「猫町」掲げる青梅 レトロな街並み、猫耳のお地蔵さんも
世は空前の猫ブーム。猫がたくさん暮らす観光地には愛猫家が集まり、「ネコノミクス」という言葉が生まれるなど経済効果は大きく、数兆円規模とも試算される。
東京の西に位置する青梅の中心市街地でも今年から町おこしの一環で「西ノ猫町」を掲げ始めた。ただし、街を歩いても、生きた猫を多く見かけるわけではない。
もしかしてブームに便乗しただけ? なぜ青梅で猫なのだろう。
「猫がいる風景が似合う」
JR青梅駅を出てすぐ、旧青梅街道を東に数分歩くと、道路沿いに色鮮やかな看板が見えてきた。「猫と共に去りぬ」「OLDAYS 三丁目のタマ」「第三の猫」――。名画の主人公を猫に見立てた約10枚のパロディー看板に、スマホのカメラを向ける人もいた。
すぐそばの昭和幻燈(げんとう)館(住江町)には猫の作品を集めた展示スペースがあった。作者の一人、有田ひろみさん(50)は「どこか懐かしい雰囲気の青梅。猫のいる風景が似合うと思いませんか」。
南西に約500メートル歩くと、猫耳の地蔵「猫地蔵」がある常保寺(滝ノ上町)があった。4年前から猫をモチーフにした御朱印の提供を始めると、愛猫家が集まるようになった。小沢秀孝(しゅうこう)住職(50)は「御朱印目当てに行列ができることもあります。猫をきっかけに青梅の街並みを知ってほしい」。
「猫ブームが青梅に追いついた」
「青梅は細々と猫町化してきたんです。ブームに乗ったのではなく、ブームが青梅に追いついた」と話すのは、青梅赤塚不二夫会館(住江町)の横川秀利館長(84)。中心市街地では、1998年から横川さんら地元商店主が、招き猫をテーマにした祭りを開いたり、街中に猫のアート作品を設置したりしてきた。
パロディー看板は猫のデザインで人気の絵本作家、山口マオさんに制作を依頼。駅のすぐ南側、民家に囲まれた路地裏には猫のイラストやオブジェを並べた。曲がり角が七つあるとして、名づけて「にゃにゃまがり」。住吉神社(住江町)には、招き猫の神様「阿於芽猫祖神(あもめねこそしん)」を奉納した。
それにしても、なぜ青梅で猫なのか。市観光協会の水村和朗事務局長(65)が「青梅には古くから猫を大切にする文化があったようです」と教えてくれた。江戸時代中期、青梅では絹と綿を織り交ぜた織物「青梅縞(じま)」の生産が盛んだった。江戸では「男児は青梅縞に限る」と言われるほど大流行。遠くは京都や大阪でも流通した。「猫は、養蚕の繭を食べるネズミを駆除する。転じて、商売繁盛の象徴だったとされています」
観光の目玉失ったことが契機に
今年から「西ノ猫町」を掲げた青梅。契機となったのは、街の観光の目玉を失ったことだった。
もともと中心市街地では、93年ごろから古い街並みを生かした昭和レトロの観光を推し進めてきた。目玉は、映画の手描き看板。市出身で「最後の映画看板師」とされた久保板観さんが描いた約20枚の看板が商店の外壁などを彩っていた。
看板は94年に設置され、3年に1度、新作が掛け替えられていた。しかし久保さんが2018年2月に亡くなり、新作を飾れなくなった。同年9月の台風24号の強風で数枚の看板が吹き飛んだことから、危険性が指摘され、地元商店会が撤去した。
映画看板に代わる存在として挙げられたのが、細々と街中に増えてきた猫の作品による町おこしだった。今年3月、地元商店約80店舗が集まり「青梅猫町倶楽部」を結成。各店舗に1品ずつ、猫に関連する商品を置く「1店1猫」を合言葉に、「西ノ猫町」を掲げ、猫グッズの市場や町歩きなどのイベントも開催した。
あちこちに猫のオブジェやイラスト
「青梅に猫と言われても、とっぴに思えるかもしれない」と横川さん。「でも、街のレトロな雰囲気は、萩原朔太郎の小説『猫町』と似ている気がしませんか」
秋の日、鉄道を途中駅で下りた主人公。山道をさまよった先で、「繁華な美しい」街に迷い着く。物音ない不思議な街で、突然猫の大集団に遭遇し――。
西に延びる線路の途中駅、青梅。古民家が並ぶ街中のあちこちで目に入る猫のオブジェやイラスト。街を歩けば、「猫町」の主人公の気分を味わえる気がした。
(田中紳顕)
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