路上で保護されたビビりの子猫 初めはシャーッと威嚇、いまではすっかり甘えん坊に

 捨てられて首に傷を負った子猫が、保護されて、予約制フラワーショップのオーナー宅に迎えられた。小学生の長女が付けた名は春の七草でもある“なずな”。なずなはいつしか家族の中心的存在となり、路上で震えていた生活が一転、毎日が花のように明るく色づいていった。その暮らしぶりを聞いた。

(末尾に写真特集があります)

猫部屋と事務所を兼ねる

「ここが、なずな部屋兼、私の事務所。家族みんなで代わる代わるお世話をします」

 すっきりと片付いた洋間で、フラワーショップのオーナー、吉留さんが説明する。

 吉留さんの横で、小学5年生の長女が茶白の猫を大切そうに抱いている。なずなとは”姉妹のような仲“だという。

「なずなが来てから楽しくて!学校から帰るとこの部屋に直行して、世話をしたり遊んだり、たまにここで宿題したり(笑)。夜はお母さんと猫話で盛り上がることも多いです」

なずなを抱く10歳の長女「私があなたのお姉ちゃんよ」

 吉留さんがオーナーを務める「NATURAL FLOWERS」は、予約専門で店を持たないスタイルのフラワーショップだ。法人向けやイベント、ウェディング用などの花を作る仕事がメインで、生け込みをする事務所は家の近くにある。夕方、仕事場から戻ると、なずなのいる部屋で事務仕事をするという。

「なずなを事務所の店長と呼んでいますが、なにか仕事をするわけではなく、癒やし担当です(笑)。リラックスした姿をみると疲れがとんでいく。我が家に慣れてくれて本当によかった……」

急所をかまれていた

 なずなは今、生後9カ月。吉留さんの家にやってきたのは、昨年10月だった。

「独身の頃はオス猫を飼い、結婚して長女が生まれる前はフレンチブルドッグを飼っていました。犬や猫が欲しかったので、タイミングを待っていて。娘も大きくなり、お世話ができる年齢になったので、保護猫ちゃんを迎えたいと思ったんです」

 譲渡会に足を運んだこともあるが、縁がなかった。その後、保護動物のサイトに気になる猫がいて、ボランティアに連絡してみたのだという。すると、「その子の譲渡先は決まったけれど、他に紹介したい猫がいる」と提案された。

「家族で、猫を保護するボランティアさん宅にお邪魔しました。なずなをみて、娘も夫も私も、みんなそれぞれいとしい気持ちでいっぱいになっちゃたんです。なずなの保護時の話に、切なさもこみあげました。会った時は目立ちませんでしたが、けがもしていたようです」

 なずなの保護時の推定年齢は生後4カ月。元々飼い猫だったのに、とつぜん遺棄されてしまったとみられる。

 捨てられたなずなは、町をさまよううちに地域猫のテリトリーに入り、攻撃されたようだ。

車と猫
停車中の車の下に出入りするなずな(猫部はなはた提供)

 ボランティアによると、のどにかまれた痕があり、そこからうみが大量に出ていた。点滴と抗生剤で治まったが、首は急所だ。位置がずれていれば命を落とした可能性もある。

 そんなつらい体験をしたせいか、なずなはビビりな面があった。吉留さん宅に来た当初、耳を後ろに伏せてシャーシャーと威嚇を繰り返した。

「なずなも仲よくするきっかけがつかめないようでした。二日くらい、誰も見ていない時に食べたりしていて。でも夫がその後、思い切って抱きあげると、なずなは“なに?でも大丈夫かも”という感じでリラックス(笑)。それを機にシャーがのどのゴロゴロに。私たちの手を見ても怖がらないので、外で人からの虐待は受けていないんだなと思いました」

 前に飼った猫は、“俺様に従えよ”というツンツン男子だったが、なずなは控えめな甘えん坊女子。家族の側にいること、抱かれることが、どんどん好きになっていったという。

「捨てられた命がのびのびとしていくのが、目にみえてわかりました。我が家で大事に命を守らなくては、とあらためて思いましたね」

家族をひとつにするルール

 吉留さんの家族は、猫を育てるためのルールを作った。長女を中心にして考えたものだ。

〈なずなの約束事〉というのがそのルールで、部屋の壁に貼ってある、その内容は、「朝」「夜」「入る時」「出る時」と4つに分かれている。

約束事
壁に貼ってある〈なずなの約束事〉

 猫のお姉ちゃんでもある長女が、その内容を説明してくれた。

「たとえば朝は、ごはんをあげて、トイレが汚れていたら、最初に気づいた人が片付ける。なずなはいつもこの部屋のケージで寝るので、夜、電気を消してあげる。でもまっくらはこわいだろうから、小さいライトをつけます。水とごはんのチェックもして、なずな用の毛布についたリボンが取れてないか確認します。なずなはリボンが好きでいたずらするので!」

 なずな部屋に入る時は、ドアと窓をきちんと閉める。もしソファでバリバリ爪を研ぐようないたずらをしたら、いつもより「低い声で注意する」という。

「ふだんと声の感じを変えて、なずなーと言うと、効果があるの(笑)。家族が部屋を出る時は、飛び出さないようにケージの4点(隅や上のつなぎ目のところ)のチェックが必須。あと、出しっぱなしの遊び道具をしまったり、ドアと窓を必ず閉めるのも大事……」

 これらの決まり事を守ることで“家族がつながった”と、吉留さんがいう。

「これまでは、家のルールというのがそれほどなかったので、なずなのお世話を通して家族がひとつになれるなと感じています」

首飾りをした猫
造花でこしらえた可愛い首飾り「似合う?」(吉留さん提供)

いつか妹か弟を

 なずな部屋には、ふだんは花を置いていない。猫に害になるものもあるからだ。インスタには美しい花々が紹介されているが、“猫と一緒”のショットは少ない。

「とくにユリとかスズラン、あじさいなどが一般的にNGといわれます。観葉植物も中毒を起こしますね。深く追うとほとんどのお花がだめなようですが……ガーベラは猫に大丈夫な花といちおう認められているので、先日、一緒に撮ってみました。興味津々でしたね」

 ところで、なずなという名前は可愛いルックスにぴったり。春の七草のひとつだが、命名したのは花のプロであるお母さんではない。

「占いで決めた!」と長女がいう。

「最初ね、ふくとか、よもぎとかさくらとか、いろんな候補があったんだけど、(生まれた月で)星座占いをしてみたら なずなが幸せになる感じなので決めました」

 まだ1歳に満たず、いたずらをよくして、お姉ちゃんに“低い声”で注意されることもあるなずなちゃん。いずれは、きょうだいを迎えたいと家族で話し合っているそうだ。

「私が6年生か中学1年生くらいになったら、猫の妹か弟がほしい。その頃には、なずなも少しおちついているだろうから。なずなとはこれからもずっと一緒だから、楽しみ。なずな、生まれてきてくれてありがとう」

 そう言って、大事な妹をもう一度やさしく抱き寄せた。

吉留さんのお店のサイト

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は18歳の黒猫イヌオと、4歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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