多頭飼育崩壊に陥るのはどんな人たちか 飼い主を救うことは犬や猫を救うこと
ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点から解説します。今回は、多頭飼育崩壊についてです。
多頭飼育崩壊になった原因を分析すると
以前、動物虐待事案に対応できる、弁護士と獣医師が連携する仕組みができれば――という話をしました。今回は、動物の問題解決に向けた、主に自治体内部における連携についてご紹介します。
かなり以前から、犬や猫などの多頭飼育崩壊、虐待(ネグレクト)事案が全国各地で発生し、近年では積極的に報道などで取り上げられ、社会問題となっています。
こうした事件が報道されると、不衛生で劣悪な飼育環境下で動物を放置し続けるなんてとんでもない、そんな無責任な飼い主は厳重に処罰するべき、ということだけが強調されてきたように思います。もちろん、被害にあった動物の立場を代弁するならば、当然のことです。
一方、実際問題として、どんな人たちが犬猫の多頭飼育に陥りがちなのか、多頭飼育に至った原因を分析すると、高齢・認知症などの病気、障がい・貧困などの理由により地域社会から孤立している人が少なからずいます。
こうした人たちに対し、多頭飼育崩壊となる手前の段階で一定の介入を行い、適切な支援を行うことで、飼い主の生活環境・動物の飼育環境がともに改善し、多頭飼育崩壊に至らずに解決することが可能となります。飼い主を救うことは、結果として動物を救うことになるのです。
部署が連携して多頭飼育問題にどう取り組むか
自治体において、動物部局は人に対する支援を行うものではなく、一方で人の福祉部局は動物のことを考える部署ではありません。各部署はそれぞれの観点で業務を行い、お互いの部署がどのような情報を持っているかも把握していないことが通常です。
双方の部署で普段から情報を共有し、いざというときには協働して事案にあたればよりよく解決できる可能性があるのに、必ずしもそれができていませんでした。
こうした問題意識は、少し前からいろんな場面で言われており、先進的な自治体においては、「動物の部署と人の福祉を担当する部署が連携して、多頭飼育問題にどう取り組むか」について、協議や実践がされていました。
また、2018年度には環境省内に検討会が設置され、精神科医、獣医師を含めた専門家による検討が重ねられ、今年3月に「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」が完成し、公表されました。
全部で128ページとかなりボリュームのある冊子ですが、基本的には自治体関係者や関係機関に向けて作成されているものです。現在進行中または今後多頭飼育問題が発生したときには、複数部署や関係機関と連携して取り組んだ経験の乏しい自治体の対応指針として、参考にされることが期待されます。
このガイドラインでは、多頭飼育問題対策の観点として、①飼い主の生活支援、②動物の飼育状況の改善、③周辺の生活環境の改善、の3点を挙げています。動物保護団体や関係者にとっては、②の視点が最も大事ではありますが、動物も人間社会の中で共生している以上、③の視点や、無責任ともいいうる飼い主をフォローする①の視点も、忘れてはならない大事なポイントといえます。
社会的弱者の支援に取り組んできた弁護士会
ところで、このガイドラインの中に、医療機関や警察署などと一緒に、法律事務所・弁護士もひとつの関係主体として紹介されています。典型的な支援としては、経済的貧困の飼い主の相談を受けて、生活保護申請のフォローや自己破産を申し立てることや、認知症の飼い主について成年後見申立て等の手続を行うことがあげられます。
弁護士や弁護士会として、動物問題に取り組んでいるところはごく少数ですが、高齢者・障がい者や、貧困者の支援については、社会的弱者を支援し救済する観点から、比較的古くから取り組んできた経緯があり、関係機関と連携したり、一定のノウハウも有しています。その点で、動物の多頭飼育問題へのアプローチは、弁護士会としても、比較的なじみやすいのではないかと考えています。
もちろん、現状の問題を理解せず悪びれない飼い主や、動物が生まれては次々と亡くなっているような悪質なネグレクト事案については、刑事告発も辞さない対応が求められることは、いうまでもありません。
飼い主に対し、厳しい処罰か各種の支援か、二者択一というものでもなく、過去の行為については刑事責任を含めた処罰の対象として責任を取らせた上で、将来的な生活の立て直しに向けて各種の適切な支援を行う、という対応があってもよいと思います。
動物の緊急一時保護制度の検討を
なお、自治体の部署間や、それ以外の関係機関と連携を進めても、解決困難な問題があります。
例えば、所有権を頑なに主張して動物を手放さず、不妊去勢手術にも同意しない、という飼い主がいた場合、動物虐待罪が成立するようなひどい事案で警察が証拠物として動物を押収する場合以外は、自治体は強制的に動物を保護できないのが現状です。
この点、児童虐待については、児童相談所の裁量判断で子どもを親から保護する制度が導入されており、こうした既存の仕組みなどを参考に、虐待され、またはそのおそれがある動物についての緊急一時保護制度を真剣に検討する時機にきているといえるでしょう。これについては、機会をあらためて詳しく述べたいと思います。
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