住まいから考える猫の動物福祉 猫も飼い主も快適な家を目指して
公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。「犬や猫のためにできること」がテーマの連載。今回は「動物福祉を考えて住まいを選ぼう」がテーマです。
「日本の動物福祉を世界トップレベルに」という目標を掲げ活動しているアニマル・ドネーション。動物福祉向上を進めるにあたり、何より重要なのが「ペットが住む環境」です。人間だって「衣食住」が満たされてないと幸福感は感じませんよね。今回は「猫専用マンション」を企画開発された方々のインタビューを交えながら「猫の動物福祉」を考えてみました。
室内で飼育する猫ちゃんにとっては、住む場所が世界のすべて、といっても過言ではなく、その環境を準備できるのは他ならぬ飼い主さんだけ、なのです。責任重大ですね!
「猫の福祉」ってどんなこと?
まず「福祉」という言葉を辞書で調べますと、「福祉(ふくし、英: Welfare)とは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を指す」とあります。
若干無理は承知で、日本国憲法を猫に置き換えてみますと…「第13条 すべて猫は、個猫として尊重される」「第25条 すべて猫は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。
ふむ、私たちのかわいい猫ちゃんが「しあわせ」や「ゆたかさ」をどこに感じるのかを、想像力豊かに考えてみましょう。おいしいご飯は当然とし、まるっとフィットしたサイズで心地よく休める場所は必須。時には運動ができるスペースだって欲しいし、猫じゃらしタイムだって楽しみたい。
気の合う仲間も欲しいし、またたびは週イチくらい、トイレは落ち着ける場所にしてほしい、暑すぎも寒すぎも嫌にゃ!と、猫の個性や年齢によって、他にも希望はあることでしょう。
私の周りは、とことん犬猫大好きな人々が多いので、犬や猫のために引っ越すとか、ペットのために家を設計して新築で建てた、なんてうらやましい行動に出る方々もいますが、もちろん一握り。逆に「引っ越し先に困る」の声はしょっちゅう聞きます。
仕事柄都内に住んでおきたいが、多頭飼育をした途端に物件がほとんどない、ペット可の物件は駅から歩いて通える距離にはなくて、犬との暮らしを続けるために賃貸は諦めて購入したアニドネスタッフもいます。
動物福祉国家になるためには、衣食住の中でも動物にとって大事な「住」が乏しい日本を何とかしないと動物福祉の向上は図れない、と常々思っていたら、今回素敵な方々に出会えました。
都心で3匹の猫と住めるマンション
品川区西大井に新しくできた『TIPETTO(ティペット) NISHI-OIⅠfor Cats』は、猫と暮らす方々専用の賃貸マンションです。本当に猫が好きで、猫へのリテラシーが高い単身者&カップル向けのこのマンションは“猫が飼える家”よりも一歩先の“猫と住まい手の双方が快適に暮らせる家”をコンセプトとしています。
百聞は一見にしかず、まずは写真で紹介するのか分かりやすいので、私が「ん~!ナイスポイント!」と思ったところをご紹介しますね。
猫との共生を考え抜いたデザイン
今回紹介したペット共生型マンション『TIPETTO(ティペット) NISHI-OIⅠfor Cats』を設計した河本光正さん(企画開発部 部長 1級建築士)と宇那木崇広さん(企画開発部 1級建築士)、そしてマンション管理の株式会社アスコット・アセット・コンサルティング 丸山征二さん(代表取締役社長)になぜこのようなマンションが誕生したのか背景が知りたくてお話を聞かせていただきました。
河本さん「デザインをするにあたって、見た目がかっこいいだけではなく、住まう方のライフスタイルをデザインしたいと考えています。ペットと暮らしたい方でしかも多頭飼いをしたい方のために、なにが必要なのか、考え抜きました。猫のため=飼い主さんのため、でもあると思っています。お互いがストレスなく快適に暮らせてこそのデザインだと思っています」
宇那木さん「自分のアンテナを広げて設計しました。何かしらの事情で飼い続けられない方々の理由を考え抜いて、飼い続けられる、そして住み続けられるマンションを目指しました。実は、設計前に猫を愛する飼い主さんなどから、お話を聞く機会を得ることができました。猫にも個性があって、飼い主さんの希望もさまざまでした。猫と飼い主さんの両方の多様性を受け入れる設計にしたつもりです」
丸山さん「実は、賃貸のペット可物件というのは現在、減少傾向にあります。それは、オーナーさんがペット可の物件を不可にすることがあり、その理由としてはメンテナンスや近隣からのリクエスト(クレーム)がくることを恐れて、の結果だと考えています。しかし今回の『デザイン性の高いペットが飼える空間』が実現したことによって、業界へ新しい風を入れられればと思っています。実はこのマンション、賃料は相場より高いにも関わらず契約の申し込みスピードは通常と変わらず、市場ニーズを強く感じています」
マッチングギフトで猫たちを救う試みも
GOOD DESIGN AWARDを2007年から何度も受賞しているアスコット。見た目のおしゃれさは当然のこととし、住む人(今回は猫ちゃん達も!)がいかに心地良く暮らせるか、が、深く考えられていると感じ本当にうれしくなりました。
また、実はアスコット様より「物件にご寄付をつけたいんです」との希望をアニドネにいただきました。それであれば「入居される方と企業様のマッチングギフトはどうでしょう」というアニドネからのご提案を受け入れてくださり、入居が決まると5,000円(入居する方からは初回家賃内より寄付2500円+アスコット様より2500円。新築時の初回入居者の方のみ)がご寄付されることとなっている今回の物件。
ご寄付はアニドネ経由で保護活動の支援となり、不幸な境遇にある猫たちが救われることになります。きっとこのマンションを選ぶ方々は、猫をこよなく愛している方々でしょう。自分たちの暮らしを豊かにしつつ、不幸な猫たちも救える仕組みには満足してくださるのでは、と思っています。
猫関連サービスの充実を!
提案をしてみました。1棟まるごと猫オーナーさんのマンションですから、管理費内においてキャットシッターさんを手配できる(猫はホテルステイがなかなか難しいため)、とか、獣医さんが来てくれるサービス、とかあるとなお良いのでは、とご提案してみたら、実は検討している、とのうれしいお返事でした。
犬猫には帰るべき自然はありません。人と暮らす生き物である限り、動物福祉を考える責任は人間側にあります。猫ちゃんが満足したときに見せてくれる「猫の幸せな姿」が、どれほど人間に「しあわせ」を与えてくれるか、想像以上のたまもののはずです。
この記事を読んでいただいた不動産関連の方々、そしてマンション経営の大家さんたち、動物福祉を考えた物件をもっと作ってくださいませんか?アニマル・ドネーションでアイデア出しをさせていただきます!
最後に耳より情報をお知らせです。東急電鉄目黒線不動前駅から歩いて8分のところに、同じコンセプトマンションが竣工することが決定したそうです。ご興味のある方はアスコットさんのHPへ行ってみてくださいね。
【前の回】犬や猫を家族に迎えたいと思ったら まず保護施設へ行ってみよう
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