猫100匹が暮らす青島 命に向き合い続けた島民が望む、猫たちの行く末とは
「猫の島」として知られる瀬戸内海、青島。メディアが「猫の楽園」として取り上げ、観光客が急増した2013〜2017年ごろは、島民15人、猫200匹という“島まるごと多頭飼育崩壊”の危機にあった。その後、2018年に「青島猫を支援する会」(以降「支援する会」)などの働きで一斉TNRが実現。徐々に猫の数が減り、現在は100匹ほどに落ち着いた。
前編では、「青島猫を支援する会」の発足人のひとりである瀧野さんに、島の無人化と猫たちの未来についてお話を伺った。後編のこの記事では、長年夫婦で青島の猫の世話を続けてきた直子さんに取材。
メディアに取り上げられる「猫の楽園」の裏側で起きていた、増えすぎた猫たちの現実。一斉TNR時の島内部での葛藤。そして、青島の猫たちを見守ってきた人間として望む、猫たちの行く末について伺った。
人口5人、猫100匹の島
「青島は漁師町だから、昔は人も多かったんですよ。でも高齢化で徐々に人が減り、今は、私らを含めて3世帯5人だけです」と直子さん。
かつて青島には、直子さん夫婦以外にも猫の世話をする人が数人いた。市はそんな島民有志を集め、島の猫の餌やりや排泄物の掃除を行う「青島猫を見守る会」を立ち上げ、直子さんは会長として矢面に立ったという。しかし、人口減少により団体は数年前に解散。現在は、直子さん夫婦ともうひとりの島民で、およそ100匹の猫たちを世話している。
「普段の世話は、えさやりとふんの掃除、病気の子への投薬。餌は全国の支援者から送られてくるので、お礼の電話は欠かさないんです。よく、『こんなにたくさん面倒見て大変ね』と言っていただくけど、大変ではないですよ。誰がやれと言ったわけじゃなく、これが私の生活の一部なんです。猫がいたから、日本全国の支援者の方とのつながりも生まれた。みなさん、こんなおばあちゃんを心配してくれて、ありがたいことですよ」
島で一番猫たちのことを知る直子さんは、普段と様子が違う猫や病気にかかった猫を見つけると「支援する会」に連絡を取り、医療にかけたり薬を受け取ったりと、猫たちの健康も気遣う。
島の内部にいる直子さんと、外部の「支援する会」が連帯することで、人口5人の島は100匹以上の猫たちを管理している。
発情した雄猫にかみ殺される子猫
そんな青島の猫が急激に増えたのは、観光客が押しかけるようになった2013年以降のことだ。観光客のえさやりも少なからず影響し、栄養状態がよくなった島の猫たちはとめどなく繁殖。最も多い時は、確認されているだけでも200匹以上が未避妊・未去勢で小さな島にひしめきあっていた。
「当時は、発情期のたびに子猫がたくさん産まれては死んで、というのを繰り返していましたよね。雌猫は、授乳中は発情しないでしょう?だから、発情した雄猫は、子猫をかみ殺して雌猫を発情させるんですよ。けんかなれした雄は急所もわかってますよね。生まれて間もない子猫の首をかんで殺してしまうんだから。私たちは、雄猫にかまれて頭だけになった生まれたての子猫を何十匹も見てきましたよ」
悲惨な状況に心を痛めていた直子さんは、『どうぶつ基金』、大洲市、「支援する会」佐々木さんらの協働による一斉TNRに希望を見いだした。しかし、島民の中では、猫たちの避妊・去勢に難色を示す人もいたという。
「私は、反対した人がどういう気持ちだったのかはわかりません。でも、『子猫が産まれなくなるのはいやだ』『可愛い子猫が見たい』という話はたびたび聞こえていましたよ」
青島が属する大洲市は、「島民が一人でも反対していたら、一斉TNRは実施しない」という方針だった。「支援する会」は、時間をかけて反対派の島民を説得。最後の一人が承諾したころには、計画当初から4年近くの月日が経っていた。
一斉TNR後も地道に活動
やっとのことで実地したTNRも、万事落着とは行かなかった。
「市と『どうぶつ基金』が負担する一斉TNRは1回きりだけど、その1回で島のすべての猫を捕まえるなんてできないですよね。やはり取り逃がしてしまった猫もいました」
避妊・去勢ができなかった猫は再び子猫を産み、その子猫がまた子猫を産む。環境省が2015年に作成したパンフレットによると、雌猫は生後4〜12カ月で繁殖が可能になる。一回の出産で産むのはおよそ4〜8匹、1年に2〜4回の出産をするとして、1匹の猫が1年間で繁殖できるのは、最大20匹にも及ぶ。
そのため、一斉TNRが終了した後も、「支援する会」のメンバーと直子さんらは協力して、取り残した猫の捕獲と不妊去勢手術に取り組み続けた。現在島の猫たちが平和に暮らしているのは、一斉TNRへの働きかけや、個人ボランティアでのTNRを続けてきた人々の努力の成果だ。
大規模TNR以降、以前よりも猫の数は減った青島だが、直子さんには不安が残る。
「青島が無人島になる日はもうすぐそこまできているんですよ。私と主人だって、今は元気で猫たちの世話ができているけど、今後体が動かなくなって島を離れなければいけないとなれば、一番に考えなければいけないのは自分たちのこと。猫たちのことを考えると後ろ髪を引かれるけれど、ずっと世話をし続けることは現実的に難しいでしょう。
島に世話をする人がいなくなったら、猫たちは生きていけない。だからこそきちんとTNRをして、これ以上世話が必要な命を増やさないようにしたんです。命のことですから、勝手に増えて勝手に死んでいったらいいという話ではすまないでしょう」
青島が無人化する日
「可愛い猫が減っていくのがいやだ」「子供を産めなくなるなんてかわいそう」という声は、「猫の楽園」を目当てにやってくる観光客からも聞こえてくる。「増やさないのも愛」というのは、先に引用した環境省のパンフレットのタイトルだが、猫が野生動物ではない以上、人の世話が行き届かなければ、不幸になるのはほかでもない猫たちだということを忘れてはならない。
直子さん夫婦は、長年猫たちの世話を日常の一部とし、青島の猫たちを誰よりも近くで見守っていた。だからこそ、自分たちが猫のためにどこまでできるのかを考え、その限界が訪れる時を見据えて、青島の猫の未来を「支援する会」に託した。
「島が無人になるときに、残った猫たちを引き取ってもらえたらありがたい。そのためにも、お年寄りの猫たちは寿命という形でじょじょに”お隠れ”になってもらって、自然な形で減ってくれたらいいわね。100匹もいたら難しいけど、30匹、40匹ならみんな幸せになれるかもしれんでしょう」
「青島猫を支援する会」は今、島民の直子さんと連携を取りながら、残った猫のTNRや老齢猫のケアを行っている。「猫の楽園」としてにぎわった青島が無人島化するその時まで、命に向き合い続ける人がいることを多くの人に知ってほしい。そして、その日が猫たちと彼らにとって最善の幕引きとなることを願う。
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