猫の寄生虫、どんな子も迎える前に検査・駆虫の習慣を 獣医師と保護猫のプロに聞く

「ちよだニャンとなる会」の事務局で新しい家族を待っている元外猫の「フラディ」
「ちよだニャンとなる会」の事務局で新しい家族を待っている元外猫の「フラディ」(ちよだニャンとなる会提供)

「保護猫」を家族に迎えようと考える人が増えている。外暮らしを経験したことのある猫の場合、ノミ、マダニや回虫などのお腹の虫が寄生している可能性は高い。

 多くの保護猫を新しい家族に譲渡している「一般財団法人ちよだニャンとなる会」副代表理事の古川尚美さんと、東京猫医療センター院長の服部幸先生が、保護猫の寄生虫事情や、保護猫を迎える際に気をつけることについて語り合った。

外で生活した経験のある猫には「寄生虫はいる」

ーー「保護猫」の寄生虫事情は?

古川 「保護猫」と一言で言っても、バックグラウンドはそれぞれです。多頭飼育が崩壊したところから救出した猫や、経済的な理由で飼い主から遺棄される猫もいますが、飼い主がいない猫の場合、ほとんどが外暮らしの経験があります。そういう猫たちにはほとんど寄生虫がいますね。

服部 季節にもよりますが、ノミはほぼついています。回虫や瓜実条虫はいたりいなかったり。原虫であるコクシジウムについては地域によっては多いところも。いずれにしても、外で生活していた猫ならば何かしらの寄生虫がいると考えていいでしょう。

 生まれたばかりの子猫はノミの大量寄生で貧血を起こすケースもありますが、ある程度成長していて、体力と免疫力があれば命に関わることはそうはありません。そもそも寄生虫は「宿主」である猫が死んでしまえば自分たちも死ぬことになる。「生かさず殺さずして自分の子孫を増やす」というのが寄生虫の戦略なのです。

 消化管に寄生する虫ならば、下痢をさせて大量の便を猫がバラまくことで寄生虫を拡散することができる。しかし、下痢が続けば脱水症状を起こし体力が奪われます。回虫は人間にも感染するので、一刻も早く駆虫した方がいいでしょう。

遺棄されたとおぼしきキジ白の子猫
遺棄されたとおぼしき子猫。健康チェックの結果、ノミが見つかったとか(ちよだニャンとなる会提供)

古川 うちの団体では、2018年から保護施設を兼ねた保護猫カフェを始めたのですが、ここに入れる猫には、下痢を引き起こすウイルス、細菌、原虫など異なる種類の病原体の有無を調べるPCR検査しています。

 万が一なにか寄生している場合、ほかのすべての猫たちにうつってしまいますし、服部先生がおっしゃったように人獣共通の寄生虫や感染症もあるので、カフェに来てくれた人たちも危険に晒すことになる。そこは徹底して取り組んでいます。

服部 PCR検査まで実践しているのは素晴らしいですね。新型コロナウイルスで認知されるようになったPCR検査ですが、それでも100パーセント正確な結果は出ませんし、PCR検査はウイルス、細菌、原虫を調べるもので、回虫や条虫などの寄生虫は検査できません。

 ましてや顕微鏡検査では限界があり、たとえば回虫に感染している猫を10匹集めて便検査をしても陽性になるのは6匹程度です。外で保護された猫ならば「寄生虫はいるもの」と仮定し、早々に駆虫薬を投薬したほうがいいと思います。

 また、寄生虫に関しては地域によって特徴や傾向があったりします。田舎で外に出る猫は、トカゲやヘビを食べることで寄生する虫もいる。都会でも、私が勤務する病院がある江東区には河川が多いこともあり、マンソン裂頭条虫に寄生された猫を診ることも少なくありません。それぞれの寄生虫事情については地域の獣医師が一番詳しいので、アドバイスを仰ぐといいでしょう。

「ちよだニャンとなる会」の譲渡ページ
「ちよだニャンとなる会」の猫たちの情報には、寄生虫の駆虫済みかどうか明記されている(同会HPより)

譲渡される猫も外で拾った猫も家に迎える前に動物病院へ

ーー人なれしていない猫の場合だと、投薬は難しいのでは?

