7億円規模が違法 血統書付きの子犬をプレゼントしたい、イタリアのホリデーの裏で
『こんにちは。イタリアのトリノで生まれ育ったラブラドール・レトリーバーのグレースです。イタリアは今年、コロナウイルスのせいで大変なことになっているってママが言っていますが、私的には家族がいつもずっとおうちにいるようになって、お散歩もたくさんできて、とてもうれしい一年でした。
でも、もうすぐクリスマスとお正月がやってくるらしいです。ママが大きな木を家の中に立てて飾りをしたり、私に変な赤いものをかぶせようとしたりするのでわかります。ヘンテコなかぶりモノは我慢するとしても、イタリアのクリスマスとお正月って、私やお友達のワンニャン達には、憂鬱(ゆううつ)になることの方が実は多いのです。
まずは不幸な仲間たちが増えるクリスマスの話を聞いてください』
「家族と過ごす」イタリアのクリスマス
イタリア人にとってのクリスマスは、カトリック教徒の大切なイベントというだけでなく、家族親戚一同で集まってごちそうを食べ、プレゼントを交換し、家族の絆を確認し合う大事な時間。ちょっと日本のお正月に似た感じ。
日本では24日のイブの夜が一番盛り上がるのに対して、イタリアではイエス・キリストの誕生日の25日がメインイベントだ。
宗教心のより強い南イタリアでは、イブの24日の夜と25日の昼、ダブルヘッダーでお祝いをするそうだけど、北イタリアではごちそうを食べて祝うのは25日のお昼だけ。24日の24時、つまり25日になった瞬間に「ボン・ナターレ!(クリスマスおめでとう)」とスプマンテを開けて祝う人がいたり、まじめな信者なら教会のミサへ出かけたり。
普段は早寝早起きの神父様たちも、クリスマスばかりは夜中の12時にミサを行うのが決まりだけど、今年はコロナウイルス拡大防止のための夜間外出禁止令があるので、ミサも早い時間に繰り上げるそう。
日本と特に大きく違うのは、「いつお祝いするか」だけでなく「恋人たちのロマンチックなデートはなし」という点。宗教のイベントだからイチャイチャしちゃいけません! ということかも?(笑)。そして家族で集まることが大切だから、恋人同士はそれぞれの家族と別々に過ごす。新婚カップルは、どちらの親の家でクリスマスを過ごすかでけんかになることも多いとか。
そんなクリスマスの集まりに欠かせないのは「ごちそう」そして「プレゼント」。ロックダウンが長く続いて経済に大きな打撃を受けたイタリアは、クリスマス商戦で少しでも回復したいと、売る方も買う方もみんな張り切っているけど、そこにグレースたちワンニャンを憂鬱(ゆううつ)にさせる悪の手が伸びる。
違法に運ばれてくる子犬 毎月7億円規模
イタリアはEU内で2番目にペットが多い国で(社会経済状況調査機関CENSIS2019年の統計より。ちなみにトップはハンガリー)、その数はなんと3200万匹。一番多いのは小鳥類の1290万匹、次に猫の750万匹、そして犬が700万匹。全世帯の半分以上の52%が、何かしらペットを飼っている。つまり巨大なペット市場というわけだ。
そんなイタリア市場を狙うのが、「大切な人に血統書付きの子犬をプレゼントしてびっくりさせたい」と夢見る人に目をつける悪徳繁殖業者と販売業者たち。特に東ヨーロッパから違法に運ばれてくる子犬たちは、毎月4万6000頭、金額にすると550万ユーロ(約7億円)にもなって、その半分はどこからきて、どこへ売られていったのかが判明しない(欧州委員会が実施した調査「On the welfare of dogs and cats involved in commercial practice ビジネス上の常習的な行為に巻き込まれる犬と猫の幸福について」より)。
イタリアはEU内で唯一、この違法取引を取り締まる法律があるのだが、それをかいくぐって売られていく子犬はまだまだ後を絶たないのが現状だ。
子犬たちは、生後1カ月にも満たないうちに母犬から離され、トラックにぎゅうぎゅう詰めにされて東欧から運ばれてくる。母犬自体、繁殖のためだけに生かされているような劣悪な環境で飼育されているせいで、子犬は病気を持っているケースが多い。
そんな子犬たちは、健康そうに見せるために抗生物質などの「薬漬け」にされ、クリスマスプレゼントとして買われて行く。でも、飼い主の手にわたって数日がたち、魔法(薬の効果)が解けると、生まれつきの欠陥や病気が再発し、中には死んでしまうコたちもいるという。
一方で、生き延びられた子犬たちは、母犬や兄弟犬との暮らしで身につけるはずの社会性がないから、無駄吠えや噛み癖などの問題行動があり、だんだん手に負えなくなる。元々犬が飼いたいと心の準備をしていたのではなくて、クリスマスプレゼントでたまたま子犬を受け取った飼い主には、重荷になってくる。
クリスマスに子犬だった子たちは、夏のバカンスシーズン前には大きく成長している。「好きなところへ好きなようにバカンスへ行けないなら、じゃあ捨てちゃおう」、そんな不幸な話が後を絶たない。イタリア最大の動物愛護団体LAVによれば、毎年5万頭の犬が、特に南イタリアを中心に捨てられているというのが現実だ。
グレース:『ラブラドールは賢くて優しい、家庭犬にぴったりというイメージばっかりが先行して、子犬時代は暴れん坊でやんちゃだってこと、知らない人が多いんです。それも含めて愛して欲しいのに、こんなはずじゃなかったって、捨てられてしまう私の親戚も多いんですって』
血統書付きの子犬を買うと犯罪?
イタリアのいくつもの動物愛護団体が「動物はプレゼントしたりされたりするモノではありません」「血統書付きの子犬を買うのは犯罪に手を貸すこと」とまでアピールし、「プレゼントするなら保護犬、保護猫を」と毎年うったえている。譲渡を受けることで保護犬の頭数を減らすことができるだけでなく、血統書付きにこだわらないことが、悪徳繁殖業者の狙う市場を小さくすることができるからだ。
その効果があってか、私が知る限り、グレースと散歩に出かけて知り合うワンコたちは雑種がほとんどで、保護施設からもらったとか南イタリアから保護してきた、というケースがとても多い。血統書付きのグレースを連れて歩いているのが、恥ずかしくなってしまうほどだ(グレースは子犬が産まれすぎた友人から譲り受けました)。
「ただしそれは都市部の話であって、地方や南の方ではまだまだ『犬は家畜』という考えで、人間が好きにできる従属物という感覚の人が多いのが現状です」とENPA(イタリア全国動物保護協会)の会長カルラ・ロッキさんが言っていた。
グレース:『次は大みそかに繰り広げられる、大音響のカウントダウンパーティーや花火でおびえてパニックになっちゃう仲間たちの話です』
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