繁殖用の犬や猫、国内にどれくらいいるのか? 調査データをもとに推計してみると

2匹の子犬
繁殖業者のもとで産まれた子犬

 これまで、悪質業者の劣悪な飼育環境に苦しめられる犬や猫について、記事を書いてきた。そうした状況を改善しようと、ようやく来年6月、数値規制を盛り込んだ環境省令が施行される。これを機に、日本国内にいま、繁殖に使われている犬、そして猫がどのくらいいるのか、考えてみたい。

「犬猫等販売業者」のもとにいる犬や猫の数

 朝日新聞は2014年度分以降毎年、繁殖業者やペットショップが提出を義務づけられている「犬猫等販売業者定期報告届出書」について、事務を所管する都道府県、政令指定都市、中核市に調査を行ってきた(回収率100%)。そのデータをもとに推計してみる。

 届出書では、業者が飼育・販売する犬猫について、その年度中に販売したり繁殖から引退させるなどして引き渡したりした数や死亡した数などのほか、その年度当初と年度末に所有していた数を報告することが義務づけられている。そこで、年度初めの所有数を見てみる。

 届出書は、提出を怠ると20万円以下の過料が科されるものだ。それでも提出しない業者は一定数いる。18年度で見ると、朝日新聞が調査した時点で提出済みだった業者は1万4045件あった。対して、18年4月1日時点の犬猫等販売業者の登録事業所数は1万5911件(環境省調べ)。つまり提出率は88.27%だ。

 この値を考慮すると、単純計算で、18年4月1日時点で業者のもとにいた犬は約29万7400匹、猫は約6万7800匹ということになる。この数には、ペットショップのもとにいる販売用の子犬・子猫と、繁殖業者のもとにいる繁殖用の犬、そして猫が含まれている。

 18年4月1日時点で登録されている、1万5911件の犬猫等販売業者のうち「繁殖を行う者」は1万2235件。残りの3676件は、販売だけを行っている、いわゆるペットショップということだ。

繁殖用の犬や猫の数は

 ペットショップが店内に抱えている子犬・子猫の数は一般的に、大規模店で50匹程度、中規模店で30匹程度、小規模店で20匹程度といわれる。複数のペットショップチェーンに取材すると、大規模店よりも小規模店のほうが店舗数が多く、一般に1店あたり「ならすとだいたい25匹」だという。

 また犬と猫の流通量の比率を見ると、18年度は77.73対22.27だった。こうしたことから、18年4月1日時点でペットショップにいる子犬の数は約7万1400匹、子猫の数は約2万400匹であると考えられる。

 この数字を、すべての業者のもとにいる犬猫の数から引くと、犬は約22万6千匹、猫は約4万7400匹という数が出てくる。これが18年度初め時点で繁殖業者のもとにいる犬猫の数ということになる。この中には、繁殖業者のもとにいる出荷前の子犬・子猫も含まれるが、1日あたりで見れば小さな値だから、考慮しなくてもいいだろう。

 というわけで、日本国内に繁殖用の犬は約22万6千匹、猫は約4万7400匹――と推計できた。

「行きどころのない」犬が「10万匹以上」と主張

 さて、来年6月に環境省令として施行される数値規制は、主にこれら繁殖に使われている犬猫の飼育環境を改善するために導入される。

 ところが、だ。10月7日に行われた中央環境審議会動物愛護部会の場で、ペット関連の業界団体である「全国ペット協会(ZPK)」の脇田亮治専務理事は、この環境省令が施行されることによって「繁殖者から出る犬が、全国でおよそ10万匹以上にのぼる。この行きどころのない犬猫はどのようになるのでしょうか」などと発言し、「行政は事業者の取り組みの支援、体制を整備することも想定しているか」、「継続して審議いただくことを強く願いたい。この業界の家族をみんな養わないといけない。(決めるのは)5年先でもいいのではないか」と環境省に迫った。

ケージの中の犬
繁殖業者のもとで交配、出産させられていた雌犬

 ZPK事務局に確認したところ、「行きどころのない」犬が「10万匹以上」出てくるという脇田氏の主張は、同じくペット関連業界団体の「犬猫適正飼養推進協議会」などによる推計値に基づいているという。

 同協議会などは、環境省令のうち特に、繁殖に使う犬猫の上限飼育数を職員1人あたり犬では15頭まで、猫では25頭までとする規制が行われれば犬の繁殖業者の32.3%、猫の繁殖業者の18. 9%が、「廃業も視野に入れている」などする調査結果を公表している。

 このなかで、全国の繁殖業者で繁殖犬は計10万5790匹、繁殖猫は計2万5509匹の飼育ができなくなる可能性がある――などと推計しているのだ。

「定価のない商品」コロナ禍で落札価格が2倍に

 この数は、私が推計した、国内の繁殖犬、繁殖猫のおよそ半分にのぼる。

 犬や猫に子どもを産ませることで利益を得てきたというのに、それほどの数の犬猫をむざむざと手放すことを想定し、一方でその犬猫たちの「行きどころがない」と言ったり、「行政の支援」を求めたりする業界団体の姿勢には、驚きを禁じ得ない。

 利益の一部をあててパートやアルバイトを含めて職員を増やしたり、場合によっては人件費が増えた分を子犬・子猫の販売価格に転嫁すればいいだけなのに……。

 コロナ禍でペット需要が高まった今年春から夏にかけて、子犬・子猫の競り市(オークション)では、例年の2倍となる20万円台の落札価格で取引されている。もともと「定価のない商品」なのだから、販売価格への転嫁は容易なはずだ。

自分たちなりの改善策を示してほしい

 ペット関連の業界団体が規制強化を前に「廃業が増える」などと声高に言い始めるのは、今回に限った話ではない。8週齢(生後56日)規制の導入が本格的に議論された12年の動物愛護法改正時には、8週齢規制が導入されれば繁殖業者では「廃業あるいは営業縮小が7割以上」、ペットショップでは「(犬猫の)取り扱いをやめる、減らす、廃業が7割以上」などとする調査結果をもって、ロビー活動を行っていた。

白い子猫
ペットショップの子猫

 なお、13年9月にまずは45日齢規制が、16年9月から49日齢規制が施行された。にもかかわらず、犬猫等販売業者の数は14年4月1日時点で1万5974件だったのが、19年4月1日時点では1万6335件と増加している。

 またペット関連の業界団体が、環境省に提出した調査結果を、業界にとって都合のよいものになるように「差し替え」「誘導」した事実も、記憶に新しい(週刊朝日18年6月8日号「ペットの販売規制巡り業界団体がデータ“改ざん”か」。

 ペット関連の業界団体は、環境省が数値規制について具体的な案を示す前に、まずは自分たちのほうから、どのようにして繁殖用の犬猫の飼育環境を向上させていくのか、また悪質業者を淘汰していくのか、社会に提示するべきではなかっただろうか。

 数値規制の導入が本格的に議論されるようになったのは、11年12月に中央環境審議会動物愛護部会に提出された「動物愛護管理のあり方検討報告書」がきっかけだ。それから9年近くが経過している。時間は十分にあったはずだ。

 来年6月の環境省令の施行までは、まだ時間が残っている。繁殖用の犬猫の「行きどころがない」などと主張して数値規制に反対する前に、自分たちなりの改善策を世に示してほしい。それが、苦しんできた犬猫たちに報いる道ではないだろうか。

【前の回】数値規制で「犬の生涯出産回数6回まで」 踏み込んだ小泉氏、さらなる「前進」を期待

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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