犬や猫が快適にすごせる保護施設を目指して 松島花さんが取材

 2月22日の猫の日に合わせて、sippoで「猫のいる幸せ」を執筆中の松島花さんを「特別編集長」にお迎えし、神奈川県動物愛護センターを取材していただきました。今回は、犬や猫を「生かすための施設」へと転換した同センターの特徴お伝えします。

(末尾に写真特集があります)

 犬や猫の健康状態をチェック

 神奈川県動物愛護センターは2階建てで、センターに運ばれた動物たちは、まず1階で健康状態をチェックします。感染症がないかなど調べる検疫期間を過ごし、安全が確認された後に、2階の生活エリアへと移ることになります。

 取材はまず、1階からスタートしました。許可をいただき、職員のみが入れるエリアに入らせていただきました。愛護・指導課長の上條光喜さんが案内してくれたのは、手術室。手術台のほか、レントゲンも備えています。

「どんな手術をするのですか?」と松島さん。ここでは収容している犬や猫たちを譲渡する前に、不妊去勢手術をしているそうです。ワクチン接種もし、猫ならば猫エイズや猫白血病についても調べます。マイクロチップも挿入し、譲渡時に新たな家族の情報に書き換えてから、引き渡しているそうです。さらに、病気だったりケガをしたりしている動物たちの治療もします。

手術室で説明を聞く松島花さん(左)
手術室で説明を聞く松島花さん(左)

 発電室もありました。犬や猫たちの部屋は冷暖房で温度調節をしているため、電気が止まってしまうと影響が出ます。そのため、停電しても72時間は自家発電が可能な設備を備えているそうです。

 災害時倉庫には、たくさんの荷物が積んでありました。松島さんが「何に使う機材ですか?」と質問すると、上條さんは「災害時に被災した動物たちのために使うテントやケージです」と教えてくれました。食料やペットシーツも、犬や猫350匹が1週間は過ごせるように備えているそうです。3匹の猫と暮らす松島さんは「私も猫たちのために、災害時の備えをしています」と話していました。

犬や猫たちの性格を紹介

 健康状態のチェックが終わった犬や猫は2階へ移されます。2階は犬や猫の生活スペースでもあり、譲渡を希望する人との出会いの場でもあります。

 2階へと向かう階段を上がるとホールに出ました。ホールの左手にある「アニコムふれあいルーム」(200平方メートル)は、雨の日には犬が遊ぶドッグランとして活用しているとのこと。床材は、肉球に優しく走りやすい素材を選んでいるそうです。

 ホールの壁には、センターに収容されている犬や猫を紹介するカードが並んでいました。犬や猫の写真とともに、「甘えん坊」「とても控えめでおとなしい性格」など、それぞれの性格や年齢、性別が書いてあります。

2階のホールには、犬や猫たちを紹介する写真やカードが飾られていた
2階のホールには、犬や猫たちを紹介する写真やカードが飾られていた

 1匹1匹に名前が付いていて、「仮名」と書いてありました。松島さんが「なぜ『仮名』にしているのですか」と尋ねました。上條さんによると、ここにいる犬や猫をかわいがるために職員が付けた名前で、本当の名前は譲渡先の家族につけてもらうものなので、それまでの「かりそめの名前」という意味とのことでした。

 取材にお邪魔した日、センターには犬は30匹、猫は90匹が収容されていました。犬室は65部屋(うち大部屋3つ)、猫室は12部屋あり、定員は犬75匹、猫90匹です。犬室も猫室もガラス張りで、犬や猫の様子がよくみえます。

 犬は基本的に個室で、部屋の広さは36.25平方メートル(大部屋は1419平方メートル)。犬室が並ぶ一角には、ついたてを置いて隠れるスペースをつくった部屋もありました。取材時にこちらにいたのは、かみ癖がある犬で、現在ドッグトレーナーなどの協力を得てかみ癖を直す訓練中だそう。こうした部屋のつくりは、ドッグトレーナーや動物行動学の専門家の意見を踏まえ、犬がすごしやすいように作っているそうです。

犬室をのぞき込む松島花さん
犬室をのぞき込む松島花さん

 猫は相性の良い猫を見極めて、広さ約10平方メートル程度の部屋に、6~8匹程度が一緒に暮らしています。部屋の真ん中にはキャットタワーが、周囲にそれぞれの猫のケージが置かれています。猫室の天井には窓があり、日なたぼっこをしたり風を通したりもできるそうです。

犬や猫の室内飼いをイメージした部屋も

 犬や猫の様子をより見やすくする配慮もされていました。建物をぐるりとかこむように長さ約120メートルの見学者用バルコニーがついていて、このバルコニーを進んでいくと犬室38部屋と猫室8部屋をガラス越しに見ることができます。

「見学はいつでもできるのですか?」と松島さん。祝祭日と年末年始を除く月~金曜日の午前8時半~午後5時15分までの間なら、自由に見学することが可能だそうです。

 譲渡を増やすための工夫もありました。「湘央学園WANルーム」は、犬を室内飼いしたときのイメージがつきやすいよう、家庭をイメージした家具を置いた部屋で犬が暮らしています。猫の室内飼いをイメージした「toletta NYANルーム」もあり、こちらでは猫が暮らしていました。NYANルームは見学者も室内に入って猫と触れ合うことが可能です。いずれも部屋はガラス張りで、中の様子が外からよく見えます。

猫と触れ合える部屋もある
猫と触れ合える部屋もある

 クラウドファンディングで資金を募り作ったという、「ふれあい譲渡ルーム」もありました。テーブルや椅子が置かれ、落ち着いた雰囲気です。「譲渡に条件はありますか?」と松島さん。

 上條さんによると、譲渡希望者はまず講習を受ける必要があるそうです。その後、迎えたいと思った犬や猫がいたら、この「譲渡ルーム」で、譲渡希望者、希望する犬や猫、施設の職員で過ごし、本当に引き取るかどうかなどの話をするそうです。そこで譲渡は決まらず、希望者は1度家に帰って家族で話し合ってもらった上で、再びセンターにきてもらい、譲渡となるそうです。「希望者には3回はこちらに来るなどしていただいてから、譲渡しています」と上條さんは話しました。

 最後に、松島さんはセンターを出て、隣接する丘の上にある慰霊碑を訪れました。「慈」と刻まれた慰霊碑には、これまでに同センターで亡くなった動物たちの遺骨を収めているそうです。花を手向け、1分ほど手を合わせて冥福を祈りました。

慰霊碑に手を合わせる松島花さん
慰霊碑に手を合わせる松島花さん

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sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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