猫の健康バロメーター“おしっこ持参検査”始めませんか?

 

 猫の8割がかかるといわれる慢性腎臓病。sippoが行った健康管理についての読者アンケート(2020年7月31日~8月9日 n=919)では、腎臓病対策の重要性を知っていて、かつ対策をもっと知りたいという答えが多く寄せられました。そこで、公益財団法人 動物臨床医学研究所 理事長の山根義久先生に、腎臓病対策について話を聞きました。

––アンケートでは、飼い主さんの8割が、猫の8割が慢性腎臓病になることを知っていました。

山根:sippoの読者は猫の健康に対する意識がとても高い方が多いようですね。すばらしいことだと思います。慢性腎臓病は、だんだんと腎機能が低下していくため、初期のステージではなかなか見つかりにくい病気です。症状が進むにつれて、体の中の老廃物や有害物質が排出できなくなり、食欲が落ちてきて、水のようなおしっこに変わってきます。この段階で、飼い主さんも「おかしいかな?」と気づくことになりますが、腎臓は一度悪くなると、完治が難しい臓器です。

sippoの読者アンケート結果から。猫の健康管理に対する意識が高い。

––慢性腎臓病は命に関わるものなのでしょうか。

山根:はい。やがては腎不全を起こし死に至るとても怖い病気です。人間や犬であれば人工透析療法がありますが、猫の場合は血管も細くて難しいのであまり行いません。昔は治療法がありませんでした。今は当研究所が東レ(株)との共同研究で作った「ラプロス」という薬などもありますが、いまだに根本的な治療法はありません。多くの猫がかかる病でありながら、症状が出た時には手遅れということもありますから、飼い主さんにとってもやっかいです。

––そうなると、やはり早期発見、早期治療が慢性腎臓病対策には有効ですね。

山根:はい。早期発見で有効なのは、日頃からおしっこチェックをすることです。猫はリビア原産で砂漠地帯に生息していましたから、水を嫌いそもそも体内の水分の調整が下手なんです。そのため、6、7歳ぐらいになっていくと、腎機能が徐々に低下して、慢性腎臓病を発病しやすくなります。腎臓は、いらなくなった老廃物や毒素をおしっことして外に排出し、体に必要なものは再吸収する働きがあります。そのため、おしっこをチェックするのが、猫の健康状態をみるうえでとても大切です。

猫のおしっこの量、色、回数、匂い、をチェックしている人が多い。

––どのような点をチェックすればいいでしょうか。

山根:まずは量と回数、色でしょうね。慢性腎臓病が進むと頻尿になり量も増えます。また老廃物を排出する働きや水分を再吸収する機能が衰えているので、比重が軽く水のようなおしっこになり、色は薄くなります。また、おしっこをトレーに載せて、乾かしてみてキラキラする結晶があるかどうかを確かめるのもいいでしょう。

––匂いはどうでしょうか。

山根:慢性腎臓病だけなら、あまり匂いはありません。感染が起こって膀胱炎などになると臭くなってきます。

おしっこチェックへの意識が高い一方、チェックがしづらい「固まる猫砂」タイプのトイレを使っている人が約7割との結果が出た。

––猫のおしっこチェックは、トイレの形状や猫砂によって難しい場合もありますね。

山根:確かにおしっこで固まる猫砂は、わかりにくいでしょう。チェックには、上段に砂(トイレチップ)を入れて、下段におしっこがたまる二層構造の「システムトイレ」がおすすめです。下段にペットシーツを敷かずにおけば、量や色もわかりやすくて便利です。

システムトイレ
システムトイレのシートを取り外すとトレイにおしっこがたまり、簡単におしっこを採取できる。

––猫のおしっこだけを持参して簡易検査してもらえる動物病院もあるようです。

山根:とてもいい方法ですね。動物病院を嫌う猫も多いので、まずはおしっこを持って行き、先生に「食欲がない、痩せてきた」などそのほかの体の変化も伝えて簡易検査してもらうといいでしょう。すると先生も、おしっこの検査結果をみながら、さらに診察や血液検査などが必要かどうか判断しやすくなります。

おしっこだけの簡易検査を知っている人は約7割、実際に行ったことがある人は約5割と関心の高まりが見られた。

––おしっこを持って行くときの注意点はありますか。

山根:まずは清潔な容器を使用すること。システムトイレの猫砂やトレーも清潔にしておきます。そして採取したら、できるだけ早く動物病院に持って行くことです。

––採取したら何時間以内に持って行くべきでしょうか。

山根:常温の場合は3時間、どんなに遅くても半日6時間以内なら、検査に大きく影響がないことを確認しています。また夜に採ったものを朝まで保存して持って行く場合、冷蔵庫に入れておけば数値に変化がないことも確認しています。

おしっこだけの簡易検査に意欲のある人が8割を超えた。今後、さらなる高まりが予想される。

––猫砂(トイレチップ)がおしっこの成分に影響を与えることがあるそうですが……。

山根:システムトイレでも使う猫砂(トイレチップ)によっては、おしっこのpHやミネラル成分が変わることもあるようです。猫砂のパッケージなどの表示を確認してから、おしっこの採取に適したものを使いましょう。

システムトイレと猫
システムトイレの猫砂がおしっこの成分に影響を与えないか、パッケージやホームページをチェック

––まずは、猫と長く幸せに暮らすためには、毎日のおしっこチェック、そして定期的な簡易検査ですね。

山根:そうです。逆にいえば、毎日のおしっこチェックをしていないと異常にも気づきにくいのです。冒頭にお話ししたように、慢性腎臓病は知らず知らずのうちに進行してしまいますから、飼い主さんの健康管理が猫の寿命にも関わることになります。また異常を感じた時に注意したいのは、ネットなどの情報に頼って自分で判断しないことです。知識ではなく、観察が重要です。そしてかかりつけの獣医師と日頃からコミュニケーションをとって、猫の行動や体調、おしっこにいつもと違う点が見つかればすぐに相談すること。それが、猫が長く健康に暮らせることにつながります。まずは、おしっこ採取に慣れるためにも、一度おしっこ持参検査を試してみてはいかがでしょうか。

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山根義久先生
1943年生まれ。公益財団法人動物臨床医学研究所理事長、倉吉動物医療センター・米子動物医療センター 会長、東京農工大学名誉教授。医学博士、 獣医学博士。2013年まで日本獣医師会会長を務めた。

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