道路脇で少年が拾った子猫 母のペットロスの記憶を吹き飛ばす
雨の夜、行き交う車の音にかき消されまいとでもいうかのように子猫が鳴き声をあげていた。時刻は零時近く。偶然、近くを通った少年の耳に、そのいたいけな子猫の声が届いた。
段ボール箱から聞こえた鳴き声
2011年5月の深夜。大阪には雨がしとしと降っていた。奥田さんの長男(当時15歳)は、DVDを探しにレンタルショップに向かっていた。その日はいつもと違う道を通ったのだという。
大きな幹線道路沿いの歩道を歩いていると、どこからともなくニャアニャアと鳴く猫の声がした。車の音にかき消されまいと声をあげているようだった。あたりを見回すと、道路の端にダンボール箱が置いてあり、その中に声の主がいた。茶トラのオスの子猫だった。
「本当に車の量が多いところで、ひとつ間違ったら、ひかれていたと思います。最初からまったく物怖じしない様子で、息子が手を差し出すと、寄ってきたので保護したそうです」
奥田さんはその子猫にステキな名前をつけようと思ったが、丸まって寝る姿が可愛いからと、長男が「だんご」と名付けた。
「翌日、だんごを動物病院に連れて行きました。生後1カ月くらいとのことでした。すごく人なれしていたので、誰かに飼われていたのだと思います。大きな病気はありませんでしたが、何か食べてはいけないものを食べたようで、しばらく下痢をしていました」
ペットロスの記憶を吹き飛ばす
奥田さんは実家で猫2匹、犬1匹を飼っていたという。1匹の猫は奥田さんと成長をともにし、そして旅立っていった。
「ずっとペットの世話をしていた母も悲しかったと思いますが、私もペットロスになってしまい、仕事をしている時もハラハラ涙があふれてきて、長い間、気分が沈んでいました。みんなペットではなく、大切な家族。いつもそばにいたあの子がいない。心の空白を埋めるのは大変でした。もう二度とあんな思いをしたくないので、二度とペットは飼わないと決めていました」
ところが、長男が連れてきた「だんご」を前にすると、ペットロスのことはすっかり忘れてしまったという。「動物病院でも譲渡について相談しましたが、結局、家族として迎えることにしたんです」
猫にぞっこん
だんごは、長男や長女の膝の上に乗ったり、抱っこされたりするが、奥田さんには抱かれないという。
「私がベタベタしたがるから嫌がるんです。だんごは私にとってパワースポットのような存在。姿が見えないと心配で、心配で。子どもたちには、家の中にいるのに決まっているんだから、そんなに心配しなくてもいいんじゃないと言われるのですが……」
だんごにぞっこんの奥田さん。仕事が終わると、ツンデレ猫のもとにいそいそと帰るのだという。子猫で拾われただんごくんも、今や8歳。元気に早朝4時から「ごはん」をせがむそうだ。
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