多頭崩壊から救出されたボロボロの猫 一緒に過ごすうちに不登校の少年の心は変わった

少年と猫
大好きなメロディに寄り添う晴君

 多頭崩壊現場から救出されたメス猫が、保護団体を通して男の子と出会った。猫は劣悪な環境に長くいたせいか皮膚病で毛が薄く、アレルギーで涙目だったが、男の子はそんなことは気にしなかった。会ったとたんに「僕の天使」と呼び、今はピカピカの新居で仲良く暮らしている。

(末尾に写真特集があります)

人が大好きな猫

 埼玉県内のきれいな一軒家。今年5月に引っ越してきたという新居のリビングに入ると、キジ白の小柄な猫がこちらを見上げ、近づいてきた。

「この子がメロディ、推定3歳から5歳と聞いています。人が大好きなんですよ」

 母親の千緒さん(36歳)が話す横で、小学5年生の晴君(10歳)が「そうそう物おじしない」と相づちを打つ。

「名前はもともと付いていたのをまんまもらったんだけど、可愛いし、呼びやすいです」

 晴君は千緒さんと二人暮らし。今年5月のこの家に引っ越してきて、初めて猫を飼ったそうだ。それまでは賃貸アパートでペットは欲しくても飼えなかった。

猫を抱きしめる少年
「抱くと気持ちいい、君は天使」

「俺、じつをいうと小学4年の3学期から事情で不登校になって……少し病んでいたので何か癒やしが欲しくって、家も広くなったので飼ってもらいました。いとこの家に源ちゃんって猫がいるので、前から猫と触れあってはいたけど」

 流暢に、大人顔負けの口調で説明する。そんな晴君のそばにメロディが近づいてくる。

「メロ~。俺の天使」

天使が足に乗ってきた

 晴君が天使と出会った場所は、保護猫カフェ「ねこかつ」。“ペットショップで買うのではなく保護猫を飼いたいね”と母の千緒さんと話し、ふたりで訪れたのだ。

 そこで晴君を見つけ“まっしぐら”にやってきたのがメロディだった。

「ちょっと休もうかなと思って、床に座ってぼーとしていたら、俺の足に乗ってきたので、『ああ、こいついいな~』って思ったんです」

 その時の様子を、千緒さんも振り返る。

「メロディには悪いけど、私はミーハーなので、あの猫も可愛いよなんてカフェを見回していたんです……。でも息子は、『この子も十分に可愛い、決めた』と。見た目なんか気にもしなかった。メロディも息子を選んだ感じでしたし、引き合うものがあったのかもしれません」

 “相思相愛”という言葉がぴったりなのかもしれない。

 だが面白いことに、メロディが晴君にくっつくのは日中、起きている時だけ。夜、寝る時は千緒さんに甘えるのだという。

「俺のこと好きだとは思うんだけど、でも夜はふとんに来てくれない、相手にしてくれないんだよね。俺、夜は荒野のガンマンボーイみたいな気分」

メロディはゴミ屋敷の中にいた

 メロディは、昨年11月まで埼玉県所沢市で多頭崩壊をおこした民家にいた。

 救出したねこかつの代表・梅田さんによれば、25匹がアンモニア臭でむせかえるゴミ屋敷に暮らしていたそうだ。当時のねこかつのブログには、床だけでなく棚にも糞がぎっしり堆積した写真が載っている。その散らかった中に、メロディの姿もあった。

多頭飼育崩壊現場の猫
崩壊現場のゴミの中にいたメロディ(ねこかつ提供)

 梅田さんがいう。

「家主はもともと猫が好きで、外の猫を助けようとして家にいれたそうですが、25匹まで増えてしまったと……。そんな環境で猫は飼えません。不衛生な中でメロディはひどいノミアレルギーを起こし、毛穴までダメージを受けてはげはげの状態でした。レスキュー後に毛が生えてきたけど、まばらで、皮膚もたるんで、残念な感じだったんです。そんなメロディが小学生と巡り合い、ピカピカの新居で愛されている。奇跡のようなことです」

 じつは、メロディと会った後、晴君にも変化が起きていた。

「ねえゲームいつ終わる?」「待って、あと30分」

学校に戻った

 晴君がメロディを迎えたのは、ちょうどコロナの自粛期間中だったが、メロディと過ごすうちに、気持ちが動いたのだという。

「癒やされたというか、メロディが来たことによって感情が変わりました。それまでは何でも、ああもういいやって感じだったけど、毎日が楽しくなった。コロナの自粛明けに学校に戻ることができて、今は友達と遊ぶのが楽しいことの1位で、メロディと遊ぶのが楽しいことの2位。ずっとメロメロなのは変わらないけど」

 メロディの存在はとても大きく、「家の雰囲気も変わった」と母の千緒さんがほほ笑んだ。

「家が明るくなったし、息子と共通の話題もできて、親子でメロディを囲んで、家族“3人”で居間で過ごす時間が増えました。私がメロディを可愛がりすぎると、息子が焼きもちをやくこともあるんです(笑)」

 取材を終え、晴君がゲームを始めると、メロディが何か言いたげな表情で晴君をのぞき込むようにした。どうやら今度はメロディが焼きもちをやく番のようだ。

「おにいちゃん、ゲームより私と遊んで」そんな声が聞こえてきそう。

 新たな生活は始まったばかり。どうかいつまでも仲良くね……。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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