子猫「ミーちゃん」との別れが心のキズに 犬や猫を看取ったら思い切り泣いていい

2匹の猫
いま飼っているジャッキーときなこ。1カ月で亡くなったミーちゃんの分まで、可愛がりたいと思っている

 今回の話は、我が家の愛猫「ジャッキー」と「きなこ」についてではない。50年近く前、僕(53)が6歳のころ、生まれて初めて飼った猫についてである。名前はミーちゃん。真っ白な、おとなしいメスだった。可愛くて可愛くて、仕方なかった。でも、そんな「蜜月の日々」は、長くは続かなかった……。

(末尾に写真特集があります)

真っ白い子猫

 当時の記憶があいまいな部分があるので、母の話も参考にして再現したい。

 ミーちゃんは、元々、兄(61)の友人宅で飼っていた多くの猫の一匹。母(89)が譲り受けたのだ。潔癖性の母は、あまり猫は好きではなかったが、僕や兄が、猫を欲しがっているのを知り、「飼ってあげよう」と思ったそうだ。

 まだ2~3カ月の子猫で、真っ白いメスの和猫だった。誰が決めたのか、名前は自然と「ミーちゃん」になった。僕はもちろん、一番上の姉(64)も兄も、2階の自分の部屋に入れて遊んだり一緒に寝たり、溺愛した。

 僕はミルクをよくあげていた記憶がある。ペチャペチャなめるその姿が、とてもいとおしかった。おそらく「世の中にこんな可愛いものがあったんだ」と幼心に感じていたのではないか。

名付けて「ミーちゃんブック」

 僕は、応接間などにいるミーちゃんをなでたり、ちょっかいを出したりして遊んだ。そして来る日も来る日も、スケッチブックで、ミーちゃんの絵を描き続けた。

 気持ちよさそうに寝ている姿、こちらをじーっと見ている姿、ふとんにくるまっている姿……。今でもそのスケッチブックが残っている。名づけて「ミーちゃんブック」。

猫の絵
ちょこんと座るようにして、くつろぐ。「ミーちゃんブック」から

 鉛筆だけで、とても丁寧に描いていて、あまり絵が得意ではない僕にしてはよく描けていると、我ながら思う。残念ながら、写真は残っていない。

 ただ気になることがあった。鳴き声がとても小さく弱々しいのである。「ニャア」という声が聞こえるか、聞こえないかぐらい。エサもあまり食べない。子供心に心配だったが、ミーちゃんと一緒にいると、とても幸せだった。

「心のキズ」になっていた

 ところが、「あの日」は突然訪れた。1カ月ほどたったころ。2階に上がった姉が、突然ワーッと大声で泣き出したのだ。何事だろう? 母が、慌てて姉の部屋に行った。ミーちゃんが姉のベッドの上で、少し吐いて息絶えていた。

 小さかった僕には、何が起こったかわからなかった。でも、ミーちゃんが亡くなって横たわっている光景は、今でも覚えている。おそらくすぐに埋葬せずに、一晩応接間に寝かしておいたのだと思う。冷たくなって、動かないミーちゃんに、何と声をかけていいかわからなかった。

 ショックが大き過ぎて、その後「猫を飼おう」と言い出すことは一度もなかった。ミーちゃんが死んだことを忘れようとしたが、何かの拍子にポッとよみがえってきた。いま振り返ると、僕の「心のキズ」になっていたのだと思う。

猫のイラスト
ミーちゃんは真っ白で、しっぽは短かった。「ミーちゃんブック」から

 時が過ぎ、29歳で結婚し、妻が独身時代に飼っていた猫・チビと「いや応なしに」一緒に住むようになった。最初はミーちゃんのことを思い出し、抵抗があったが、徐々に猫との暮らしが楽しくなってきた。

 ミーちゃんとの別れはつらかったが、チビやその後のソマを可愛がることで、徐々にその傷を癒やしてきたのかもしれない。「ミーちゃんの分まで可愛がろう」という気持ちになってきた。いまも、3代目のジャッキーときなこに癒やされながら暮らしている。

思い切り泣くことができていれば

 猫好きの妻と結婚しなかったら、僕は、いまも猫を飼っていなかっただろう。それだけずっと僕の心の奥底に、たまったものがあった。

 それを改めて感じたのは、今年6月、朝日新聞土曜版beの「フロントランナー」で、日本ペットロス協会代表理事で、ペットロスカウンセラーの吉田千史さん(67)=川崎市=を取材したときだ。

 ペットロスの体験者の話を聞く中で、自分自身の心がつらくなってきた。ミーちゃんが亡くなったことを思い出したのである。

猫の絵
なが~くなって、くつろぐ。「ミーちゃんブック」から

 「悲しみをためることが、一番いけない」と吉田さんは教えてくれた。当時、吉田さんのようなペットロスカウンセラーがいて、思い切り泣くことができていれば違ったかもしれない。取材を終えて、そう思った。

 現代の「ペット社会」で、僕のようなペットロス経験をする人は、少なくない。愛猫や愛犬を看取った人たちへ、改めて伝えたい。思いっきり泣いていいんだよ、と。

 そして周りの人たちも、それを許してあげてほしい。そうしないと、ずっと引きずることになり、前へ進み出すことができないから。僕みたいに。

 次回は、結婚して初めて飼った猫・チビとの思い出を書く予定です。

 日本ペットロス協会やペットロスについての情報は、ホームページから。電話は、044・966・0445(午前10時~午後8時)。電話相談は有料。

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佐藤陽
1967年生まれ。91年朝日新聞社入社。大分支局、生活部、横浜総局などを経て、文化部(be編集部)記者。医療・介護問題に関心があり、超高齢化の現場を歩き続けてまとめた著書『日本で老いて死ぬということ』(朝日新聞出版)がある。近著は、様々な看取りのケースを取り上げた『看取りのプロに学ぶ 幸せな逝き方』(朝日新聞出版)。妻と娘2人、オス猫2匹と暮らす。妻はK-POPにハマり、看護師と大学生の娘たちも反抗期。慕ってくれるのは猫の「ジャッキー」と「きなこ」だけ。そんな日々を綴ります。

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この連載について
日だまり猫通信
イケメンのオス猫2匹と妻子と暮らす朝日新聞の佐藤陽記者が、猫好き一家の歴史をふりかえりながら、日々のできごとをつづります。
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