ペットショップの犬猫、手薄な災害対策で犠牲に 業界も改善検討
災害が起きたとき、ペットを連れて逃げる「同行避難」は、徐々に浸透しています。しかし、ペットショップなどにいる販売用の子犬・子猫などについては、対策が手薄な現状があります。想定外の災害が相次ぐ近年、たくさんの命を抱えるペットショップなどの災害対策を、見つめ直す必要がありそうです。
台風19号が去った10月13日の朝、栃木県栃木市内にあるホームセンター「カインズ大平店」では、出勤した従業員が店内にあるペットショップで販売されていた子犬16匹、子猫1匹が死んでいるのを発見した。
同社広報室によると、台風の接近に伴い、前日の夕方、普段より早めに閉店することになった。その際、それぞれケージに入れて、バックヤードにある棚の高い場所に22匹の子犬・子猫を避難させていたという。
だが、付近を流れる永野川が氾濫(はんらん)するなどして店舗の中まで浸水。棚自体が倒れ、子犬・子猫は水につかってしまった。5匹は奇跡的に助かったが、17匹が命を落とした。ハムスターなど小動物の一部も死んだ。
同社広報室は「想定が甘かった。カインズとして、こうした災害時の手順を定めていなかった」としており、今後、関係会社と連携して再発防止のためのマニュアル作成などを進める考えという。
大規模災害時に飼い主とペットが一緒に避難する「同行避難」は、東日本大震災後、環境省が飼い主向けのガイドラインを作成するなどしたことで、徐々に浸透してきている。だが、飼い主のもとに来る前、販売の現場にいるペットたちについては、対策が手薄な現実がある。環境省動物愛護管理室も「マニュアルは、一般の飼い主のもとにいるペットしか想定していない」とする。
業界団体、ペットショップや繁殖業者の災害対策を議題に
このため、事業者によって対応はまちまちだ。
全国で「ペットプラス」約100店を展開するAHB(本社・東京都江東区)では台風19号の際、本社から各店舗あてに「子犬や子猫を犬舎下段で管理しない」などと注意を促すメールを出した。2015年にマニュアルを策定しており、大雨・台風のほか地震や津波、火災の際の対応の仕方について定めている=表。
大雨・台風に関しては、「土地が低い」約10店をリストアップして洪水・浸水への注意を喚起。そのうえで、浸水の可能性があると判断した場合には「最下段の子犬・子猫を上段に移動する」などと、高い場所への移動を指示している。
ただ、今回カインズが運営する店舗で起きた事故のように、いまのマニュアルでは対応しきれない可能性も出てきている。AHBの川口雅章社長は「今後、マニュアルを見直す必要があると考えている。ただ、人命優先が大前提。そのうえで、ペットの命を守るために最大限の努力をする」と話す。
全国に約70店を展開するペッツファースト(本社・東京都目黒区)では、避難が必要になった時点で「安全な場所に立つ近隣店舗に動物を移す」としたマニュアルがある。正宗伸麻社長によると、今回の台風でも、静岡県内で安全な店舗への輸送を行ったという。
ただ今年の台風の際には、公共交通機関の計画運休などにより、都心部で従業員が出勤できない店舗が出る可能性にも直面した。災害時に店舗に被害がなくても、人手がなくて子犬・子猫の世話ができなくなってしまう事態を避けるため、急きょ、従業員を前日から近隣ホテルに待機させたという。
同社も、来年度に向け、人命優先を掲げつつ、より精緻(せいち)に対策マニュアルを更新するという。
業界団体も対策に乗り出す。ペットショップチェーンなどで作る一般社団法人「全国ペット協会(ZPK)」は11月15日に開催された定例の理事会で、ペットショップや繁殖業者の災害対策を議題にした。ZPK事務局は、「多店舗展開しているチェーンと、個店経営のショップとでは対応の仕方も変わってくる。今後、マニュアルの整備などを検討していきたい」としている。
(専門記者・太田匡彦)
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