保護猫の譲渡会も「出張」する時代へ にぎやかな場所に出没
保護猫と新しい家族の出会いの場といえば保護猫カフェや譲渡会が代表的だが、 その譲渡会も「出張」する時代のようだ。
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日曜日の昼下がり。買い物客でにぎわう都内のホームセンターの駐車場に、そのトラックはあった。2トン積みクラスで車体は真っ黄色。荷室の壁面がウィングになっていて、開くと16に仕切られたショーケース(ケージ)が。左右あわせて、最大で32頭が収容できる。保護団体「東京キャットガーディアン」(以下TCG)が作った移動譲渡会場車「幸せの黄色い車」だ。
猫を1匹でも多く救うため 人の多い場所へ
「今まではシェルターを保護猫カフェとして開放して常設の譲渡会場にしていたんですが、一頭でも多く救うためには、人が集まる場所へ行くことも必要だと考え、このトラックを作りました」と代表の山本葉子さん(57)。
出没するのは週末の昼間の数時間。主な出張先は首都圏近郊のホームセンターや住宅展示場だ。運用は昨年10月からだが、トラックの開発には半年以上を要した。
「完全オーダーメイドで冷暖房完備。分厚いアクリル板を使っているので、外の音は全くと言っていいほど聞こえません」(山本さん)。慣れない場所では狭いほうが落ち着く、という猫の特性に合わせて、ケージはあえて小さくした。連れてくる猫たちは適性を見て、TCGのシェルターから選ぶ。
「展示中は外から見ていただくだけ。猫に触れることはできません。譲渡を希望される方はその場でスタッフが詳細な説明をした上で必要書類を提出していただき、面談。その上で、車内で対面していただきます。ご決断いただけるなら、その日にも連れ帰っていただけます」
この日は午前11時の開始から1時間で4頭の譲渡が決定した。千葉県船橋市から来たという飯高幸子さん(40)は夫と二人暮らし。生後約3カ月のメスの子猫を引き取ることにした。
「猫を飼うのは初めて。ペット可の物件に引っ越したので、これを機にと思って。以前から保護猫に興味があり、TCGのシェルターにも足を運んでいました。事前にネットでこの子のことはチェックしていたので、今日対面できてうれしいです」
フードメーカーも参画
保護猫カフェをまるごと持ち出すスタイルも現れた。岐阜県を皮切りに、東京や大阪、広島に保護猫カフェを展開するネコリパブリックと、ペットフードメーカーのネスレ日本(ネスレ ピュリナ ペットケア)の共同事業、「ネコのバス」だ。
ネコリパブリック「首相」の河瀬麻花さん(43)は話す。
「昨年、レンタルのトレーラーを臨時の保護猫カフェにして、キャンピングカーのイベントに出展したことがあるんです。そのときの手応えから、単発のイベントではなくて持続できる何かを……と考えていたところに、ネスレさんが賛同してくださって『ネコのバス』が実現したんです」
お披露目は2018年4月。神戸・三宮にある「ネスカフェ三宮店」前の広場に2日間、バスを設置した。
「移動のストレスをなるべく少なくするために、猫たちはすべて会場に近いボランティアのところから。検疫、ワクチン接種や血液検査などの参加条件をクリアした子ばかりです。車内ではすべてフリーではなく、ケージから出る子は常に1頭だけというルールにしました。入場は20分(事前説明5分、体験15分)を一区切りとして、1回に車内に入るのは6人まで。猫の顔ぶれは初日と2日目で総入れ替え。神戸市の『人と猫との共生推進協議会』の協力で、市獣医師会の獣医さんにも立ち会っていただきました」と、とにかく猫が第一!
三毛猫カラーに塗られた愛らしいバスは、譲渡会場として使われるほか、車内でVR(バーチャルリアリティー)体験を通して譲渡会の雰囲気が味わえるなど、猫を連れていけないイベントでも役立っている。
「このバスをあちこちに派遣することで、各地のボランティアさんたちにも譲渡会の機会を増やしてあげたい。かわいくて楽しいイベントを根付かせることで、世の中の『譲渡会=かわいそう』という誤解も解きたいんです」(河瀬さん)
ネスレ側にはどんな思いがあるのか。ネスレ ピュリナ ペットケア マーケティング統括部の野村裕彦さん(43)によると、
「より多くの人たちに関心を持ってもらうため、都市部で譲渡会を開催する際の乗車券をオリジナルデザインのキットカットにするなどの工夫もしています。譲渡会を通じて、保護猫に関わる社会的な問題解決につながる取り組みを推進していきたいと考えています」
なるほど、人向け・猫向け、両方の商材を持つ企業ならではの支援活動というわけだ。
ネコのバスは前出の「幸せの黄色い車」同様、ホームセンターにも出張している。ホームセンターにとって、譲渡会はどういう位置づけなのか。
TCGとネコリパブリック、両方に会場を貸している島忠HOME'S(本社・埼玉県)に話を聞いた。
ホームセンターも本腰
ホームセンター商品部の山下勝利さん(34)は、出張譲渡会をスタートさせた立役者だ。
「数年前、ホームセンターの業界誌で沖縄のペットショップが保護動物の譲渡会を開催しているという記事を見て、フードや用品を販売しているわれわれも、そうした動物福祉に貢献すべきなんじゃないかと考えたのがきっかけですね」
思いついたはよいが、実現にあたっては、考えなければならないことが山ほどあったという。
「今は猫で3団体、犬で2団体とお付き合いをしていますが、場所を貸すにあたってのルール作り、仕組み作りはまだ途上。課題もたくさんあります」(山下さん)
たとえば生体販売の問題。基本的に生体販売はテナントのペットショップが行っているが、同一店内で「販売」と「譲渡」が拮抗するわけにいかない。現在も譲渡会を開ける店舗と開けない店舗の明確な線引きには至っていない。譲渡会を見て「自分たちにもやらせてほしい」と名乗りを上げてくる人や団体も多い。が、「信頼できる団体にお願いしないとリスクヘッジできない」ため、簡単にすそ野を広げるわけにもいかない。
「譲渡会を開催しない店舗でも、ネコリパブリックさんのオリジナルグッズは扱っていますので、買い物で保護猫支援ができます。今後は島忠で保護動物の譲渡を受けた方だけのアフターフォローなども考えていきたいですね」
ボランティアと企業が協働しはじめた保護猫活動。殺処分ゼロを目指して、大きな前進になることが期待されている。
(ライター 浅野裕見子)
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