保護犬の訓練をお手伝い 児童養護施設で暮らす子に大きな変化

美さと児童園の子どもたちがトレーニングにかかわった保護犬ミク
美さと児童園の子どもたちがトレーニングにかかわった保護犬ミク

 動物愛護センターに収容されている成犬に、家庭犬としてのトレーニングをして新しい家庭に送り出す――。沖縄県では、そのトレーニングを児童養護施設や少年院にいる子どもたちに手伝ってもらうというユニークな試みをしている。2016年度に始まった「成犬譲渡促進事業」は、収容期限が切れた成犬の譲渡を促進し、殺処分を減らそうというもの。今年は少年院「沖縄女子学園」で1頭、児童養護施設「美さと児童園」で1頭の犬が訓練を受けた。

小学生2人が保護犬「ミク」をトレーニング

 美さと児童園では、プログラムを「ハッピードッグプロジェクト」と名づけ、約2歳の雑種の雌犬ミクを訓練。ミクは初音ミクのミクで、名付け親は小学6年生の男の子A君と、小学4年生の女の子Bさん。2人はドッグトレーナーの平安山(へんざん)良孝さんの指導のもと、約5カ月間、ミクとの週2回のトレーニングに励んだ。

 とくに熱心だったのはA君で、犬を飼った経験はなかったが、本と犬が大好きで、ふだんから犬に関する本を愛読していたそうだ。彼はミクのトレーニングをするようになって大きく変わった、と担当職員の小原智世さんは話す。それまでは慣れ親しんだ人としか会話ができなかったのが、犬を介して知らない人とも話せるようになったという。

「プログラムが始まって1カ月も経たないうちに、自分から積極的に人に近づいていくようになったんです。それまで話しかけたことのない他の児童や職員に、自分から行ってミクの話をするようになって驚きました」

保護犬「ミク」と触れ合い笑顔が増えた

 実際、私が美さと児童園を訪れたときも、A君は初対面の私とごく普通に会話ができた。犬の本を何冊か小脇に抱えて現れた彼は、豊富な犬の知識を喜々と披露してくれた。

 トレーニングは1時間ほど。小学生の子どもの場合、1時間も集中力が持たないこともあるが、A君はミクとの時間の一分一秒を楽しんでいるようだった。

ミクにおすわりを教えるA君
ミクにおすわりを教えるA君

 彼のミクへの接し方はとても優しい。ミクをこわがらせないよう、そっとなでる。そんな姿を見ているトレーナーの平安山さん始め周囲の大人たちからほめられ、認められたことも、A君の自信につながったのではないかと小原さんは言う。

「犬という自分の憧れの存在とふれあい、人とも関われるようになって、彼の幸福度は大きくアップしたと思います。笑顔が増え、ずっと明るくなりました」

 一方のBさん。それまではつい自分の好きなことを優先してしまい、やらなければならないことを後回しにしがちだったのが、ミクのトレーニングをするうちに少しずつ変わってきたという。

「やらなかったことに言い訳をしなくなり、園での生活にも素直に取り組めるようになってきました」と小原さんは話す。

ミクとふれあうBさん
ミクとふれあうBさん

「ミクちゃんと、幸せな人生を」

 ミクの新しい家族に決まったのは、両親と小学生の姉妹二人の家庭。ほえ癖がひどいためになかなかもらい手が見つからなかったミクは、子どもたちとのトレーニングを経て成長し、無事トライアルを終えることができた。

 Bさんは新しい家族に宛ててこんな手紙を書いた。

「ミクちゃんを選んでくれてありがとうございます。ミクちゃんはあまえんぼうで、時にはしゅん…とする時があります。あたまやせなかをなでられるとよろこびます」

「ミクちゃんと生活して、とても幸せな人生をおすごしください」とも。

リードを新しい家族へ

 11月14日におこなわれた閉講式では、譲渡式もおこなわれた。A君とBさんは手紙を読み上げ、自分たちの手でミクのリードを新しい家族に渡した。

 大好きだった犬との別れ。式では淡々としていたA君は、帰りの車の中で大粒の涙を流して泣いたという。式の前日、彼は小原さんにこう言ったそうだ。

「会えなくても、ミクが存在しているならいい」 

 なんらかの事情で自分の家族と暮らすことができず、児童養護施設で暮らす子どもたち。その子たちにとって、ミクのような犬のトレーニングにかかわることにはどんな意味があったのだろう。行き場のなかった一頭の犬の命を救い、幸せな家庭を見つけることに貢献したこと。その経験がこれからの彼らの支えとなることを願ってやまない。

◆大塚敦子さんのHPや関連書籍はこちら

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大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この特集について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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