看板犬に期待した子犬は超シャイだった 家でレシピ開発の相棒に
有名な犬のおやつ・ごはんの研究家の家には、高齢の犬と猫2匹が暮らしている。18年前、偶然出会った子犬は超恥ずかしがり屋だったが、レシピ開発の相棒となり、ずっと寄り添い続けてきた。
東急田園調布駅から歩いて1分。今戸秀子さん(通称Deco)のカフェ「Deco’s Dog Cafe 田園茶房」がある。店は40席以上あり、小型犬から大型犬までどんな犬種も入ることができる。
「オープン当時から一番人気は、低カロリーのチーズヨーグルトケーキです。最近ではコミフ(コミュニケーションフード)という、飼い主さんとワンちゃんが一緒に食べられるメニューも充実していますよ」
手作りのおやつを提案
今戸さんが、犬の食の仕事を始めたのは19年前。小型犬ブームで、犬用グッズやペット可の住宅が増えた時期だ。当時、編集プロダクションを経営していた今戸さんが「こんなものがあれば」と犬用の手作りおやつのレシピ本を作ると、大きな反響があった。
「結婚前、実家でミニチュアダックスを飼っていて、料理教室の先生だった母が犬の食事もすべて手作りしていました。犬が喜んで食べていたのを思いだし、母を真似て、栄養面を吟味しつつ、材料を厳選したレシピを考えました」
本を出した翌年、レシピにしたおやつを実際に食べられる最初のカフェを代官山に開いた。安全で見た目もきれいなケーキなどのほか、犬と飼い主が一緒に食べられるメニューも増やしていった。
Decoの愛称とともに愛犬家に知られるようになり、田園調布にも出店(その後代官山は事務所に)。全国のペットショップにもオリジナル商品を卸すようになった。
偶然出会った子犬
トントン拍子に見えるが、予想通りにいかなかったこともあった。
カフェのマスコットにと期待した飼い犬「バンズ」だ。雑種のメスで18歳になる。
出会いは18年前、埼玉県内のホームセンターだった。カフェを始めるため、今戸さんは備品を買いに出かけた。レジ前に段ボール箱が置かれ、中に生後2~3カ月の子犬が無造作に入れられていた。「欲しい方どうぞ」と書かれていた。
「絵に描いたような捨て犬という感じでした。兄妹が何匹かいたようですが、バンズは最後に残った1匹。カフェを開くタイミングで会ったので、縁を感じ、お客様を一緒に迎えてくれたらなんて期待をしながら、連れて帰ったんです」
ところがバンズは、「超」が付くほどシャイだった。
「犬というのは、誰にでもシッポを振って懐くと思いこんでいました。でもバンズは違いました。誰かが家に来ると、家具の下にさっと隠れるし、散歩でも子どもが何人か歩いてくると固まってしまう」
バンズを迎えた当時、自宅には、「チョコ」と「あんこ」という2匹のアメリカンショートヘアがいた。猫たちは来客の背中にもピョンと跳び乗るような人なつこさで、新入りの子犬もおおらかに受け入れたという。
「猫が犬のようで、犬が猫のようでしたね。最初の頃は、出勤する時に車にバンズを乗せていきましたが、バンズは家にいる方が好きだとわかってからは、猫と一緒にお留守番をさせるようにしました」
こうしてバンズは「看板犬」ではなく、家庭犬となった。インドア派だったが、朝は庭で1時間ほど自由に過ごし、夜は今戸さんの帰宅後に散歩した。
「私が帰宅すると『お帰りなさいませ』という感じに喜んで出迎えてくれて、毎晩ちょっとしたお祭り状態でした(笑)。犬にも1匹ずつに個性があります。“犬とはこういうものだ”という思い込みを無くしてくれたのは、バンズがシャイで、運動も好きではない犬だったからです」
新メニューの味見役に
お店でお客さんの接待はできなかったが、バンズは今戸さんが考案した新メニューを「真っ先に家で食べる」という役目を担ってきたという。
「肉も魚も野菜もケーキも何でも美味しそうに食べます。なので、試食犬としてさほど役立たなかったかもしれないけど(笑)。でも、自然素材の食事を食べてきて、今まで病気にかかったことがありません。今も目が澄んで毛艶もよいので、嬉しいですね。最近、階段の上り下りだけ少し手を貸しますが、しっかり自力で歩いています」
前の猫たちは体が弱く、バンズが10歳になる頃に旅立ったが、3年前に縁あってまた2匹のアメショーの子猫を迎えることになった。名前は同じ「チョコ」と「あんこ」と付けた。
「バンズが先輩として後輩を迎える立場になりましたが、温和な猫と暮らした経験があるせいか受け入れはスムーズでした。子猫が来て、気持ちが若返ったみたいなんです」
前の猫は決まったものしか食べられず、病気の時に食事に苦労したため、今の猫は何でも食べられるように育ててきたという。そのためバンズも、自分のごはんを猫に食べられないように常に気を張って、ぱくぱく一生懸命食べるのだとか。
バンズを飼い始めた時、多頭飼いの家や、もっと犬に時間をかけてあげられる家に引き取られていたら、違う一生を送ったかもしれないと考えた時期もあったという。しかしバンズが“食べること”が好きだったおかげで、食を通して絆を深めることができた。
「日々の食事に気を使い、18歳になっても元気でいてくれることは、私にとって大きな救いと自信になりました。今は来シーズンのおせちを企画しています。バンズにもまた試食をお願いしようかな。この先もずっと、元気でいてほしいですね」
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