古川 猫を保護した時は、まず動物病院へ搬送し基本的な駆虫、未手術であれば不妊去勢手術、ウイルス検査、ワクチン接種、マイクロチップ装着をしています。その後、預かりボランティアさんや当会運営の保護猫カフェに行きますが、すぐに部屋に放すのではなく、まずはケージに入ってもらいます。ケージに入ってもらうことで、新しい環境に対する猫のストレスを軽減したり、人に慣れるようにしていきます。薬が滴下タイプならケージ越しに落としたり、洗濯ネットに入れて投薬することもあります。

 しかし、やはり人なれしていない子は多く、そもそもほとんどの猫は抱っこされることが苦手。無理やり投薬することは猫にも人間にもストレスになります。保護したばかりの猫は、基本的に獣医さんにお任せすることが多いですね。

服部 最近ではノミ、マダニ、フィラリア、回虫、条虫まで一つの薬剤で駆除できるオールインワンタイプもあり、ボランティアさんや飼い主さんでも投薬しやすくなっていると思います。

 ただ、外で拾って来た猫はそのまま家に入れてしまうと、ノミはもちろん、腸内に回虫が寄生して入ればウンチをすることで肛門周囲の毛に虫卵が付着し、家の中にばらまいてしまう。回虫は人間にも寄生するので、猫の健康はもちろん、飼い主のためにも、必ず家に入れる前に獣医師による検査や投薬をした方がいいでしょう。

 保護団体から譲渡された猫も、駆虫にかかる時間は個体差があり、また、保護団体によっては金銭的な理由などでケアがしきれていない場合もあります。そういう意味では、譲渡された猫でも、家に入れる前にまずは動物病院へ連れて行くことが大事だと思います。

「ちよだニャンとなる会」の事務局で暮らす猫たち
事務局で暮らす猫たち。きちんと健康管理され、みんな元気そう(ちよだニャンとなる会提供)

古川 通常は駆虫・便検査2回を行って、きちんと駆虫されたことを確認してから預かりボランティアさんのもとに猫がいきますが、今回新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛が急遽あり、2回目の検査ができないことがありました。

 その中で瓜実条虫が出てしまったことがあって。ボランティアさんだったので冷静に対応していただきましたが、これが初めて迎えた猫だったら飼い主さんが驚いてパニックになっていたかも。

 今年は西日本の豪雨災害がありましたが、災害によって保護される猫も少なくありません。災害時の混乱の中では寄生虫対策も含め平時のように手厚くできないケースも出てくるかもしれません。そうした非常事態時の対応も今後は考えていく必要があると思っています。

同居犬がノミやマダニを持ってきてしまうことも

古川 最近、インスタグラムなどでワンちゃんと猫ちゃんが仲良くしているかわいい写真がたくさん投稿されていて、そうした影響もあるのか、「家には犬がいるんだけど次は猫を迎えたい」という譲渡希望の方が増えています。うちの団体では完全室内飼育を条件に譲渡していますが、ワンちゃんはお散歩に行くのでノミやマダニを家の中に持って来てしまう可能性があります。猫ちゃんがワンちゃんと一緒に暮らす上で、どのようなアドバイスをすればいいでしょうか?

服部 基本的には、犬も猫も月1回のケアは必須、ということは伝えるべきでしょう。ノミはもちろん、猫もフィラリアを発症すると深刻な事態に陥ることがあるので、定期的に予防をした方がいい。

 さらに気をつけるべきが、マダニです。西日本ではマダニが媒介となって引き起こされるウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」が猫にも人間にも発症し、深刻な事態になっています。発症すると、その致死率は猫が約60パーセント、人間は30パーセントとも言われ、その脅威は新型コロナウイルス感染症の比じゃない。これから対策を考えていかなければならない新しい感染症だと思います。

古川 気をつけることはありますか?

