シリアルバーのためにネズミが溺れさせられる!? 身近な食品で行われている動物実験
想像してみてください。もしあなたが、足のつかない、つかまるところもないプールや海にひとり放り込まれたとしたら。ライフジャケットも着ていない、助けてくれるライフガードもいない。
必死にもがいて、何かにつかまろうとし、そこから逃げようとする。何度も何度もトライしても助からない――。こんな恐怖を、ラットやマウスに人為的に味わわせるのが、「強制水泳試験」という名の動物実験です。
必死にもがく様子を観察
水の入ったシリンダーや水槽などにラットやマウスを落とし、脱出しようと必死にもがく様子を観察するというもので、壁をよじ登ろうとしたり、出口を求めて水中へ潜ったりするなど、最初はストレスから逃げようとするのですが、そのうちに体力や気力を失って動かなくなるという失望状態に陥ります。
この一連の流れから、主に抗うつ薬のスクリーニングのための動物実験として40年以上にわたって世界的に行われてきました。
ネズミを溺れさせるこの強制水泳試験が、私たちが普段口にする食品のためにも行われていることを、今回ご紹介したいと思います。
食品の「機能性」のために
CMなどでもよく見かける「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」はいま、食品業界で最も開発が華やかな分野です。いずれも栄養機能表示が許されている食品分類で、「トクホ」が消費者庁による許可が必要である一方、「機能性表示食品」は事業者の責任で国に届け出を行い製造販売されます。
この食品の効き目(有効性/機能性)と安全性を明らかにするために、動物実験が行われることがあります。いずれも、いままで多くの人に食べられてきたものやヒト試験でデータが得られているもので商品設計を行えば動物実験を行う必要はないのですが、食経験が少ないものやヒトでのデータがないなど新規性のあるものを使って商品を開発しようとすると、動物実験が必要になるというわけです。
「健康寿命の延伸」という大義名分のもと、いまの食品業界では、食べ物に不自然な〈機能性〉を添加して目新しい新商品を展開し利益を上げる、そのために本来不要であるはずの動物実験が行われる、という構図が浮かび上がってきます
安価な実験を選ぶ企業
強制水泳試験に話を戻します。
たとえば、シリアルバーに「運動後の疲労感を軽くする」という機能性を表示しようとするとします。その効果を確認するためにはたとえば数十人の成人男女を対象に、実際に食べてもらい運動してもらうというヒト試験を行えばよいわけですが、一度で期待する結果が出るとは限らないため、できる限り少ない予算で最大の効果を得たい企業は、予備試験として安価な動物実験を行うわけです。
運動による疲労度をみる方法としては、ラット・マウス用のいわゆるランニングマシンを使った「トレッドミル試験」のほか、この強制水泳試験が主流で、この場合、動物実験のコストはヒト試験の約1/10以下とも言われています。
動物実験を望まない社会的ニーズの高まり
JAVAではこの数年、この強制水泳試験に限らず動物実験を廃止するよう食品メーカーに対して働きかけてきました。
それにより、2016年にはキッコーマンが、商品の製造過程における安全性や機能性などの確認に限らず基礎研究も含めすべての動物実験を廃止することを確約。2018年に廃止したヤクルト本社、日清食品グループ、不二製油グループ、キユーピーは、「食経験を優先し、今後もしトクホの新商品を出すことになった場合でも、動物実験ではない方法によるデータで許可申請を行う」(ヤクルト本社、日清)、「効能があるかもしれないと考えられる素材や成分の探索のための動物実験がなかなか手放せなかったがこれも廃止に踏み切った」(不二製油)、「動物実験が必要になるような素材の開発などには踏み込まないような商品設計で進めている」(キユーピー)としています。
直近では今年7月、アサヒグループホールディングスが2021年12月末までに食品・飲料分野の動物実験を廃止する意向であることをJAVAに対して明らかにしました。
この背景にあるのは、まぎれもなく、動物実験を望まない消費者の声が生んだ社会的なニーズの高まりです。
事実、米国製薬企業のジョンソン・アンド・ジョンソンはすでに抗うつ研究のための強制水泳試験を廃止。昨年にはロシュ、アストラゼネカ、ノボノルディスクといった業界大手各社も廃止の意向であることを、米国に本部をおく動物保護団体PETAに対して明らかにしています。
40年以上前、人々の動物に対する意識はいまよりも低かったでしょう。しかし、2020年のいま、動物を単なる機械だと考える人はいないのではないでしょうか。動物の苦しみに頼ってきた試験方法も、40年前からアップデートされてしかるべきです。ヒトとの間に種差のある動物を使うのではなく、ヒトの細胞を用いた試験や、ヒトの心身に基づいたコンピューターモデルの活用など、21世紀の医科学研究の進展が望まれます。
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