飼い主の高齢化、取り残される犬や猫 認知症や入院、世話できず

家に残されたトイプードル=松本惠生さん提供
家に残されたトイプードル=松本惠生さん提供

 介護が必要な高齢者を支える関係者にとって、「ペット」が大きな課題になっています。認知症などで飼い主が世話をできなくなったり、入院や施設入居で犬や猫が取り残されたりする事例が相次いでいるのです。

介護保険ではカバーできない「世話」

「飼い主さん希望! (飼っていた高齢者の)認知症のため一人ぼっちになったワンこです」「あと数年の命だと思います。何とか幸せに暮らしてほしい」

 昨年12月。介護の相談窓口となる京都市岩倉地域包括支援センターに勤める松本惠生(しげお)さんは、自身のフェイスブックでこう呼びかけた。支援していた高齢男性のトイプードルの引き取り手を見つけるためだ。

 独居の男性は認知症が進み自宅はゴミ屋敷に近い状態。外出して何度か行方不明になり、入院せざるを得なくなった。近所の人が交代で犬の世話をしてくれたが限界に。支援に入った松本さんが自宅で犬を預かる必要に迫られた。

 幸い、知人が名乗りをあげてくれ、殺処分となる可能性もある動物愛護センターに引き渡す事態はまぬがれた。松本さんは「ペットの課題はますます増える。引き受けてもらえるネットワークを持たないと私たちも支えられない」と話す。

 同様の状況は各地で生じている。川崎市幸区のかしまだ地域包括支援センターの深井純子所長が昨年、地域のケアマネジャーに実施したアンケートでは、回答者の7割以上が、介護保険利用者への支援上、ペットのことで困ったことがある、と答えた。

 独居の高齢者は年々増えて、2020年には700万人を超す見込み。「独居」や「老老」世帯で、ペットの世話を頼む家族がいない人が増えている。

 介護保険には料理や掃除を支援する「生活援助」があるが、ペットの世話は認められていない。だが現実には放置できず、介護関係者が苦慮している。全額自己負担の介護保険外サービスとしてなら、一定の条件のもとでペットの世話も可能だが、当然費用がかかる。

 一部の地域では、地域包括支援センターがペットシッター事業者などと連携する試みも動き始めている。

「同じ家の中、分けて考えることは無理」

 なぜ高齢者の支援とペットが切り離せなくなっているのか。「かわさき高齢者とペットの問題研究会」(川崎市)代表の渡辺昭代さんに聞いた。
     ◇
 私たちは、犬・猫愛護ボランティアとして活動する有志の集まりで、2015年から活動を始めました。高齢化する飼い主とペットの問題の解決策を考える勉強会や啓発活動に取り組んでいます。

 そもそも同じ一軒の家に暮らしている要介護のお年寄りと、ペットを分けて考えることに無理があります。あるとき地域包括支援センターから「あと10分で、ひとり暮らしの高齢者が救急搬送されます。犬がいます。どうすれば」と電話がかかってきました。近所だったので自転車でとんでいきました。

 残されたペットは個人の財産ですから、第三者が勝手に譲渡することはできません。委任状や承諾書をいただかないといけませんが、本人が認知症で意思確認が難しいことも少なくありません。

 やむを得ず、メンバーが家でペットを一時的に預かるしかないことも。その場合は飼育や健康診断などの費用の問題がありますし、狂犬病予防接種の有無などについては「個人情報」扱いで、行政から教えてもらうことができません。

 状況によっては判断能力が衰えた飼い主へのボランティアが必要になるため、私たちは「認知症サポーター養成講座」を受けオレンジリングをもらいました。

 ペットと入所できる有料老人ホーム、お散歩代行業などはあります。でもそれはあくまで一定の金銭的余裕のある人のためのもの。現実には、生活にゆとりのない方がほとんどです。

 川崎市の動物愛護センターでは、65歳以上の高齢者世帯には原則として譲渡はしません。でも、ペットショップでは誰にでも売ってしまいます。ペットと暮らそうと考えるなら、一時的な感情に流されるのではなく、万が一、自分がペットの世話ができなくなった時のことを、よく考えなくてはなりません。

 川崎市ではようやく、ケアマネジャーやヘルパー、行政関係者、動物ボランティアが意見交換する場ができつつあります。問題を共有し、少しでも改善していけたらと思います。
(清川卓史)

朝日新聞
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