花火や爆竹で盛り上がるイタリアの大みそか 被害は人間よりも動物たちの方が深刻

窓辺の猫
家の中では甘えん坊のお姫様、一歩外へ出ると残忍な狩の名手に変身するニーナ

イタリアのクリスマス に続いて、今回はイタリアの大みそかに繰り広げられる大音響のカウントダウンパーティーや、花火でおびえてパニックになっちゃう仲間たちの話です』

(末尾に写真特集があります)

動物たちを悩ませる 花火と爆竹

 日本が除夜の鐘の音を聞きながら静かに新年を迎えるのに対して、欧米ではカウントダウンパーティーで盛り上がるのが一般的。

 イタリアでは「チェノーネ」といって、ドレスアップしてレストランでごちそうを食べながら24時を迎える人、ディスコで盛り上がってカウントダウンをする人、古いものを窓から捨てて新年を迎えるという昔ながらの習慣を楽しむ人など様々。

 そんな騒がしいお正月の迎え方の中でも、特に動物たちを悩ませるのが花火と爆竹だ。

 カウントダウンをして年が明けた途端に花火をあげ、爆竹を鳴らし、シャンパンを抜き、みんなでハグをしたりキスをして新年を祝う。そんな華やかで楽しげな欧米のお正月シーンの裏には、実は大きな危険が隠されている。

 毎年、1月1日のニュースでは、前夜の花火や爆竹によるけがや死亡事故のニュースが絶えない。2019~2020年のカウントダウンでは1人死亡、500人がけが、うち44人は重傷をおった。そしてこれは毎年増加傾向にあるそうだ。

 ところが「ボッティ」(イタリア語で爆発音、銃撃音などの意味)による被害は、実は人間よりも動物たちの方が深刻に受けている。そんな事実を、実は私も今回、この原稿を書くために調べていて初めて知った。

ラブラドールレトリーバー
イタリアのトリノで生まれ育ったグレース

パニックで迷子や死亡事故 火花で火事も

 人間が聞き分けられる音の最大周波数が2万ヘルツだとしたら、犬は4万6000ヘルツ、猫は7万ヘルツにもなり、鳥類によってはもっと高い場合もあるという。

 そんな感度のいい耳で、自然界にはない人工的な大爆音を聞いたらどうなるだろう? 例えば、ライブ会場の巨大スピーカーに耳を押し付けられて、ボリュームを最大にされる、そんな感じとか? 

 打ち上げ花火や爆竹の音を、超敏感な耳で聞いた鳥たちはパニックになって飛び回り、方向感覚を失ったあげくに木や車などに激突して死んでしまう。犬たちもやっぱり爆音に驚きパニックになって走り回り、何かに激突して死亡、けがという事故が頻発するそうだ。外飼いの犬たちは、どんどん走ってしまって迷子になってしまうこともあるとか。

 その被害は深刻で、2019年12月にはローマ、フィレンツェ、パレルモなどいくつかの都市で「ボッティ禁止令」が出たほど。イタリアだけでなく、デュッセルドルフ郊外の動物園では、飛んできた花火が原因で猿の小屋が火事になり全焼、猿たちは全員焼け死んでしまったという悲しい事故も起きている。

BASTABOTTIのポスター
毎年年末になると、保護団体が作る「bottiはやめて」と訴えるポスターが目につく(写真提供:イタリアの環境保護団体LAV)

ホリデーは、愛犬・愛猫と静かに祝いたい

 8年前、犬を飼うのは初めてだった私の家にグレースがやってきた最初のお正月、彼女はまだ生後3カ月だった。一緒に夕食を食べ、そのままカウントダウンをしようよ、と近所の友人宅に招かれた私は「大音響でパニックになったら大変!」と心配で、23時半過ぎに家に戻ってグレースの様子を見守ることにした。

 24時近くになると、近所の人たちがパンパン、バンバン、やり始めた。街中の広場で上がっているのかドーン、ドーンという打ち上げ花火の音も聞こえてくる。でも小さなグレースはハウスの中でぐーすか寝続けている。そういえば彼女は掃除機も怖がらない。

 その時私の頭の中には、盲導犬の一生を描いた映画『クイール』のあるシーンがよみがえった。訓練センターに入ったばかりの若いクイールは、訓練士が発砲した空砲にびくともせず、じっと座ったままだった。他の仲間のラブラドールたちは、なんだなんだ! と走り回る。

 映画を観ている私には、キビキビと反応する犬たちの方が賢く感じるのだが、実はボーッとしているように見えたクイールの方が盲導犬に向いているんだよという話。何事にも動じてはいけない、ということらしい。なーんだ、グレースも盲導犬になれたかもね、なんて頭をなでたのを思い出す。

ラブラドールレトリーバーの子犬
子犬時代から爆音にビクともしない肝の座ったグレース。ボーッとしているだけ、という説もあり(笑)

 そんな親バカ話はさておき、普通、犬も猫も爆音でびっくりする。うちの猫のニーナもジージョも怖がって隠れたり、ひざに乗ってきたりする。

 グレースと仲良しの秋田犬のサユリちゃんは、1231日の夕方、試しで爆竹を鳴らし始める時間になるとブルブル震えだすそうだ。トイレの用を済ますためだけに急いで外出した去年は、危うく首輪が外れて逃げてしまいそうなほど暴れて怖がったとか。

 いつだったかペットショップで、「bottiでパニックになった大型犬が激突しても窓が割れない保護シート」というのを売っているのを見つけて、そこまで!? とびっくりしたのを覚えている。

 試しに今、Amazonで検索してみると、犬・猫をリラックスさせストレスを和らげるサプリや、身につけると落ち着くというベストが売られていた。これはどう考えても年末対策としか思えない。

 そして#BASTABOTTI(Bastaはやめて!の意味)を検索すれば、可愛いワンニャンの写真付きで「花火や爆竹騒ぎはやめようよ!」と訴えるSNSの投稿がたくさん出てくる。

#BASTABOTTI
「ボッティはNO、ビスケットはSI(yes)」と書かれている 出典 @robertapisoni

 イタリアのクリスマスもお正月も華やかでロマンチックだけど、「私たちは静かにお祝いして過ごしたいな。ちょっとだけごちそうのおすそ分けがあればそれでいいのに」とイタリアのワンニャンたちは思っているだろう。

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宮本さやか
1996年よりイタリア・トリノ在住。イタリア人の夫、19歳の娘、ラブラドール・レトリバーのグレース、猫のニーナとジージョと暮らしつつ、日本とイタリアの「食」を発信するフードライター。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」

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