50代で念願の猫飼い プニプニに感動、男ばかりの家が明るく

   子育てを終えた50代の母親が、生まれて初めて猫を迎えた。2匹とも譲渡会で出会った元保護猫。プニプニの前足など、愛らしさに夢中になった。いたずらを防止するため、部屋は殺風景にはなったものの、男ばかりの家に笑顔が増えて明るくにぎやかになったという。

(末尾に写真特集があります)

 東京都渋谷区の住宅を訪ねると、キジトラの子猫が尾を膨らませて、2階へ駆け上がっていった。「どうしたの?」と主婦の永井さん(54)。そばには、もう1匹のキジトラがのんびりくつろいでいる。

「今、逃げたのが生後半年の『しろ』で、ここにいるのが4歳の『チャー』。どちらもオスです。でも、あの子が逃げるとは予想外(笑)」

 永井さんによれば、2匹ともフレンドリー。とくに「しろ」は甘えんぼうだという。どうやら来客に慣れておらず、驚いてしまったようだ。

幼く無邪気なしろ(左)とチャー(提供写真)
幼く無邪気なしろ(左)とチャー(提供写真)

50代で初めて知ったプニプニ

 夫と息子2人の4人家族の永井家が、初めて猫を迎えたのは、3年前の6月だ。

「夫は実家で猫を飼っていましたが、私は50歳過ぎて初めての経験。ずっと猫との生活に憧れていたんですが、友人に『猫は家具を傷つけるし、カーテンに上るし、大変よ』って言われて、ちゅうちょしていたんです。次男が高校受験を終えたので、ついに飼うことにしました。家族旅行にいくことも減り、何日も留守にすることがなくなったので、いいタイミングだと思って」

 インターネットで調べて、原宿で開かれた譲渡会に出かけた。ビビッて隠れる猫が多い中、指をペロペロなめる人なつこい猫がいた。それが、当時1歳だったチャーだ。

「チャーは熊本地震で被災した猫でしたが、落ち着いていて、家にもすぐに慣れました。猫の手(前足)ってこんなにプニプニ柔らかいんだって感動しました。つらいことがあっても手を握ると癒やされるんです」

 チャーはおとなしいが、食欲はすごかった。お皿の上の鮭をくわえて逃げたり、味噌汁の野菜を食べようとしたり、ゴミ箱を漁ることもあった。そこで居間にゴミ箱を置くのをやめ、ピアノの上の置物を片付け、室内から観葉植物もなくした。

「部屋は殺風景になったけど、猫がいることで雰囲気が明るくなりました」

チャーを抱く永井さん「猫がこんなに可愛いなんて」
チャーを抱く永井さん「猫がこんなに可愛いなんて」

   次男の大学受験が終わった後、2匹目を迎えることにした。寝てばかりいるチャーが寂しそうに見えたからだ。

   そして、この夏、新聞で見つけた新宿の京王百貨店での譲渡会に次男と出かけた。欲しかったのは茶トラ猫だが、ボランティアに「先住に4歳のキジトラがいるなら難しい」といわれ、別のボランティアにすすめられたのが、生後2カ月の「しろ」だった。

子猫を迎えたら、先住猫がよそよそしく

「最初、しろには風間君という名がついていて(笑)、この風間君ならうまくいくって言われてトライアルしたんです。チャーは最初、『なんだおめえは?』って感じで見ていましたが、いじめることはありませんでした」

 無邪気な子猫のしろは、とにかくチャーの後を追う。そんなしろをチャーは迎え入れた。キジトラ同士、まるで仲の良い親子ように見えた。チャーは座る場所、食べる順番、永井さんの膝まで、しろに譲った。しかし実は、心の奥でぐっと堪えていたようだ。

「しろが来て2週間後、チャーが急に食べなくなってしまって……」

   あわてて病院に連れて行った。獣医師に、内臓はどこも悪くないが、「ストレスを抱えている」と言われた。フードを替えると、その日のうちに食べるようになったが、永井さんは猫の繊細さをその時に初めて知ることになった。

2階から降りてきたしろにチャーがそっと近づく「お客さんこわくないよ」
2階から降りてきたしろにチャーがそっと近づく「お客さんこわくないよ」

「よかれと思って仲間を迎えたのに、チャーにとっては“裏切られた”感じだったのかな。急におとなびて、私に対して前よりよそよそしくなったんです……。猫同士で追いかけっこをしたりして、活動的にはなりましたけど」

 その後、チャーはしろのいる環境に慣れていき、食欲が落ちることもなくなった。 ただ、しろが結膜炎になり、それがチャーに移って、2匹交互に病院通いをして、最近、やっと落ち着いたのだという。

「いろいろと起こるから、2度目の子育てって感じですね」

家族とともに夜の至福の時

   社会人の長男、大学生の次男は、2匹の猫とよく遊ぶ。猫たちも“お兄ちゃん”が大好きで、特にお気に入りが、風呂上がりのマッサージタイムだ。

「次男が入浴後にほぼ裸で居間に来ると、湯気のたったホカホカの体に、しろとチャーが“待ってました”とばかりに飛び乗る。岩盤浴気分なのかな。温かな体の上で、頭や背中をなでられたり、もまれたりするのが、至福の時みたいです。ゴロゴロと喉を鳴らしてますよ」

次男に抱かれるしろ「遊んでくれてありがとにゃ」(提供写真)
次男に抱かれるしろ「遊んでくれてありがとにゃ」(提供写真)

   夜は2匹は決まって永井さんのベッドに潜り込んでくる。チャーは腕枕をせがみ、しろは永井さんの耳たぶを吸いたがるそうだ。

「チャーを寝かしつけたら、そっと腕を抜きます。しろは耳たぶを吸ってフミフミする癖があると、ボランティアさんから聞いていたのですが、家に来た頃、寝ている主人の耳を吸ったみたい(笑)。主人が寝ぼけて払いのけたら、しろが吹っ飛んで、それ以来、主人の布団には入らなくなりました。しろは最近は耳たぶではなく、パジャマのボタンなどをなめるようになりましたが、まだまだ赤ちゃんです」

男ばかりの食卓が華やぐ

   猫が2匹になって、何より変わったのは、食事前に家族が居間に集まるようになったことだ。男ばかりシーんとしていた食卓が賑やかになった。

「猫がキッチンに入らないように、食事の準備中は、居間で遊んでもらうなど、誰かに協力してもらわないといけない。だから夕飯前に家族は“食卓前にいないといけないルール”になったんです(笑)。うちは男ばかりで、昔から黙々とただ一生懸命に食べるのが常でしたが、猫が来てから食事中にも笑うことが増えました」

   息子たちが独立する日がやって来ても、猫はずっと一緒だ。プニプニした“猫の手”に、母はこれからも癒やされていくのだろう。

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
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