授乳中のノラ猫かあさんは疲れ切っていた その姿をみた隣家の3世代が保護大作戦

 隣家の裏で3匹の子猫に授乳中の母猫は、痩せて小さく、疲れていた。「やるっきゃない」と、母と娘は迷わず保護を決めた。祖母もすぐに賛成し、夫と息子は見守り隊に。近隣に「4匹共うちで保護しますから」と伝え、まったく人なれしていないノラ一家の捕獲大作戦は始まった。

(末尾に写真特集があります)

ノラ母さんは疲れていた

「子猫がそこを歩いてたよ」と、庭から部屋へ戻った夫が言う。眞利子さんは、娘の陽子さんといっしょに庭に出てみた。母猫らしき猫が隣家との境界の石垣から、一瞬顔をのぞかせた。見かけたことのない猫である。どこかから流れてきたのか、鼻の頭のはげたノラ顔で、小柄な痩せた猫だった。

授乳する猫
隣家の裏で授乳中(陽子さん提供)

 隣家の裏で石砂利の上に身を横たえ、3匹の子に乳を含ませている母猫のげっそり疲れたようすに、眞利子さんは胸を締めつけられた。

「このままでは、子猫たちは育たない。母猫も心配」と、娘の陽子さんと共に、すぐに4匹共の保護を決めた。今年4月の連休前のことである。餌やりだけで済ますつもりなどなかった。

 家には、すでに犬1匹、猫3匹がいる。駅前をうろついていたのを保護した老犬モモ(7月に16歳で天国へ)。捨て猫だったのを譲り受けたゴン太。雪の残る日に林で保護した黒猫ユキ。捨て猫4兄弟のうち1匹家に残した風太。みな「目の前に現れた縁」で迎えた、行き場のなかった子たちだ。

少しずつおびき寄せ作戦

 眞利子さんの母、きよ子さんも一斉保護に賛成。夫と息子も、積極的賛成ではないが、「見守り隊」に回った。

 さあ、捕獲大作戦開始だ。保護経験は数えきれないが、今回のノラ母さんは、まったく人を寄せ付けないバリバリのノラである。子猫たちも、母さんを見習って、逃げ足の速いことといったら。

野良猫
子猫たちは警戒心のかたまり(陽子さん提供)

 すぐに「裏に子育て中の猫がいる」と、親しくしている隣家に知らせ、「うちで餌付けして4匹共保護しますから」と伝えた。

 まずは、自宅敷地内に餌でおびき寄せなければ。捕獲は一斉にしないと、残った猫に警戒心を与えてしまうし、母子離れ離れはかわいそうだ。

 庭に餌皿を置くが、目の前では食べず、いつのまにか、皿が空になっている。

 母猫は、子育て場所を何度か移動した。眞利子さんたちは、屋上から双眼鏡で空き地や空き家に母子の姿を確認。そのたびに、近くの家に「うちで保護するために餌付けをしています」と言いにいき、追い立てないよう頼んだ。猫を好きな家も嫌いな家もあったが、「そうしてくれるなら、うれしい」と、周囲一帯が見守りを約束してくれた。

 母猫は、けっして触らせないながらも、近くで餌を食べるようになった。「お代わりする?」と聞くと、ウィンクで答える。

目を閉じる野良猫
人目につかない場所でひと休みの母猫

 餌場を庭先から物置の入り口近くへ。そして、徐々に奥へ。作戦はあと一歩。だが、母子は交代で中に入り、子猫が食べているときは、母猫は外で見張るという用心深さだ。

 5月の夜明け前。裏の家の畑で子猫の必死な鳴き声が響いた。跳び起きて駆けつけると、ニガウリの鳥よけネットに子猫が足を絡めている。暴れたせいで、ネットはぐるぐると固く足を締め付けていた。

「子猫の顔に上着をかぶせ、ネットを切って助けましたが、挟まれた足は冷たくなっていて、危ないところでした」と、眞利子さん。母猫は、残る子どもたちを危険から遠ざけるためか、近寄らなかったという。畑の持ち主は猫が苦手な家だったが、保護することを伝えてあったので、ネットを切ったことも事後承諾で済んだ。

作戦大成功!その日のうちに全員捕獲

 子猫を1匹保護したからには、きょうこそ練習を重ねた作戦実行だ。しばらくして母猫だけが物置に餌を食べにきた。物置の入り口は猫が入る幅だけ開けてある。母猫が奥に入るのを2階から確認した眞利子さんは、庭に潜む陽子さんに合図を送る。「今よ!」

 陽子さんは、手中のひもを引っ張った。ひもの先は、物置の引き戸に大きな洗濯ばさみで挟んであって、戸はカラカラと閉まった。上の方は段ボールで塞いである出口にケージを構え、猫の幅だけ開けると、母猫が飛び出してきて、みごとにケージイン。すぐに、室内の大きなケージハウスに保護済みの子猫のもとへ。

 午後には、残る子猫2匹も、同じ方法で同時に捕獲。4匹は、すぐに合流できたため安心した様子だったという。

「保護はごく自然なことでした」

 子猫たちは、先住猫のゴン太おじいちゃんや風太お兄ちゃんに遊んでもらい、人にもなれて、次々ともらわれていった。

「譲渡先が見つからなかったら、うちで4匹飼うつもりでした。譲渡するにしても、見知らぬ人に渡して、その後を聞けなくなるのは嫌。家族がそれぞれ知り合いに声をかけて、3匹ともいいおうちが見つかり一安心。母さん猫は、最初から残すつもりでした」と、陽子さんは言う。

3人の女性と猫
16歳のゴン太くんと、(左から)陽子さん、眞利子さん、きよ子さん

 眞利子さんも陽子さんも「犬であっても猫であっても目の前に現れた、行き場のない命を保護するのは、ごく自然なこと。ふつうの家族が、ふつうのことをしたまで」と口をそろえる。「来るもの拒まず」「縁を大切に」は、きよ子さん譲りのモットーだ。

 3世代が力を合わせたこの大作戦。実行部隊は、眞利子さん・陽子さん母娘だったが、手ごわい母猫の「懐柔」という仕上げの役割をしっかりと受け持つのは、祖母のきよ子さんだ。

 タマという名になった母猫は、日に日に心を開きつつある。猫たちはどの部屋にも出入り自由だが、タマは、きよ子さんのゆっくりした動作が安心できるようで、きよ子さんの部屋を「マイルーム」としてくつろぐ日々。食いしん坊で、ご飯を要求する声にも甘えが出てきた。

エサを食べる猫
食欲旺盛、ふっくらしてきたタマ

 86歳のきよ子さんは、若くして夫を亡くし、学校の用務員として働きながら、眞利子さんたち3人の子を育てあげた。定年後にようやく自分の時間を持てるようになって楽しんでいるのが、日本刺繍だ。窓辺で針を刺すきよ子さんの足元に、同じく懸命な子育てを終えて穏やかな日々を手に入れたタマは、そっと寄り添う。

「タマはいま、夜は私のベッドの下で寝ていますけど、寒くなってきたら、布団で一緒に寝てくれるでしょう。ふふ、とっても楽しみです」と、きよ子さんはほほ笑んだ。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」連載は10年目。

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この特集について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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