突然、家に小さな子猫が… 中年男性の眠れぬ夜が始まった

   猫が苦手だった中年男性の家に、突然、小さな子猫が連れられてきた。妻が黙って保護猫を引き取ったのだ。なんと、子猫は最初の夜から男性の布団の中へ。寝返りをうって潰さぬように、と男性の眠れぬ夜が始まった。

(末尾に写真特集があります)

「この年になって、ここまで好きになってしまうとは……」

   工芸作品の展示を企画・運営する会社を経営する寺田さん(58歳)は、頰を緩めてスマートフォンを見せてくれた。茶トラ猫のキナコ(メス、5歳)の写真がずらりと並ぶ。

「犬は子どもの頃に飼っていたんですが、猫は獣っぽくて苦手でした。でも今は、一緒に寝てくれないと寂しいし(笑)、とにかく愛おしい存在です」

おじさんをメロメロにしたキナコ。「愛されてばんざーい」
おじさんをメロメロにしたキナコ。「愛されてばんざーい」

子猫は突然、連れられてきた

 寺田さんは、4歳年下の妻と、20代の娘と茨城県で暮らしている。同じ敷地の離れには80代の両親も住んでいる。

   キナコが家にやって来たのは5年前。実は寺田さん、猫が来ることを、当日まで知らされていなかったのだという。

「休日にはいつも妻と車で食事や買い物に出かけるのですが、いつものように『今日どこ行く?』と聞いたら、妻が『今日は出かけない』という。具合が悪いのかと思ったら、『猫が家に来る、もうこちらに向かってる!』と。まさに晴天の霹靂でした」

   妻は、数日前に友人に誘われて譲渡会に行き、茶トラに一目ぼれ。譲渡を申し込んだが、家族に言い出せないまま、トライアルの日を迎えたのだった。そわそわしながら待っていると、チャイムが鳴り、キャリーバッグを持ったボランティアの女性がやってきた。バッグの中には手にのるほど小さな子猫がいた。

「生後2カ月ということでしたが、小さくてねえ。ほかに行く場がないと可哀想だし……そのまま迎えることになりました。まんまとやられた、妻は策士でしたね(笑)。その日の午後、妻と車でホームセンターに行って、猫トイレに猫砂に、と一そろい買いました」

   それまで猫に触れたことがなかった寺田さんの母も、子猫を見て「あら可愛い」と笑い、「きな粉みたいな毛色だから、キナコはどう?」と名を考えてくれたのだという。

   こうして、平均年齢高めの“オトナ家族”と子猫との新生活がスタートした。

子猫時代、寺田さんは睡眠不足になりながら一緒に寝ていた
子猫時代、寺田さんは睡眠不足になりながら一緒に寝ていた

眠れぬ夜を過ごす

   キナコは物怖じすることなく、ミャアミャア鳴いて室内を探検するように歩き回った。妻と娘は2階で寝るが、寺田さんの寝室は1階の居間のすぐ横。そのため、最初の夜から、キナコが寺田さんの布団に入ってきたという。

「そろーっと布団に入られ、陥落しました(笑)。だけど、あまりに小さいから、寝返りを打ったら潰してしまうのではないかと心配で、横向きに丸くなって守るような体勢をして、しばらく“眠れぬ夜”が続きました。台風の目が、家族を飲み込む感じで、みんなが小さな姿に気を配りながら、和んでいきましたね。居間もどんどん猫仕様になりましたよ」

   ひ孫のようなキナコのために、寺田さんのお母さんがキャットタワーを買った。しばらくして、「もっと遊びやすいように」と、寺田さんはキャットステップを増築した。最初は居間にトイレを置くのに抵抗もあったが、すぐに気にならなくなったそうだ。

「キナコは僕の母親と気が合うみたいで、母親もキナコに会いにしょっちゅう母屋に来るようになった(笑)。『キナコどこ?』と呼んで、オモチャで遊んであげる。父親も早朝に母屋に来て、キナコに朝ご飯をあげる係になりました」

トカゲのイズモと鼻先でご挨拶
トカゲのイズモと鼻先でご挨拶

1泊入院に家族はハラハラ

 キナコは、家に来て4カ月後の春、避妊手術を受けることになった。大事なことだが、猫飼い初心者にとっては、“最初の試練”。メスの場合はお腹を切るため、1泊入院が一般的だ。寺田さんは心配で、また眠れぬ夜を過ごした。

「家族総出で動物病院に送り出しました。麻酔から覚めるか、無事に帰ってくるか、とみんな気が気でなくて。僕もキナコのいない夜、“こんなに好きになっていた”とあらためて思いました。翌日、エリザベスカラーをつけて無事に戻った姿を見て、泣きそうになりました。おじさんの心はグラグラです」

 その後、キナコは、けがや病気になることもなく、体重5キロの立派なレディに育った。寺田さんが仕事先から帰宅すると、足元にすりすり。その姿に妻は「私が連れてきたのに~」と妬くこともあるのだとか。高齢の両親も、キナコの遊び相手と世話をずっと続けている。

「この数年で変わったことといえば、『イズモ』という爬虫類のペットが増えたことかな。約50センチのフトアゴヒゲトカゲなのですが、去年、娘がショップでほれてしまったと言って連れてきました。僕も妻もビックリ! ふだんは2階の娘の部屋の水槽に入れていますが、時々、妻がそこから出して部屋を歩かせています」

 キナコも対面したが、キナコはシャーシャーと威嚇することもなく、シッポの長い仲間をただ見つめていたという。

「窓辺でイズモが日向ぼっこしていると、キナコが横にいって座ったり、前足を伸ばしてシッポをそっと触ったり。イズモも驚くわけでもなく、静かにしている。不思議な交流ですよ」

「僕の思い届くかな」。切ないおっさんずラブ
「僕の思い届くかな」。切ないおっさんずラブ

仕事でも招き猫展を企画

   寺田さんは家で猫をかわいがるだけでなく、猫展などにも度々出向くようになった。猫の力は、仕事にも影響を及ぼしたようだ。

「僕は長年デパートに勤務して美術や食器コーナーなどの担当をしてきたのですが、3年前に早期退職して、アート&クラフト作家の作品展を企画運営する会社を作りました。いろいろやっていますが、去年、人気陶芸家の招き猫と猫仲間の作品の展示販売を企画し、来年1月にも予定していますよ」

 おとなに成長したキナコは、寺田さんと一緒の布団ではなくソファで寝る。寺田さんは寝相が悪くフラれてしまったのだ。それでも帰宅時、足にスリスリする姿に「キュン」となるという。おじさんの猫愛は深まるばかりだ。

「招き猫とねこ仲間たち」
日時:1月3日~7日午前10時~午後8時(最終日は午後5時閉場)
場所:横浜高島屋7階エレベーター前特設会場(横浜市西区南幸1-6-31)
出品予定作家:岡村洋子、すみ田理恵、月魚ひろこ、はらかおり、半澤淳子
問い合わせ:tel045・311・5111

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藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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