ロケ地の島で緒形拳さんと保護した子猫 猫ハッピーさんと幸せに

   イラストレーターの江戸家猫ハッピーさん(48)は、21歳から15年間、俳優の緒形拳さんの付き人をしていた。TVドラマのロケ地だった沖縄の離島で、緒形さんとともに子猫を保護し、今も一緒に暮らしている。人気ドラマの裏側に、猫を巡るもう一つの物語があった。

(末尾に写真特集があります)

   江戸家猫ハッピーさんは、動物ものまねの芸人、江戸家猫八さん(3代目)の末娘。江戸情緒が漂う日本橋浜町(東京都中央区)の一角にあるマンションで暮らしている。部屋を訪ねると、ニャーニャーと賑やかに猫が近づいてきた。

4歳から18歳までの猫と、ここで暮らしています。2001年に父猫八と母が亡くなり、しばらくしてから実家を整理して引っ越してきました。なにしろ猫と縁のある家系だし(笑)、ずっと猫がいるのが当たり前。猫さえいれば寂しくありません」

子猫時代の足袋とラッキョウ(2005年、鳩間島で、猫ハッピーさん撮影)
子猫時代の足袋とラッキョウ(2005年、鳩間島で、猫ハッピーさん撮影)

大の猫好きだった大俳優

 猫が集まる居間には、猫の絵や家族の写真とともに、2008年に亡くなった緒形拳さんの写真が飾られていた。猫ハッピーさんにとって緒形さんは“第二の父”のような存在だったという。

「高校を出てから3年、父の付き人をしたのですが、父がドラマで共演した緒形拳さんの人柄に私が惚れこんで(笑)、付き人志願をして受け入れていただきました。途中からマネージャーになりましたが、両親を亡くしてからは親代わりのように思っていました。緒形さんも大の猫好きだったんですよ」

 猫ハッピーさんの家には、緒形さんが命名した猫もいる。舞台の共演者だった高橋恵子さんから譲り受けた灰色の「バナナ」(メス、18歳)と、ドラマのロケ先で出会った白黒猫の「足袋(たび)」(メス、14歳)だ。「足袋」はその名の通り、足先が白い。

撮影の合間に足袋たちと遊ぶ緒形さん(2005年、猫ハッピーさん撮影 (c)緒形事務所)
撮影の合間に足袋たちと遊ぶ緒形さん(2005年、猫ハッピーさん撮影 (c)緒形事務所)

ロケ地の美しい島で

「『足袋』の出身は、沖縄の離島の鳩間島というところです。飛行機と高速船を乗り継いで東京から10時間くらいかかる、美しい島……。思い出すと懐かしいですね」

『足袋』と出会うきっかけになったのは、20054月から放映されたドラマ『瑠璃(るり)の島』(日テレ系)。親に捨てられて人間不信に陥った少女(成海璃子)が、過疎で廃校寸前の小学校を存続させるため、里子を探す男性(緒形拳)と出会う。島の豊かな自然のなかで、島民との関わりを通して成長していく……というヒューマンストーリーだ。

   ロケの間、スタッフたちは民宿に泊まり、緒形さんは一戸建ての家を借りて住んだ。緒形さんの食事を猫ハッピーさんが作るためだったという。滞在何日目か、民宿に生後2カ月くらいの子猫4匹がいるという話が伝わってきた。子猫が気になった猫ハッピーさんはすぐに見に行った。

   白黒と、茶白と、サビが2匹。かわいい盛りだった。

18歳になったバナナ。かつてドラマに出たこともある
18歳になったバナナ。かつてドラマに出たこともある

島の習慣

「でも原作者さんから『この辺りは家畜を守るため、昔から猫が産まれると子猫を海に流す』と聞いて、それは大変だ、と。その後、民宿のおじさんが『俺はそんなことはしたくないので誰かもらってくれないか』とおっしゃったので、子猫の家族を見つけたいと思いました。本当は自分がみんな飼ってあげたかったけど、当時東京に3匹いたので……とにかく人慣れも必要だったので、子猫の世話を始めたんです」

 猫ハッピーさんは借家に子猫を連れ帰り、緒形さんと一緒にかわいがった。緒形さんは撮影の合間や休日、一緒に横になったり、ごはんをあげたり、膝に乗せたりして、ニコニコしていた。竹野内豊さんや倍賞美津子さんら共演者も、ロケの間に子猫を見にやって来て“癒やされていた”という。

   結局、1匹は民宿で、もう1匹は近所の人が飼うことになった。猫ハッピーさんは「避妊と去勢手術を絶対にしてね」とお願いした。

   残る2匹、白黒の『足袋』と、サビの『もずく』は猫ハッピーさんが飼うことになり、東京に連れ帰った。だが、サビは先住の3匹とどうしても折り合いがつかず、やむなく友人に託したという。

 ふだん猫ハッピーさんが家を留守にする時は、友人に猫シッターを頼むのだが、ロケ地の離島はいったん行くとすぐには戻れない距離。『足袋』がまだ幼く心配だったため、1カ月後のロケの時は、先住猫といっしょに島に連れて行ったのだという。

「民族大移動ですね(笑)、『足袋』にとっては里帰り。借家の外に出すことはありませんでしたが、おとなの猫たちもびっくりするほど島の空気に馴染みました。自然の中ってやはりいいいんですね。ロケを終えて帰る時、“まだここにいたい”って感じで部屋を駆け回る猫もいて、『船が出るからケージに入って~』と格闘したほど(笑)」

 東京に戻っても、緒形さんは猫たちによく会っていた。当時は緒形さんの事務所が猫ハッピーさんの自宅にあり、打ち合わせなどで事務所に行くと、「足袋」は緒形さんにべったりくっついて甘えたそうだ。

バナナ、江戸家猫ハッピーさんに抱かれる足袋、同居のウニ
バナナ、江戸家猫ハッピーさんに抱かれる足袋、同居のウニ

夢は猫のための家

 島生まれの「足袋」はその後、順調に育ち、大きな病気もしていない。

11歳の頃に歯肉炎で抜歯した程度。この夏も暑かったけど、最年長バナナや他の猫とともに無事に乗り越えてくれました」

 猫ハッピーさんの目下の夢は、イラスト業に力をいれること。そして、都心から少し離れた空気のよい所に、“猫がのびのび暮らせる一軒家”を建てることだという。

2006年に緒形さんと始めたインターネット猫雑貨店『猫満福庵』は今年13年目を迎えました。来年は自分の初個展も予定しています。絵を描きながら、猫とずっと楽しく暮らしていけたら。やっぱり、海の近くがいいかな……」

(撮影・小林郁人)

江戸家猫ハッピーさんの「猫満福庵」



藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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