動物のために何かしたい、法人を設立 「みんなで協力しあえば大きな力になる」

2匹の猫
千葉で保護されたカスレ(左)と軽井沢で保護された茶太郎(知枝さん提供)

 個人で犬や猫の保護、譲渡を続けてきた女性が、昨秋、さらに活動の幅を広げたいと獣医師や友人と共に、動物に関する一般社団法人を設立しました。立ち上げのいきさつや、内容について聞いてみました。

(末尾に写真特集があります)

「私も周囲に支えてもらっている」

 4月半ば、都内の閑静な住宅地にある坂上知枝さんの自宅を訪ねた。

「ここで、長女と、愛犬2匹、愛猫3匹、それと“預かり中”の犬や猫と暮らしています」

 居間の中央に置かれたケージから、小さな白黒猫がこちらをチラッとのぞいている。キャットタワーの上でおとなの猫がくつろぎ、ソファに大きな犬がごろんと寝そべっている。

女性と犬
保護していたセーラ(1歳半)と坂上知枝さん「優しい女の子ですよ」

「ソファの犬は保護中の1歳半のクーンハウンドの『セーラ』。ケージの子猫は最近、保護した子です。今、うちのアイリッシュ・セター『なる』と『うー』が外出しているので静かですが、普段はすごくにぎやかなんです(笑)」

 この日、落ち着いて取材ができるようにと、近所のボランティア仲間でもある“犬友”が大型犬2匹を預かってくれたのだ。

「私自身も、周囲に協力してもらい、支えてもらっているんですよね……」

動物の幸せのための団体を設立

 知枝さんはPR会社の代表取締役をしているが、昨年9月、一般社団法人「ワタシニデキルコト」(通称ワタデキ)を設立した。

「みんなで力を合わせれば大きな力になる、という思いを団体の名に込めました。個人でずっと保護活動をしていたのですが、チャリティイベントで企業の支援を得る時などに法人化している方がいいと思い、懇意にしている獣医師と、ベトナムに住んでいる友人と3人で立ち上げました」

 ワタデキのコンセプトは2つ。

〈動物の為に何かしたい、何かできないだろうか?と考える人達のための具体的なお手伝いの場所になること〉

〈助けを求める動物、困っている動物の為に動く人達のサポート、相談窓口になること〉

 たとえば、「犬や猫の家族を探したい」という相談があれば、新しい家族を見つけるために行動する。「子猫を拾ったが育て方がわからない」という問い合わせがあれば、適切な飼育法をアドバイスするという。

「被災した動物を救済する団体には、支援物資や資金などの活動支援をしたり、事故に遭ったり難病になった動物に必要な高額医療の助成もしたい。動物に関する困ったことに対して、人、物資、情報、金銭など、必要な形でお手伝いしていきたいと考えています」

子どもの頃から続く当たり前なこと

 知枝さんにとって、“動物のために何かをする”のは特別なことではないという。小学生の低学年の頃から、保護活動ということもわからず、猫を拾うと、「この子を飼えませんか」と商店街の入り口に立ち、家族を探していたそうだ。

「当たり前にしていたことが、続いている感じですね。思えば、今までたくさんの動物と出会い、動物からも大きな影響を受けました……」

 結婚して最初に飼ったのは、「売れ残って可哀想だったから」と当時の夫がある店から連れてきたゴールデンレトリバー「勘太」。その散歩中に、ゴミ置き場で袋にいれて捨てられた4匹の子犬を見つけ、家族を探した。行き場のない1匹を引き取り、「大食(たいしょく)」と名付けた。

女の子と犬
3歳の「大食」と、2歳の長女、日向ちゃん(知枝さん提供)

「勘太と大食を育てている最中に長女を妊娠し、大きなおなかで2匹を散歩していました(笑)。勘太が亡くなった後、犬仲間が保護したイングリッシュ・コッカー・スパニエルの『トビ』を引き取り、散歩中にぼろぼろの子猫の『たろ』を拾い……仕事と子育てと、楽しかったですが毎日があっという間でした」

 その後、夫と別居。長女と犬と猫を連れて、現在のペット可の住居に引っ越してきた。

 そして、今いるアイリッシュ・セターの、なる、うーと出会うことになる。

 なる、うーはそれぞれ別のところから来たが、とくにうーの存在が、今回の団体設立の“後押し”をしたようだ。

2匹の犬
先天的に目が悪いうー(左)と、長毛のなる(知枝さん提供)

失明したうーから多くを学んで

 なるは、知枝さんが通う動物病院で飼われていた犬だった。6年前、先代のトビが病気で亡くなった10日後に、「2、3日預からない?」と先生にいわれたそうだ。当時、なるは生後5カ月半くらいだった。

「先生は私が動物好きだと知っているし、前の犬が死んで可哀想と思ったのかな。親しい先生だし、いいですよと預かりました。猟犬は引き散歩だけでは運動が足りませんが、病院のスタッフは忙しく運動もままならないようで……結局、そのままうちの子になりました」

 その4年後、知枝さんの元に、“飼えなくなったアイリッシュ・セター”の相談が来た。

「高齢夫婦が、ペットショップで“日本で1匹しかいない”と説明されて、生後2カ月のうーを買ったのですが、家族の反対もあり、飼えなくなってしまった。それで人を介し、同じアイリッシュを育てる私に、新たな家族を探すまで預かってくれないか、といってきたのです」

 ところが預かると、3カ月ぐらいして、うーの左目の色が白く変わってきた。検査をしてみると、先天的な病とわかった。専門医で2度手術をしたが、見えなくなっていった。「将来的に右も失明する可能性もある」と獣医師にいわれたそうだ。

「これからも治療でお金がたくさんかかるだろうと考えると、他の人には渡せない。それでうちの子にしたんです。ブリーダーにも店にも状況を説明し改善を求めたけれど、どちらもひどく無責任で考えさせられました。いろいろな問題を解決するためにも、団体を立ち上げるべきだとその時に決意したんです」

幸せをシェアしていきたい

 知枝さんは“ワタデキ”を設立する前にも、何度かチャリティーイベントをしてきた。

「2年前の春、動物保護施設を運営する僧侶で心理カウンセラーの塩田妙玄さんと出会い意気投合。垣根を越えて、みんながつながれば大きな力になるねと話し、『幸せシェアの会』としてチャリティーイベントを行いました。妙玄さんの講演をしたり、ツキネコさんなど保護団体のブースもいれて、300人以上の方に来て頂き、利益はすべて寄付。いくつかの団体に寄付することができました」

 チャリティーイベントはその後も、続けている。

ワタデキストア」という、チャリティ商品を販売するサイトも立ち上げた。犬の首輪や、リード、ノーズワークマット、スワロフスキーのアクセサリーなど、すべて手作りだ。

「そもそも、なるが分離不安の症状でやって来て留守番をさせられず。仕事以外に家でできることがないかなあと思って、自分のためにアクセサリー作りを始めました。それがなかなか好評で、いつの間にか周りにも作るようになり……」

 取材の日、セーラが付けていた首輪もハンドメイドだった。パラコードというカラフルな丈夫なひもで編まれ、1本で160㎏まで耐えられる。チャリティーの場合、原価を除いてすべて保護団体に寄付するという。

首輪
パラコードで編んだカラフルな首輪(知枝さん提供)

「私の夢……動物の命を尊重する世の中になること。うちの子だけ、というところから、少しずつでも外に関心を持てば、世の中がもっと変わっていくと思うんです。私にできることはなんだろうって。動物たちを幸せにしたい、そんな気持ちをみんなでシェアできたらいいな」

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
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