなくしたシロミさんは、悲しい気を紛らわせるように店に出ていたが、猫好きの客に別れのつらさを吐露して泣いたり、泥酔して帰宅し、骨つぼを抱いてさらに号泣するなど、気持ちが揺れていた。
1匹のつもりが2匹に
シロミさんの心を動かす知らせが届いたのは、昨年5月20日。
阿部先生の友人の獣医師(兵庫在住)から、「保護された黒猫の子猫がいる」と連絡があったのだ。その写真が阿部先生へ、そこからのりかさんを介し、シロミさんの元に届いた。
アサジが旅立って10カ月経っていたが、シロミさんは「ついにこの時が来たのか」と思ったそう。
「黒猫と2匹のキジ猫の3きょうだいで、キジ猫の1匹は、飼い主が決まったということでした。私ははじめ、黒猫だけもらおうかと思ったのですが、どうも様子が違うんですよね」
シロミさんは、迎える時期をずらしていつか2匹飼うつもりでいた。同時に2匹迎える自信がなかったからだ。しかし、気持ちが変わってきた。
「私のラインに、やたらと黒とキジの2匹の写真が届くわけです。なんだか見ているうちに、キジにも愛着がわいてきて……『兄弟で飼わせよう』と周りは計画的だったんですね!確かに2匹だと社会性が付きやすいし、複数だとこちらの依存度合いも減るだろうし。プロフェッショナルな方たちに、はめられた感じです(笑)」
まさにその通り、周囲の人々は猫の幸せはもちろんのこと、シロミさんの幸せを願って善意の企てをしたのだ。そして、写真を初めて見てから1カ月後、子猫が「猫の病院シュシュ」に届けられた。アサジと最後に駆け込んだ場所だ。
「阿部先生が(兵庫から)グリーン車で子猫をシュシュまで連れてきてくださり、どきどきしながらシュシュに迎えに行きました。まあ可愛くて……その時、(看護師の)のりかさんは私の家まで付き添ってくれました」
猫との暮らしを再開
こうして始まった猫との2度目の暮らし。思ったよりもスムーズだったようだ。
「なれるまではケージにいれて、たまに外に出しながら2本のじゃらしで遊ばせて。小さな頃から人になれさせようと、意識的に友達をたくさん家に呼びました。性格は、黒のヤソ次郎のほうが人に対してシャイ。キジのパリ之進はおおらかですね」
猫たちをなでるシロミさんの表情は、穏やかだ。
「2匹いると仕事の時も気持ちが楽だし、2匹だと想定外のことが起きて面白い。この子たちに楽しく健康に過ごしてもらえるように部屋の工夫をしながら、生活を楽しんでいます」
若い2匹はシロミさんの愛を受けて、そして周囲に見守られながら、頼もしく成長していくことだろう。
シロミさんは、時々ヤソ次郎をアサジと呼ぶこともあるという。最近、似ている面も見つけた。
「名前を間違えると、両方にゴメンって思う。でも、アサジの毛で涙を拭いた日はあったけど、ヤソとパリの毛で涙を拭くことはない。“猫がつないだ方々”との縁に感謝して、アサジにも言いたいな。今の日々も、こんなに猫が好きになったのも、貴方のおかげです。ありがとう」
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