へその緒が巻き付き脚先を失った子猫姉妹 同じ家に迎えられ元気に成長

 駐車場の2階の倉庫から、生まれて間もない1匹の子猫が落ちてきた。直後に2階の壁の隙間で2匹見つかり、3姉妹だったことが判明。2匹はへその緒が脚に巻き付き、先端を失っていたが、病院の処置とボランティアのお世話で元気に成長した。2匹を家族に迎えた事業所の女性に、話を聞きにいった。

(末尾に写真特集があります)

黒猫が上から落ちてきた

「さっき、お昼寝を始めたところです。黒がうにで、三毛がララといいます」

 足立区の岸さんのお宅を訪ねると、居間のケージの中に2匹の小さな猫がいた。くっつくように寝ていて、とても可愛い。

「生後約2カ月ですが、ミルクが大好きでまだ半分離乳できなくて(笑)。通勤時に一緒に連れていっているんです。理解のある職場でありがたいです」

2匹の猫
同伴出勤した職場で。ハンモック風にしたキャリーでくつろぐ2匹(ハンド・イン・ハンド提供)

 岸さん(54歳)が子猫に会ったのは3月末。事務員として働く介護事業所「ハンド・イン・ハンド」の駐車場だった。

「夕方、『子猫の声がする』と社長に呼ばれていくと、駐車場の2階の倉庫付近から鳴き声が聞こえました。『母猫がお乳をあげているはずだし、様子をみましょうか』と話し、シャッターを下ろすと、(シャッターの引き込み口の上にいたのか)黒猫が地面にぽとんと落ちてきました」

 落下による怪我はなかったが、黒猫の足にはひも状の物が巻き付き、左の後ろ脚は皮一枚でつながり、ぶらぶらしていた。

 岸さんは、慌ててタオルに包んで、動物病院に駆け込んだ。待合室で待っていると、そこに会社から連絡があり、「2階を捜索したら、あと2匹、三毛猫が壁に挟まっていた」という。

黒猫の子猫
保護して間もないうに(大師前どうぶつ病院提供)

 三毛猫の1匹は、やはり「後ろ脚がない」というのだ。

「その時、たまたま待合室にいた小川さんという猫好きな方が、一緒に会社まで来てくださいました。日ごろから猫の保護もされていて、私の様子をみて心配してくださって……」

 そして、一緒に2匹を連れて病院に戻り、3匹の姉妹猫を先生に診てもらうことにした。

へその緒が巻き付いてた

「先生の見立てでは生後2週間。うにのぶらさがった脚は切って縫合してもらいました。ララの脚はもものあたりから下がなくて、でも切断面が乾いていたので、そのままで大丈夫でした。もう1匹、後に小町と名付けられた三毛は、体も大きく元気でした」

 獣医さんによれば、うにとララの脚に巻き付いていたのは“へその緒”だった。出産の時にたまたま起きた事故のようだ。

「うには肺炎を発症していたので入院、そのあと看護師さんのお宅でミルクをあげてもらうことになりました。ララと小町は、(待合室で出会った)小川さんに託しました」

 去年も、岸さんは子猫が見つけたが、とても弱く、ミルクをうまく飲めずに死んでしまった。その話を聞いて、小川さんが「ミルクをあげる間はうちで預かりましょうか」とボランティアを申し出てくれたのだという。

三毛猫
ララもうにもジャンプできないため懸垂でよじ登る

 まさに善意のリレーだった。社長が鳴き声を聞きつけ、岸さんが病院に運び、看護師とボランティアが数時間おきにミルクをあげて……命がつながれていった。

「小町はすぐに会社の関係者に譲渡が決まりました。うちには4歳の先住猫メイがいますが、“うにとララを引き取りたい”と思っていました。迷いもありましたが……」

同じ障害なら同じペースで遊ぶはず

 迷った理由はもちろん脚のこと。今後、介護が必要なら“2匹一緒”だとかえってかわいそうなことをしてしまうのではないかと岸さんは懸念し、獣医師に相談した。

 すると「2匹一緒でも問題はない」という返事だった。預け先からも、「トイレがちゃんとできる」と報告を受け、よし迎えよう!と岸さんの気持ちは固まった。

「成長していく中で手術が必要になるかもしれないと先生にお聞きしましたが、それは、それぞれケアしてあげればいいと思ったし、同じ障害を持っている姉妹なら、“同じペース”で仲良く遊べるのではないかと思いました」

 そして、4月末、うにが家にきて、約2週間後、ララがやってきた。

「1日だけ(譲渡前の)小町も家で預かり、3姉妹がそろいました。最初、うには戸惑っていましたが、夜にはみなと仲良くなりました。特にうにはハイテンションになって(笑)」

遊び回る2匹(岸さん提供)

 2匹とも歩く時はひょこひょこ足を引きずるが、気にしていないようだった。

「3匹いた時に気づいたのですが、小町のように、2匹はジャンプができない。少し高いところに乗る時は、前脚で懸垂のよう体を持ち上げるんです。でもそのほかは、ふつうの猫と変わらないし、2匹が抱き合って寝ていると本当に可愛くて……」

家の中が再び明るくなって

 じつは、去年まで、岸さんの家には、そらという名の雄のミニチュアダックスフントがいた。3月に17歳で旅立ったという。

「2匹が今いるこの居間で、半年くらい介護をしていました。長く一緒にいたからやはりさみしくなりましたね。猫のメイが心の支えになってはいたけれど……」

 メイは、4年前に同じ職場で赤ちゃんの時に保護した猫だ。そらが興奮するため、同じ空間での生活ができず、メイは岸さんの次男の部屋で暮らしていた。だがその次男が、今春、仕事のため他県に引っ越すことになった。

「長男は4年前に家を出て、去年そらが旅立ち、この春に次男が家を出て。夫婦とメイだけになり室内が静かになりました。そこに子猫2匹が来たから、一気に明るくなりました(笑)。夫婦の会話も増えましたね。食事の準備をしている時など、主人が危なくないように子猫をみてくれるので助かります」

2匹の子猫
「あたしたち、元気です」

 50代の岸さん夫妻にとって、うにとララは“たぶん最後のペット”と自覚しているが、出会いに不思議な縁を感じているそうだ。

「長男が家を出た直前にメイが来て、次男が家を出る直前に、うにとララが来ました。家族が家を離れるタイミングで、続けて猫が来るなんて、天からの贈り物じゃないかしら。うには本当に上から降ってきたけど(笑)」

 昼寝から目覚めて、ケージから出た2匹は、居間で元気よく追いかけっこをはじめた。それぞれが、ぴゅーんと予想以上に速く走る。その様子を、岸さんが優しく見守っていた。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
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