愛犬の激しい尻尾追いと、あきらめず向き合った1年 家族に笑顔が戻り、涙の“卒業”
柴犬に多い「尻尾追い」が悪化し、ついに自分の尻尾をズタズタにしてしまった黒柴の子犬。絶望しかけた家族が救いを求めたのは、UG DOGSアトラスタワー(以下UG)の高橋信行店長だった。犬が変わり、家族が変わり、再生した道のりを追う。
激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。
「犬を、犬の力をもっと信じて!」
(前回のお話はこちら)
「あきらめるのは早い。僕にやらせてください」
自らの尻尾を噛み壊してしまった柴犬のポワくん。柴犬ならではのフサフサの尻尾はハゲてしまい、ズタズタに噛みまくった傷口は痛々しかった。「でも」と店長は言う。
「ご家族、特に絶望しているお母さんの方が痛ましかった」
ポワくんの印象はこう振り返る。
「確かに過敏で、その上強くて、触ろうとするとキレる。柴犬あるあるです。ただ、基本的には明るく、何より頭がいいな、と」
それまで、ひどい尻尾追いをする子や尻尾を食いちぎってしまった子を何匹か見てきた店長は、「正直、1週間では厳しいケースもあります。でも、ポワくんには深い闇を感じず、さらにまだ月齢3カ月だったこともあり、いけるかなと思いました」。そして、お母さんにこう告げる。
「いろいろやった上で薬を飲むならまだしも、ポワくんはまだ何もやっていない。あきらめるのは早い。間違いなく厳しい闘いにはなります。でも、僕にやらせてください」
お母さんは「暗闇の中にわずかな光が見えた。店長の力強い言葉に救われました」と振り返る。
断尾手術からの回復を待ち、お泊まりへ
ポワくんの傷の状態が落ち着くのを待ち、社会化お泊まりに参加することが決まった。ポワくんはストレスもエネルギーも小さな体の中に溜め込んでいる状態だったため、「とにかくお散歩で発散させて、お泊まりまで頑張って」という店長のアドバイスに従い、お母さんはポワくんを散歩に連れ出した。
ところが、経過を見に行った病院で、獣医師から尻尾の先っぽの壊死が始まっていると告げられる。このままではどんどん壊死が進んでしまう。お母さんは、ポワくんの尻尾の切断を決める。
断尾したポワくんの術後の傷が落ち着くのを待ち、昨年3月末、ようやく社会化お泊まりスタート。最初こそUGの犬の群れに驚き、意気消沈したポワくんだったが、生来の強さと明るさから、すぐに群れの犬たちと激しく遊べるように。
毎日UGから送られてくる写真と動画に、「日を重ねるごとに成長して行く様子が手に取るようにわかりました」とお母さん。
前の日できなかったごはんの前のフセ待てが、次の日にはできるようになっている。店長に指導されながら頑張るポワくんの姿に、傷だらけだったお母さんの心の傷も少しずつ癒えていった。
1週間後、お迎えに行ったお母さんの前で、ポワくんは「フセ待て」をビシッと決めてくれた。苦悩の涙から感動の涙に変わったお母さんに、店長は今後についてこう伝えた。
「尻尾追いはまだ続くと思います。お散歩でエネルギーを開放し、フセ待てはしっかりとさせること。定期的にUGに通い、それ以外でもポワくんが荒れたらすぐに連れてくればいい。とにかく1歳まで頑張りましょう!」
尻尾追いを引き起こす「スイッチ」発見
それから、ポワくんとお母さんは朝夕2時間ずつ、なんと毎日4時間ものお散歩に励んだ。コロナ禍の中、マスクをしての散歩は大変だったはずだが、「ポワがとても喜ぶので、それがうれしくて楽しくて」と笑顔を見せる。お母さんの体は悲鳴を上げ膝と肘を痛めたが、整骨院に通いながら、ひたすらポワくんと歩き続けた。
UGには月2回、1泊2日でお泊まりに。「尻尾追いは続いていましたが、UGに行くと落ち着き、おりこうさんになって帰ってきました」。
迷った時には店長に相談し、くじけそうになったときには叱咤激励され、お母さんはポワくんを信じ、向き合い続けた。その中で、ポワくんの興奮や尻尾追いの「スイッチ」があることに気づく。
一つは、散歩中に苦手な犬と会ったとき。最初は唸ったり攻撃を仕掛けたりしようとするが、ポワくんなりにそれはダメなことと理解しているようで、イライラはお母さんの手に向かい、ガブッ! そのことがわかってから、お散歩中に苦手な犬を見かけると道を迂回するなど回避するようにした。
もう一つは、お父さんと一緒のとき。おやつを要求するも、お父さんがくれないと「いいの? ボク尻尾噛んじゃうよ?」と仕掛けるというのだ。
「最初に会ったときに感じましたが、ポワくんはとても頭がいい。状況を見て、人を見て、駆け引きをするほど。僕とも頭脳戦を繰り広げましたから」と店長。そして、こう語る。
「これまで尻尾追いや尻尾を噛みちぎった犬を何匹か見てきました。病院で『脳に問題がある』と言われ、脳波を取ったり行動療法をしたり、薬を飲んでいる子もいました。もちろんそれが必要な子、効果がある子もいる。
でも、僕からすると脳に問題があるというよりも、頭がよすぎて、それが理解されずに行き場のないストレスを爆発させているように感じることが多い。ポワくんもまさにそうだった」
店長もすべての犬の尻尾追いを治せるわけではない。1週間では無理だった柴犬もいる。
「悔しい。でも、家族が『薬は使いたくない』と望むなら、僕ができることはやりたい。家族にもできることは頑張ってほしい。それでダメだったら次の対応を考える。何もしないであきらめたくはない。犬の力を、家族の力を信じたいのです」
涙の「お泊まり組」卒業
ポワくんは1歳を過ぎたころ、急に落ち着くようになった。「お散歩も1時間ぐらいで『ボクもう歩きたくない』と拒むそぶりを見せるように。『騒いだらまた母さんにお散歩に連れて行かれる!』とわかったみたいで(笑)、おとなしく過ごす時間が増えました」。
お留守番の時間も、まったりとお昼寝できるほどに。これまであったさまざまなことに思いを巡らせたお母さんは、目を潤ませながらこうつぶやいた。
「ポワのことで家の中がギスギスすることもあった。UGに、店長に出会い、ポワが成長したことで、うちの家族は再生できたと思っています」
今年、ポワくんはUGを「卒業」することに。強い柴犬は1歳を過ぎるとその強さゆえに、ほかの子を攻撃してしまうことがある。ポワくんも落ち着いたとはいえ強い気質を持っている。ポワくんに限らず、多くの柴犬は1歳を機に、お泊まり組を卒業する。
「店長から『卒業』と言われ、さみしくて涙が止まらなかった」とお母さん。店長は「お泊まりを卒業するだけ。これからもシャンプーには来てね」と笑い、こう続けた。
「お母さんがとにかく頑張った。お母さんが笑顔を取り戻したことで、ご家族も明るくなった。犬はとても敏感に空気を読みます。ポワくんも家の中の緊張を感じ取っていたのかもしれない。さまざまな困難をポワくん含め一丸となって乗り越え、とても強い家族になられたと思います」
犬を迎え、共に暮らすということ。それは、家族が家族になっていく物語なのだ。
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- UG DOGS アトラスタワー中目黒店
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TEL:03-5708-5592
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公式サイト:https://anm.ugpet.jp/ - 店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
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