猫が運んだ、それぞれの幸せの形 『寄りそう猫』の筆者の思い
sippo連載「猫のいる風景」で大人気のフリーライター・写真家の佐竹茉莉子さんの新刊『寄りそう猫』(辰巳出版)が出版され、注目されている。「猫のいる風景」から4話、フェリシモ猫部の「道ばた猫日記」から9話を選んで再取材・再構成。さらに新たに4話を取材し、計17の実話を約300枚のカラー写真とともにおさめている。テーマは“寄りそう”。佐竹さんに本書に込めた思いを聞いた。
――ブログを元にまとめた前作「猫だって……。」は、すべて一人称、猫が語る形で、小中学生にも読める優しい内容でした。本作は3人称ですが、意識したのはどんなことでしょうか。
今回はエピソード数を絞って写真もふんだんに使い、多くの世代に読んでいただけると思います。テーマは“多様性”です。人と猫の共生の形はこんなにもたくさんある、ということをご紹介したかった。お子さんのいる家、ご夫婦だけ、独り暮らし、老人ホームや里山など、猫が暮らす環境や状況はまちまち。でもそれぞれにしあわせそうです。
――10代の未婚カップルが保護猫きょうだいと暮らしていたり、亡き夫が可愛がった猫を妻が大事にしたり、離婚後に猫に支えられたり……どの話にも深いドラマがあり、同時に、自由な印象も受けます。
カップルの彼は幼い時に母を亡くして親族宅を転々とし、女性と出会って猫を迎えることで初めて「家族」を持てた。離婚されてお子さんと暮らす女性は、猫たちにずっと支えられ、素敵な笑顔をみせてくれました。
今、猫の譲渡会はとても条件が厳しくなっています。虐待などから猫を守るために厳しい条件付けがされるのも無理からぬこと。ただ、本来、人と猫の関係はもっと自然発生的で、もっと自由なものであったはずという思いもあります。誰しも生きていくうちに思わぬことが起きるわけですし、そんな時に猫と寄りそい、猫たちの無条件な慈愛から力を得る方もたくさんいらっしゃる。
二重三重のセイフティネットが充実して、いろんな方が猫と暮らしやすくなり、結果的に、寄りそう人を持たない猫がなくなればいいなあと思います。猫は人を条件で見ませんし。
――多く取材されている中から、どの猫を選ぶか苦労はありましたか?
それはもう、こっちの猫ちゃんごめんねと(笑)。人と猫に限らず、猫と犬、猫と猫、その裏にある人と人のドラマを重ならぬように集めました。
そもそも今の世の中って“寄りそう”という感覚がどんどんなくなっています。皆がSNSでつながり、直接の言葉のやりとりが減って。
遥かなやさしく温かい感覚を取り戻したい。その一心で、エピソードを選んだつもりです。読んだ方がどれかのエピソードに自分を重ねられるような、ふつうの人とふつうの猫を通して。
――登場するのは、確かに、どこにでもいる猫ばかりです。
ふつうの猫たちですが、どの子も主役。よれよれの猫から女ボスまでどの子も最高に愛らしく個性的なんです。
猫ブームといわれる一方で、捨て猫も殺処分される猫も後を絶ちません。誰とも“寄りそえなかった”猫の方が多いわけです。あえて寄りそう猫にスポットライトを当てたのは、“自分にもこんな手の差しのべかたができるかも”ということに気づいてほしいから。
誰にも自分なりに「猫の味方」ができる。味方同士で手をつなげる。私は書くことで、ささやかながら「猫の味方」をがんばっているつもり。遠回りかもしれないけれど、じわーっとこうした希望が伝わっていけば嬉しいです。
- 『寄りそう猫 しあわせは猫の隣り 心温まる17の実話』
- 筆者:佐竹茉莉子
発行:辰巳出版
定価:1200円+税
フェリシモ猫部「道ばた猫日記」
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