けがでおなかの皮膚と両脚失った猫 治療費高額、救いの手求める

キャットタワーのお気に入りの場所で。他の猫たちを観察する余裕も出てきました
キャットタワーのお気に入りの場所で。他の猫たちを観察する余裕も出てきました

 今年2月、横浜市港北区で1匹の猫が保護されました。マンションの植え込みで動けなくなっていた真っ白な猫、ブラン君は大変なけがをしていたのです。

(末尾に写真特集があります)

失った両脚と広範囲な皮膚。そして壊死

 ブラン君を発見したのは、そのマンションの住人でした。発見者は同じマンションに住む、猫好きの知人を急いで呼びます。それが保護主、稲葉さんです。

 犬1匹、猫1匹を飼っている稲葉さんは、すぐに動物病院へ急行。脚をけがしているらしいことは一目でわかりましたが、その時点で、これほどの大けがだとは誰も気づきませんでした。

保護して間もないころ。削られらように、毛と肉がありませんでした
保護して間もないころ。削られらように、毛と肉がありませんでした

 鼻の頭にもかさぶたができ、肉球も爪も擦り切れて黒焦げのように見えました。そして極度の飢餓と脱水症状。いったいどれほど、植え込みにいたのでしょう。

 口の中が真っ白です。ひどい貧血状態でした。後ろ右脚は開放骨折で、治療を始めた途端、完全に取れてしまったと言います。

 また、よく調べると下腹部から胸のあたりにかけて、かなり広範囲の皮膚がただれ、失われていることもわかりました。すでに壊死が始まっていたのです。発見時にはすでに血は止まっていましたが、おそらく当初は大変な出血だったことでしょう。

「先生の見立てによれば、1~2歳の男の子。何か高速で回転するものに巻き込まれたのだろう、とのことなので、おそらく車のエンジンでしょう。傷の状態から見て、1週間ほど飲まず食わずで植え込みにいたようです」(稲葉さん)

 ブラン君は2月から現在までの4カ月に4回の手術を受けています。何とか生き残ったと思われた左の後ろ足も壊死が進行していて、結局、後日切断することに。腹部の皮膚も広範囲に失われて、内臓が透けて見えるほどでした。

湿潤療法の処置の様子。痛いし怖いけれど、イヤがりながらもゆだねてくれるブラン君。治療してもらっているのがわかっているのです
湿潤療法の処置の様子。痛いし怖いけれど、イヤがりながらもゆだねてくれるブラン君。治療してもらっているのがわかっているのです

 幸い、内臓や脳に損傷はありません。しかし、広範囲に広がる壊死と皮膚の再生には時間も治療費もかかります。とても個人の私費だけでは手に負えず、稲葉さんは会員になっている任意団体、「こうほく・人と生きもの・支えあう会(以下、支えあう会)」に相談。会を挙げて、ブラン君のバックアップに乗り出すことになったのです。

安楽死という選択肢

 支えあう会の事務局、藤巻さんが当時の状況を説明してくれました。

「両後ろ脚を切断したおかげで壊死は食い止めることができました。しかし、広範囲に皮がなくなってしまった部分は、感染症を予防しながら皮膚の再生を待つしかありません。湿潤療法(傷口を乾燥させないように維持しながら皮膚を再生させる)を採用して、毎日の闘いが始まりました」

具体的な治療内容は

  • 傷を覆っているラップやガーゼをはがし
  • 代謝や排泄でついた汚れを生理食塩水で丁寧に洗い
  • 肉芽形成、不良肉芽の除去、抗生剤などを必要な場所にまんべんなく塗分ける
  • 傷から出る浸出液の乾燥を防ぐために、創傷被覆材をまんべんなく貼り付ける
  • その上からラップフィルムで覆い、さらにドレッシングウェアやラップでカバーする

 毎日がこの繰り返しです。当然、想像を絶する痛みを伴います。処置にあたっては、あらゆる形で痛み止めを投与して行いますが、それでも飛び上がるほど痛がることもあり、大勢の手で押さえねばならないほどだったとか。

処置中、嫌がって体に力が入ってしまうときは気を紛らわせるためにちゅーるが欠かせません
処置中、嫌がって体に力が入ってしまうときは気を紛らわせるためにちゅーるが欠かせません

「嫌な処置をする間、ちゅーるを与えて気を引き、なんとか頑張ってもらっています」(稲葉さん)

