たかが抜け毛、されど抜け毛 猫の毛質は多種多様、ブラッシングで腰を抜かす猫も

とにかく細くてやわらかくて、どこにでもへばりついたのがココ(メス)の毛でした。それだけに手触りはふわふわのもふもふ。おなかに顔をうずめると至福でした

 中学時代に生まれて初めて猫を飼った日から、私の身辺に「猫の毛」が付きまとわない日はありません。今回はそんな猫の毛のお話。

(末尾に写真特集があります)

玄関でおもむろに服を脱ぐ!

 洗ったばかりのバスタオルをおろしたはずなのに、お風呂上がりに顔を拭いたら猫の毛が…。飼っている人なら、だれしも覚えがあるのではないでしょうか。

 人間も人によって髪質が異なるように、猫の毛も全く違います。それも親子、きょうだいで違うから面白いものです。

 今から20年以上前、アメリカンショートヘアのクリス、ココのきょうだいを飼っていた時は、本当に悩まされました。

 特に女の子のココは、柔らかくて細くて、コシのない毛質。つまり「どこにでもへばりつく」のです。

 私は昔も今も、黒い服が好きなのですが、それは限りなくぜいたくというもの。

 お気に入りの黒いセーターやらスカートやら。帰宅したら玄関で脱ぎます。コートなら裏表になるように丸めます。

 脱いだ服は玄関先に用意したビニール袋に入れて、毛がつかないうちに猫が入り込めないウオークインクローゼットへ(そこでハンガーにかけて風に当てます)。

 帰ってきたと思ったら、いきなり半裸で入ってくる妻にびっくりしていた夫ですが、理由を聞いてからはただ苦笑するだけになりました。

クリス(オス)はココとはよく似ていたけれど毛質は違いました。ココよりも太くてハリがある分、扱いは楽でしたが、とにかく抜ける量が半端ない。ブラッシングの「やめどき」がわからないほどでした

ありとあらゆるブラシを試した

 もちろん、問題解決にはブラッシングが不可欠です。ペットショップのケア用品コーナーに立ち寄っては、ありとあらゆるブラシを試しました。

 細かいワイヤーがびっしり生えたタイプ。

 ウレタン素材にトゲトゲのついたタイプ。

 細かい歯のついたくしタイプ。

 今もこの3種類を使い分けています。

 そのほかにも、軍手みたいな手袋にゴム製のパッドがついたタイプもありましたね。それから、服やクッション、カーテンなど布についた猫の毛をおとす、スポンジのようなものも買いましたっけ。

 しかし、どんなブラシや道具を使おうとも、とにかく大変だったのがブラッシングそのものでした。

個性が出る大イベント「ブラッシング」

 我が家で猫のブラッシングをするのは「お風呂場」と決めています。まず間違いなく人間は毛だらけになりますから。

 特に今は6匹(うち、ブラッシングできるのは5匹)もいるので、終わるころには冬でも汗だく&毛だらけ。終わったら即、そのまんまシャワーです。(排水溝にはネットを張って、猫の毛を流さないようにします)

 ブラッシングを喜ぶ猫は、過去にも現在にも一匹もいません。

 喜ばないまでも、面倒くさそうに受け入れるタイプもいれば、断固拒否!タイプも。

 アーサーや梵天丸など、ボス猫タイプは前者。雌猫はたいていが怖がり→逆切れのパターンをたどります。

 今まで一番おどろいたのは、アビシニアンのディーナでした。

 のどが張り裂けんばかりの大声で鳴いたかと思うと(まだほとんどブラッシングもしてないのに)突然黙り込みました。ぐねぐねと体をよじって逃れようとしていたのもやみ、「よしよし。諦めてくれたか。すぐ終わるからね」と声をかけた瞬間。

 ディーナはくたん、と横に倒れたのです。

腰を抜かした猫

 それにはこっちがびっくりです。

 どうやら意識はあります。目も見えていてこちらを見ているのですが、何度立たせても、こてん、と横になってしまいます。四肢に力が入らないのです。

 さあ、私の方がパニックです。今までいろんな猫を飼ってきましたが、こんな対応に出た子は初めてです。

 ブラシを放り出し、そっと抱き上げてみると呼吸も心拍も落ち着いています。顔をもたげてこちらをみつめてくるので「立てない」以外に異常はありません。怒ってもいないようです。

 ディーナを抱いたまま、自分が毛だらけなのもかまわず電話に突進。かかりつけの獣医さんに電話しました。すると電話口で先生が笑い出しました。

「大丈夫、おちついて。それはね、ディーナちゃん、あまりのストレスで腰を抜かしたんですよ。ときどきいるんです。診察中に腰抜かす子。恐怖心が極限に達したんですね。意識も呼吸も正常で、てんかんやひきつけ、けいれんがなければ大丈夫。しばらく触らずに落ち着かせてあげてください。30分経っても立てないようなら連れてきて」

腰を抜かしたお嬢さん、ディーナ。普段から気が強いくせに、誰よりも怖がり。怖がった揚げ句に逆切れする小娘でしたが、まさか腰を抜かすとは……

 実際、リビングに寝かせておいたら10分もしないうちに復活!心の底からほっとしました。特段、乱暴に扱ったつもりもないし、大きな音がしたわけでも、脅かしたわけでもないのに。

 復活したとはいえ、記憶が新しいうちにブラッシングを再開すると、また腰を抜かすかもしれません。もうその日は諦めて、ほかの子のブラッシングを手早く済ませました。

 その後も、ディーナにブラッシングしたことはありますが、どういうわけか腰を抜かしたのはその時一回だけ。いったいあれは何だったのか。いまだに謎です。

 今我が家にいる6匹にも、腰を抜かす子はいません。嫌がって抵抗する子、ブラシにかみつく子、反応はまちまちです。

 そして一匹ずつ、ブラッシングを終えると、抜けた毛を丸めます。

 それを並べて、それぞれの毛の色の違いや抜けた毛の量を比べて眺めるのが、楽しいのです。

今年6月にブラッシングしたときの「成果」。一番大きなボールはアルの抜け毛。隣の小さいのがベル。薄茶が梵天丸。その横がハチワレキジトラのエンマ。一番小さいのが白三毛のボビさんです

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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