母と子が二人三脚で犬や猫の保護活動 きっかけは虐待を受けていた1匹の犬だった

2匹の黒い犬
山口県出身の草一郎(左)と虎太郎(泉美さん提供)

 動物にそれほど関心のなかった主婦が、知人から頼まれて、行き場のない虐待犬やミックス犬を飼い始めた。その後、近所の野良猫が“気になりだして”長女と猫の保護を始め、野犬も1匹、2匹と引き取るようになった。そんな母の背を見てきた次女は進路変更して動物看護師に……。動物にめいっぱいの愛を注ぐ、ある家族の物語。

(末尾に写真特集があります)

にぎやかな家

「犬は4匹います。大柄で若い男子チームと、小柄なお姉ちゃんチーム(笑)」

「猫はうちの子が8匹と、預かりが3匹。乳飲み子もいて、家はすごくにぎやかです」

 楽しく熱心に保護活動をしている家族がいると聞いて、都内の一軒家を訪ねると、母の泉美さん(53歳)と、次女の穂乃花さん(20歳)が動物たちを紹介してくれた。

2匹の犬
長女の友人宅から来たアクア(左)と京都から来たノア(泉美さん提供)

 話を聞いていると、大柄な2匹の犬、草一郎(2歳)と虎太郎(8カ月)が興味深そうにこちらに近づいてきた。その様子を小型犬の2匹、アクア(8歳)とノア(5歳)が見ている。テーブルや棚やキャットタワーには猫もいて、本当に、にぎやかだ。

ある虐待を受けた犬から始まった

「今はこんなにいますが、もともと動物にすごく興味があったというわけではないんです。3人の子育てで忙しかったし……」

 泉美さんが“犬と猫の歴史”を振り返る。

 最初の犬を飼ったのは17年前。穂乃花さんが3歳の時だった。

 知人を通して「蹴られたり階段から落とされたり、家族にひどい虐待を受けている犬がいる」と聞いて、泉美さんはいたたまれなくなり、家族に相談。家に迎えることにしたのだ。子どもたちもいじめられた話を聞いて、涙を流したという。

ミニチュアシュナウザー
虐待を受けていたペグ。賢く甘えん坊だったという(泉美さん提供)

「ペグという名のミニチュアシュナウザーでしたが、迎えた時は骨と皮でショックを受けました。初めて会った時、車のキャリーの中で、(前の飼い主のようにぶたれると思ったのか)首をすくめて上目遣いで私を見て……その目が忘れられません。その後、長女の友人家でミニチュアダックスのミックスが産まれ、飼わないかと話を頂き、迎えることにしたんです」

 そのミックス犬が、現在8歳になるアクアだ。 しばらくペグと2匹飼いをしていたが、10歳を過ぎてペグが旅立つと、アクアがさみしそうにみえた。

 ちょうどそんな時、泉美さんはテレビで動物の保護施設に関する番組を見て、またショックを受けたのだという。

「世の中には多くの不幸な犬がいるのだと知りました。それまでは知人から頼まれて飼っていたけれど、殺処分になるような子を、どこからか引き取りたいと思ったんです。ネットで探し、保護主に初めて自分から連絡して引き取ったのが、ノアです」

野犬の引き取りと猫の保護

 ノアは5年前に、京都のボランティアが沖縄の保健所から引き出した野犬の子だった。大きさも先住犬のアクアと同じくらいなので、2匹の相性を願い、新幹線代を払って連れてきてもらうことにした。

 トライアルはうまくいき、ノアは晴れて、泉美さんの家の子になった。そこから、ますます、泉美さんの“動物への気持ち”が深まっていったようだ。

 ちょうどノアが来た頃、家の周りに子猫を連れた野良の母猫がいた。だがいつしか母猫の姿が見えなくなり、「子猫が次々ひかれる」という話を耳にするようになった。

「魚を焼いていたら、(生き残った)子猫がうちの換気扇まで上ってくるようになって。可哀想で、冬の間だけでもごはんをあげたいと思いました。でもふと思ったんですよね、ただごはんをあげるだけでは、猫が増えてしまうだろうと……」

 そこで始めたのが、TNRだった。当時、大学生だった長女に手伝ってもらいながら、捕獲、避妊・去勢、リリースをした。そんな中で、「外で自力では生きてはいけない猫」を、飼うことにしたという。

「最初に家にいれた猫は、長女に懐いた目の見えない、ももでした。猫に関しては、主人と実母によく理解してもらい、感謝しています」

母の願いをかなえたくて

 犬2匹と猫たちと、だいぶ家の中がにぎやかになっていたが、2年前、50代を過ぎた泉美さんにある夢ができた。それは「今までよりサイズの大きな犬を迎える」ということ。

 それを“実現”させたのが、次女の穂乃花さんだった。

「動物を懸命に救う母をずっと見てきたし、なんとか願いをかなえてあげたいと思いました。ネットで検索すると、都内の保護主さん宅に生後8カ月の草一郎がいて……。写真を見て母も一目で気に入り、父の運転でお見合いにいきました」

母と子と犬
虎太郎を抱く穂乃花さん、草一郎、アクア(後方)、ノアを抱く泉美さん

 草一郎が家に来たのは12月24日。まさにクリスマスの贈りものとなった、だが草一郎は、男前な姿とは裏腹に気がひどく弱かった。

「来た時に“ビビりうんち”をして、初日は腰が抜けたように居間で寝ていたんです。でも翌日の夜、急に母と父の寝室に、お邪魔しますと入っていって、その日からアクア、ノアとみんなで川の字で寝はじめた(笑)。奇跡的だと保護主さんも獣医さんも言ってました」

 草一郎は子猫の世話が上手。年長の犬たちのことも好きで、家族の中心的存在になった。

“お乳”を探す子猫に寄りそう草一郎(泉美さん提供)

 草一郎が来た時、穂乃花さんは3年制の保育専門学校に通っていた。高校時代には出来なかった猫の保護や病院通い、犬の散歩などを母と共にするようになっていたのだが、ある日、かかりつけの獣医さんから“スカウト”されたのだという。

「病院で動物看護のお手伝いをしませんか?というお話でした。その病院は保護・譲渡活動も積極的にしていたし、とてもよい先生なので、喜んでお引き受けしました」

 動物への優しいまなざしや熱心なところを、先生は見抜いたようだ。

動物病院
動物病院で仕事中の穂乃花さん。虎太郎も一緒に通勤している(泉美さん提供)

思い切って進路変更!

 保育の実習と、動物の看護。その両方を同時期に体験した穂乃花さんは、「動物の看護の方に進みたい」強く思ったという。

 そして、保育専門学校を思い切って辞め、動物看護の専門学校に通っている。

 虎太郎は、手伝っている病院から、「犬の社会化のために、預かってほしい」と託された犬だった。

 くしくも、草一郎と“同郷”の山口出身の野犬の子。2匹は、親子と間違えられるほど似ていて、また予想以上に仲よくなった。

「可愛いし、2匹を離せないよね……となって(笑)、うちの子になりました」

 この先、穂乃花さんは動物看護師の国家資格を取り、手伝っている病院に就職したいという。さらにいつか、「保護猫カフェもできれば」と、思いがふくらむ。

 泉美さんは、そんな娘を応援し、時にサポートしあっていきたいという。

「これからも二人三脚で、犬のお世話をし、猫の保護にも励みたいですね!」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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