「最初、あまりのけがのひどさに『治療しても助からないのでは?』というのが先生の意見でした。いっそ安楽死させてあげたほうが、という話も出ました。しかし一週間もの間、大けがと空腹、脱水に耐え抜いた子です。私たちがあげた水もご飯も大変な勢いで食べてくれました。ご飯を食べるようになると、真っ黒に壊死していたところが、みるみる赤みが増してきて、血流が復活しているのがわかるんです」(藤巻さん)

 少しずつではありますが、健康な皮膚と傷口の境目から新しい組織が育ち始めています。そして何より、ブラン君の瞳から光が消えることは一度もありませんでした。

 稲葉さんも支えあう会の人たちも、協力してくれる猫仲間たちも、彼の生命力にかけてみようと決めたのです。

とはいえお金が足りない!

 ブラン君もがんばっている。保護主の稲葉さんも、支えあう会の人たちも、入れ代わり立ち代わり、治療に立ち会うために病院へ通います。獣医師も2月から今日にいたるまで、休み返上で病院に詰めてくれています。みんなが「再び元気になる日」を目指してがんばっていますが、何といっても大きな問題は治療費でした。

 ブラン君の治療にかかったお金の概算は、次のとおりです。

  • 2月分 115万6698円(消費税込)
  • 3月分 42万9370円(消費税込)
  • 4月分 33万9416円(消費税込)
  • その他初期費用
    人工皮下再生シートなど 36万1400円(消費税込)
    これまでにかかった治療費合計……228万6884円

 そのうち、176万8098円を支払い済。5月13日時点で51万8786円が未払いになっています。

「支えあう会の会員150 人にニュースレターを発送したり、稲葉さんと猫仲間の方々で作成した手作りポスターを店舗に貼ったりして募金を集めました(84 万7435 円)。さらに稲葉さんとお仲間の園田さん、中村さんが79万円もの私費も投じました」(藤巻さん)

 今までずっと飼ってきたわけでもないブラン君のために、誰もができることを探して努力しています。助けた命に責任をもつ。その重みをひしひしと感じているといいます。
主治医の見立てによれば、退院までには年内いっぱいかかりそう、とのこと。ゴールデンウィーク明けから加速度的に良くなっているので多少早まる可能性はありますが、まだまだゴールが見えない状態です。

「そこで私たちはNPO法人や任意団体を応援するファンドレイジングフォーム、Syncable(シンカブル)のキャンペーンを利用して、皆様のご支援をお願いすることにしました」(藤巻さん)
Syncableは国内外の非営利活動法人を支援するポータルサイト。一般的なクラウドファンディングがビジネス目的やアイデア実現のサポートでリターン品などが用意されるのに対し、こちらはリターンのない、純粋な募金です。

 目標金額は50万円。期日は暫定的に8月15日(土)にしています。しかし、これまでのお金のかかり具合を考えると、徐々に回復しているとはいえ50万円では足りないのでは?

「正直なところ、全く足りません。しかしみんなで努力を続けながら、夏ごろをめどに、まずは50万円。もしたくさんの方にご支援いただけるなら、ネクストゴールを設定することも考えています。その後は治療の進み具合によってまたみんなで考えたいと思います」(藤巻さん)

関係者一同で記念撮影! 右から稲葉さんの猫友達・園田さん、獣医師の先生、同じく猫友達・中村さん、保護主の稲葉さん、支えあう会の藤巻さん
関係者一同で記念撮影! 右から稲葉さんの猫友達・園田さん、獣医師の先生、同じく猫友達・中村さん、保護主の稲葉さん、支えあう会の藤巻さん

 治療が終わったら、ブラン君をどうするか。それは未定です。後ろ脚のない猫ですから、それに対応できる家である必要もあります。おそらくはボランティアの誰かが終生、責任を持って飼育することになると思われますが、今はまず、一日も早くけがを治すのが最優先。Syncableのサイトには、応援メッセージも数々寄せられています。

「私たちの勝手かもしれませんが、一度かかわった命。不幸にして大けがを負った猫です。どうか皆様のお力添えをいただけたら。よろしくお願いします」

 今は落ち着きを取り戻し、最近はちゅーるにも飽きて、「シーバがいい」など、わがままを言う余裕も出てきたというブラン君。今日も果敢に、辛い治療に立ち向かっています。

ブラン君の治療費募金のお願いはこちら
・詳細な経緯やかかった費用の細かい内訳が掲載されています
・痛々しい写真が含まれています。閲覧にはご注意ください
(右のプラン君の画像をクリックすると支援サイトへとびます)

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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