「育犬ノイローゼ」のかけこみ寺 子犬と飼い主を笑顔にするスゴ腕ショップ店長
「家族として一緒に幸せに暮らしたい」。誰もがそう願って子犬を迎えるはずだ。小さくてモフモフかわいい子犬は、しかし、トイレを覚えるまではあちこちでオシッコもウンチもする。夜鳴きが止まらない子も。
振り回されているうちにどんどん成長し、甘噛みはいつの間にか本気噛みになり、警戒や要求から吠えるように。飼い主の姿が見えなくなるとギャン鳴きし、お散歩に行けば人や犬に吠えまくりーー。こうした手に負えない子犬に困惑し、疲れ果て、途方にくれる飼い主は少なくない。
「なんで言うことを聞いてくれないの?」
「かわいいと思いたいのにイライラしてしまう……」
そんな「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が、ワラをもつかむ思いでたどり着く「かけこみ寺」のペットショップがある。
「犬社会のルール」を知らない子犬たち
東京・中目黒。駅を出ると目の前にタワーマンションがそびえ立つ。その1階にある「UG DOGSアトラスタワー中目黒店」には、フードやおやつは陳列されているものの、ペットショップなら必ずある子犬を展示販売するガラスケースは、ない。
が、店の奥では何匹もの犬が元気に走り回っている。ほとんどが「社会化お泊まり」に来ている子犬たちだ。
「吠えたり噛んだり、まったく寝ようとしないで狂ったように走り回ったり。そうした子犬のほとんどは、いわゆる社会化が不足していることが多いのです」。こう話すのは、店長の高橋信行さん。
社会化とは、いわば「犬社会のルール」。親やきょうだいと一緒に過ごす中で、本気で噛まれれば痛いことを知り、本気で噛めば母親から怒られる。加減やルールを理解していくのだ。しかし多くの子犬は生後2、3カ月で販売されるために、ルールを学ぶ前に親きょうだいから引き離されてしまっているのが実態だ。
「優しい」と「甘やかす」は違う
子犬のかわいさもあって、飼い主はついつい甘やかしてしまう。かつては、吠えたり噛んだりしたらマズル(口元)を強くつかむ、口の中に指を入れるなど、問題行動に対して罰を与えることが解決策とされていたが、今は「ほめて育てる」が主流だ。ネットや本を見ても「叱らない」「ほめましょう」というアドバイスが多く、飼い主はますます子犬に対して甘くなる。
「ほめて育てる優しいしつけの方がいいに決まっています。しかし、飼い主が『優しいしつけ』を甘やかすこと、溺愛することと捉え違えてしまうと、ルールが曖昧になり、結果、家族を噛んだり吠えたりするようになるのです」と高橋さん。
犬の幼稚園やパピークラスに行ってみたたものの、ほかの子に襲いかかるなどして「うちの子はダメなんだ」と落ち込んだり、プロと呼ばれる人に相談したら「問題犬だから手放した方がいい」「脳に異常があるかもしれないから、薬でおとなしくさせるしかない」とサジを投げられたり。「問題犬」のレッテルを貼られ、絶望の中で高橋さんの元にたどり着き泣き崩れる人もいるという。高橋さんはこう断言する。
「本当の意味での問題犬はあまりいません。なぜ噛むのか、なぜ吠えるのか。子犬の行動には必ず理由がある。それを理解してあげることなく既存のしつけ法やメソッドなどを無理やり押し付けたところで、うまくいかないこともあります。犬はロボットじゃない。それぞれに性格、意志があるのだから」
犬同士でしか学べないこともある
これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。高橋さんが預かってトレーニングをした方がいいと判断した子犬は、1週間の「社会化お泊まり」という合宿トレーニングに入る。
お店は、同じく社会化お泊まりにきている子犬たちや、お店で育てているスタッフ犬に加え、合宿経験がある先輩犬たちがトリミングやシャンプーでやってきて、常に多くの犬たちで賑わっている。子犬はこの「群れ」に入ることで、犬同士の遊びを通じながら「犬社会のルール」を学んでいくのだ。
「先輩から注意され子犬は成長する。その子は次は先輩として後輩の子犬を指導する――。社会化お泊まりを続けていくうちに、そうした群れのルールが自然とできていきました。犬にしか教えられないことがあると、僕自身も学ぶことができた」。高橋さんは群れの中での子犬の様子を見ながら、性質を見極め、必要なトレーニングをしていく。
人が変われば犬も変わる
子犬のトレーニング以上に力を入れているのが、「飼い主の意識を変えること」だ。
「腕に穴があくほど噛まれたお父さん、一日中眠らずに暴れまくる子犬に憔悴しきったお母さん、思うようにいかない子犬の育児方針ですれ違いギクシャクしてしまうご家族……。カウンセリングの途中で泣き出してしまう飼い主さんは少なくありません。皆さん、優しいから悩む。しかし、多くのケースは飼い主さんが愛犬のことを理解できていない。誤解している。そして、かわいがることと甘やかすことを履き違えている。その意識を変えなければいけないのです」
そして、こう続ける。
「僕はあえて厳しく言います。『人が変わらなければ犬は変わらない。人が変われば犬も変わります』と」
育犬ノイローゼで疲れている飼い主には、お泊まりの間にまずはしっかりと休むようにアドバイス。犬の様子は画像や動画でこまめに知らせながら、同時にその子がなぜ問題行動を取るのかを説明し、これからの生活でどうすべきかも含め飼い主が意識を変えることの必要性を徹底的に伝える。高橋さんはこう語る。
「リーダーにならなくていい。子犬を迷わせないように、導いてあげる存在になればいいのです」
発散し解放し、ガマンを覚える1週間
社会化お泊まりの様子はインスタグラムとフェイスブックに日々綴られる。不定期で更新されるブログも人気で、全国の多くの読者に読まれている。
多くの子犬は、犬同士の遊びを通じて刺激をいっぱい受け、エネルギーを発散し、群れの中でルールやガマンすることを学ぶことで、表情や雰囲気がガラリと変わる。ピリピリしていた子が穏やかな笑顔を見せたり、暴れていた子が落ち着いて「伏せ、待て」ができたり。高橋さんが撮影した写真の数々に、トレーニングをした1週間の成長が見て取れる。
「ほとんどの子犬は変わります。変われます。飼い主さんはもちろん、トレーニングをしている僕自身、いつも心から感動しちゃいます」と高橋さんは笑顔を見せる。
「ルールを曖昧にせず犬を迷わせない。ガマンすることも覚えさせ、その分、しっかりお散歩をして刺激を与え、解放してあげる。まずは1歳までがんばりましょう。その先にはお互いが笑顔に暮らすことができる幸せな時間が必ず待っているから」
新型コロナウイルスが感染拡大する中でも、徹底的な消毒などの対応しながら、カウンセリングもお泊まり合宿も通常通り取り組んでいる。「子犬の成長は止められない。待ったナシです」。
そう語る高橋さんの思いはひとつ。
「すべての犬を笑顔にしたい。飼い主さんにも笑顔になってほしい。犬って本当にすばらしいのです!」
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- UG DOGS アトラスタワー中目黒店
- 住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/ - 店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。
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