服部 とにかく絶対にマダニに刺されないこと。マダニがいるような場所に近づくときは長袖、長ズボンを着用し、手袋やマスクも忘れないことです。

古川 なるほど、完全防備が大事なのですね。外で猫を保護する時には気をつけます!

 さらに言えば、屋外で猫が繁殖してしまうことが根本的な問題であり、ここを解決していくべきだと思っています。地域による差はどうしても生まれてしまいますが、しっかりと不妊去勢手術が行き届き、外で生きる猫を減らしていくことが重要だと考えています。

お腹を出して寝るキジ猫
同会から猫を引き取りたい場合、「完全室内飼育」が必須の譲渡条件(ちよだニャンとなる会提供)

定期的な投薬でコミュニケーション 将来病気になったときにも役立つ

ーー月1回の投薬、自宅で上手にやるコツは?

服部 滴下タイプならそこまで大変じゃないと思います。もちろん逃げたり嫌がったりする子もいるとは思いますが、この時点で投薬ができないと、その後、医療行為を一切受けられなくなる可能性がある。

 若いうちは寄生虫のケアだけでよくても、高齢になれば腎臓病や心臓病、ガンといった重篤な病気になることもあり、そのとき何もできなくなってしまいます。若いうちに猫の体に触れること、猫からすれば触られることに、双方とも慣れていった方がいい。それができることで、猫と本当の家族になっていけるのだと思います。

 それから、ペットショップやブリーダーから迎えた猫には寄生虫がついていないと思われがちですが、そんなことはありません。ある意味、外で暮らす子猫は母親としか接していないことがほとんどですが、ブリーダーによっては、同じスペースにたくさんの猫がいるというケースも。一匹でも虫が寄生していたら、すべての子に広まってしまいます。ペットショップも同様です。

 保護猫は汚い、不健康、対して純血種がきれいで健康、ということはありません。どんな形であれ、猫を迎える場合はその前に病院で検査、駆虫をしてもらうことが大事なのです。

純血猫のシンガプーラを保護するちよだニャンとなる会のスタッフ
最近は純血種の猫を保護するケースも見られるそう(ちよだニャンとなる会提供)

古川 コロナの影響で、経済的な理由で飼いきれずに捨て猫が増えています。そういう子は人になれているので簡単に捕獲でき、ノミも明らかに少なくて。災害や社会情勢で保護猫を取り巻く環境も変化しているのを目の当たりにし、そこにどう対応していくかは大きな課題ととらえています。

服部 そうですね。いずれにしても、保護猫も新しい飼い主となる人間も、生活の質を保ち健康を心がけることが、幸せな日々につながります。繰り返しになりますが、そのためにも病院での定期的な診察、予防を心がけてもらいたいと願っています。

服部 幸 先生
東京猫医療センター(東京都江東区)院長。JSFM(ねこ医学会)CFC理事。 北里大獣医学部卒。2005年から猫専門病院長を務める。2012年に東京猫医療センターを開院。2013年、国際猫医学会からアジアで2件目となる「キャット・フレンドリー・クリニック」のゴールドレベルに認定される。
https://tokyofmc.jp/
一般財団法人ちよだニャンとなる会
東京都千代田区を拠点に活動する動物愛護団体。千代田区と協働で取り組み、2011年には全国に先駆けて「猫の殺処分ゼロ」を実現し継続中。行政とボランティアが協力して猫の問題や課題に取り組む『千代田モデル』を確立を確立し、同様の問題を抱える他の自治体や団体からも大きな注目を集めている。
https://www.chiyoda-nyan.org/

  

中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この特集について
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愛猫と長く健康に暮らすための、獣医師からの珠玉のアドバイス。この特集は「ネコも動物病院プロジェクト」の一環です。supported byベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパン
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