数値規制で「犬の生涯出産回数6回まで」 踏み込んだ小泉氏、さらなる「前進」を期待

小泉環境相
今年4月、「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」の牧原秀樹衆院議員(手前)から要望を聞いた小泉進次郎環境相

 「思いを込めているので、少し長くなります」

 8月12日に開かれた、7回目の「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」に異例ながら出席した小泉進次郎環境相は、冒頭そう断って話し始めた。そして、数値規制の内容を取りまとめるにあたり「悪質な事業者にレッドカードを突きつけるという点で最大限努力した」と強調した。

環境省の規制案に疑問の声

 小泉環境相が話した通り、環境省が示した規制案は、悪質な繁殖業者やペットショップを改善、排除するためにそうとう踏み込んだ内容になっていた。ただ、大きな問題が二つあった。一つは、犬用の平飼いケージについて、1匹あたりに必要な面積が狭いこと。もう一つは、犬猫の出産回数について規制がないこと。これでは、繁殖に使われる犬猫たちの虐待、酷使を防げない可能性が高かった。

 この日の検討会でも、特に出産回数の規制が盛り込まれなかったことについて、複数の委員から、疑問の声があがった。超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」も、環境省の規制案について「議連が求める水準とへだたりがある」として、繰り返し説明を求めた。

小泉環境相が動き、改めて「報告書」公表

 こうした声を受けて、小泉環境相が動いた。検討会でいったん取りまとめられた案が変更されることは、普通はない。だが8月31日、環境省は改めて「報告書」を公表した。

 そこには、犬の出産回数規制が盛り込まれていた。これまでは「メスの交配は6歳まで」という規制だけだったのに、「生涯出産回数は6回まで」とする規制があらたに加えられたのだ。さらに、獣医師資格をもたない繁殖業者による帝王切開が横行していた問題についても、「(帝王切開は)獣医師に行わせる」とする規制に踏み込んでいた。

ガラスケースの中の子猫
ペットショップで販売される子猫

 関係者によると、小泉環境相は春以降ここに至るまで、動物愛護管理室と連日深夜まで議論。有意識者や動物愛護団体、ペット業界関係者らへのヒアリングも重ねた。最終的には、超党派議連が示してきた議連案を「小泉環境相が最大限尊重した結果」として、環境省が当初示していた案よりさらに踏み込んだ内容になったという。

犬や猫の健康を守れるような規制へ「前進」を

 ただ、それでもまだ、問題が残されている。出産回数規制の対象から、なぜか猫が外された。母体や生まれてくる子の健康リスクが高いとされている初回発情時の交配も、犬猫ともに野放し。犬の平飼い用ケージに求められる面積は狭いまま。従業員1人あたりの上限飼育数の規制については、環境省資料に「優良な事業者の上限値緩和を検討する」という文言があり、予断を許さない。

 予断を許さないと言えば、検討会座長の武内ゆかり東京大学大学院教授は、「座長提言」を公表して「国は適切な準備期間を設ける」よう求めている。従業員1人あたりの上限飼育数などについて激変緩和措置を導入することは、それなりに理にかなっている。だが、それを利用した「骨抜き」を、ペット業界が働きかけてくる可能性が否定できない。

 数値規制は、来年6月に省令として施行されれば、小泉環境相の「レガシー」として評価されることになるだろう。そのためにも、「後退」は許されない。むしろ、よりいっそう犬猫の心身の健康を守れるような規制になるよう、さらなる「前進」を期待したい。

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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