東日本大震災から10年 東北ロケを敢行した『星守る犬』をいま観る意味とは

(C)「星守る犬」製作委員会

 2021年3月11日で、東日本大震災から丸10年という節目を迎えます。巨大地震によって起こった大津波は、特に東北地方において甚大な被害をもたらし、いまだに復興が進んでないエリアも多いよう。そこで今回は、ちょうど震災が起こった2011年の6月11日に公開された西田敏行主演映画『星守る犬』をご紹介したいと思います。

震災前の景色が残る 社会問題に斬り込んだ物語

 この映画のメインビジュアルとして、西田さんと秋田犬が、ひまわり畑に囲まれた画をよく目にします。でも、本作はほのぼのとした絵面に反し、熟年離婚や孤独死といった社会問題に斬り込んだ、かなり壮絶な物語となっています。

 唯一の救いとなるのは、“忠犬ハチ公”なみに、主人と寄り添った飼い犬ハッピーの献身ぶりですが、その分、クライマックスは涙を禁じえない展開に。

 原作は村上たかしの同名コミックで、主演は西田さん、共演に玉山鉄二、川島海荷らが出演しています。東北から北海道にかけてロケを敢行したロードムービーなので、震災前の美しい風光明媚な景色が切り取られていますが、実は撮影に参加されたエキストラの方々も多数被災され、亡くなられた方もいたそうです。

 西田さんは被災地である福島県郡山市の出身ですし、当時、本作の記者会見で「いわきの海岸は僕が子どもの頃に泳いだ海で、思い出がたくさんあります。いつになったら、ここに子どもたちの歓声が戻るのかと思うと切ないです」と悲痛な思いを口にされていました。

愛犬ハッピーと旅へ出るが

 本作で、物語の語り部というべき存在が、玉山さん演じる市役所勤務の青年、奥津京介です。ある日、北海道の田舎町で、山中に放置されたワゴン車から中年男性と、その飼い犬と思われる秋田犬の遺体が発見されます。奥津は、その遺体の身元が気になり、休暇をとって、その中年男性の足どりを追っていくことに。

 その中年男性が、西田さん演じるおとうさんで、どうやら熟年離婚してからホームレスとなり、愛犬ハッピーと旅をしていたよう。福引で当たったホテルに愛犬と泊まり、団体客との集合写真にちゃっかり入るというおちゃめなおとうさん。この時、ハッピーはサングラスをしていて思わずププッと笑ってしまいます。

 ちなみに、ハッピー役を演じたのはプロの俳優犬で、名ドッグトレーナーのもと、驚くほどの熱演を見せています。笑いを取るコミカルなシーンから、心ない暴力に血を流すシーンまで、人間顔負けの演技力には脱帽させられそう。

 やがて、奥津自身も幼くして両親や祖母を次から次へと亡くし、祖父に育てられていたこと、また、飼っていた愛犬に辛く当たった過去を悔いて、その罪滅ぼしのために、自分が行動していたことも明かされていきます。

 最終的には、無残な孤独死を迎えるおとうさん。残されたハッピーのその後の描写は、目をそらしたくなるほど痛々しいです。ですが、そこでは犬を飼う責任の重さもしっかり入れ込んでいるので、作り手の覚悟も感じました。

希望を失わずに生きていきたい

 タイトルの『星守る犬』は、決して手に入らない星をずっと見続けている犬という意味ですが、そこから派生して、手に入らないものを求める人のことを指します。

 奥津を育てた祖父(藤竜也)が、孤独に苛まれ、自分の殻に閉じこもっている孫のことを案じ「生きるってことはしょせん、無駄だらけだ。殻に閉じこもって生き続けるよりも、高望みをする人生のほうがいい」と背中を押すシーンも心に刺さります。

 本作は決して、震災を描く物語ではないのですが、改めて観直してみると、いろいろと考えさせられる課題を投げかけられる気がします。

 いまもなお、復興に向けて歯を食いしばって奮闘している方々はもちろん、コロナ禍において貧困にあえぐ方々も多いかと。劇中で、おとうさんが「人のつながりがどんどん薄くなっている」と嘆くシーンがありますが、確かに人の悲しみや心の痛みを想像してみることは、いつの時代も大事なことかもしれません。

 とにかく観終わったあと、心にずっしりとしたくさびを打ち込むヘビーな本作。東日本大震災という未曽有の災害は、まだまだ風化させてはいけないですし、コロナ禍においても、希望を失わずに生きていきたいという自戒の意味も含め、ぜひ本作を多くの方々に観ていただきたいです。

星守る犬

青森県十和田市でロケをした『犬部!』も待機中

©犬部!

 2021年公開予定である林遣都と中川大志の共演作『犬部!』も、東北ロケをした注目作です。片野ゆかのノンフィクション書籍「北里大学獣医学部 犬部!」が原案の本作では、青森県十和田市にある北里大学(十和田キャンパス)に実在した動物愛護サークル「犬部」のメンバーたちの奮闘が描かれるとのこと。

 林さんは本作について「実話を基にした命をつなぐ物語です。自らを犠牲にし、動物たちに幸せな日々が訪れるよう願い闘い続けてきた方々の雄姿、そしてあふれんばかりの愛が詰まった作品です」と、中川さんは「この作品に出合い、人間と動物との歴史、目を背けてはいけない現実、自分の奥底にしまっていた感情、いろんなものと向き合いました」と言った熱いコメントを寄せているので、いまから完成が楽しみです。

『犬部!』は、2021年公開予定
監督:篠原哲雄 出演:林遣都 中川大志ほか
©2021「犬部!」製作委員会
公式サイト:inubu-movie.jp

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山崎伸子
ライター、ときどき編集者、カメラマン。映画やドラマのインタビューやコラムをメインに執筆。趣味は旅行、酒場&酒蔵巡り、パンダグッズ集め。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』。実家に帰るとやんちゃなわんこが二足歩行でお出迎え。

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