事故で大けがの猫、募金で手術 家でしあわせなクリスマス  

 兄猫とともに町の人たちに可愛がられていた「じゅじゅ」ちゃん。車にひかれて、骨盤骨折の大手術を乗り越え、家猫に。「じゅじゅちゃん、がんばれ」という愛のリレーが実り、しあわせなクリスマスを迎える。

(末尾に写真特集があります)

おてんば娘は、いつも鼻先にキズ
おてんば娘は、いつも鼻先にキズ

3匹目の暴れん坊

 「じゅじゅがわが家にやって来てちょうど1年。来た頃は、ぴょこぴょこ歩きだったんですが、今は、まったく普通。むしろ3匹の中でいちばん暴れん坊で、いつも鼻先に傷を作ってる」と笑うのは、飼い主の聡美さん。確かに、じゅじゅちゃんの鼻先にはかすり傷が。先住猫とハッスルしすぎたらしい。

 聡美さんの家には、黒猫の「海風」くんと三毛猫の「きり」ちゃんもいる。3匹とも、千葉県浦安市の里親募集型・保護猫ラウンジ「猫の館ME」からやってきた猫たちだ。

 猫の館で仲のよかったきりちゃんと海風くんを一緒にもらい受けて間もない1年前のこと。聡美さんは猫の館のHPを見て、1匹のハチワレ猫のことが頭から離れなくなった。事故後の大手術をしたあの子はおうちが見つかるのだろうか……。夫の真人さんと経済的なこともじっくり話し合った末、その子を3匹目として迎えることに決めた。

「実家にいた猫の記憶と重なったんです。『えいさく』は、私が小学生の時、公園で友だちとこっそり面倒を見ていた子猫でした。ある日、犬に腰を噛まれて、両方の後脚が使えなくなり、親に打ち明けて家猫にしてもらいました。圧迫排尿の手助けが家じゅうでいちばん上手だったのが、私だったんです。えいさくは15歳まで生きました」

 じゅじゅちゃんは、自力で排尿できると書かれていた。だが、「将来、万が一、加齢などで圧迫排尿が必要になった時、私なら面倒を見てあげられる」と思ったのだ。

地域猫時代のじゅじゅちゃん(山本京子さん提供)
地域猫時代のじゅじゅちゃん(山本京子さん提供)

仲良しハチワレ兄妹

 不妊手術済みの印、耳カットのあるじゅじゅちゃんは、外で暮らしていた猫だ。子猫を卒業したばかりといった年齢の頃、とある会社の敷地に、瓜二つのハチワレお兄ちゃんと一緒に突如現れた。社長をはじめ会社の人たちはみな猫好きだった。

 社員のひとり、山本京子さんは、浦安市の地域猫愛護員をしている。地域の猫については母猫が誰かまで熟知しているのだが、その子たちは見たことがなかった。山本さんは、兄妹に不妊去勢手術をし、地域猫として面倒を見ることにした。

 2匹は毎日連れだってやって来て、お腹を見せて転がった。近隣の人たちからも可愛がられた。

 去年の夏のある朝。山本さんの携帯電話が鳴った。近隣にある猫の館からだった。「白黒の猫がうずくまっていたので、助けようと近づいたけれど、後脚を引きずりながら車の下に潜ってしまった。どこの猫なのか、ご存じないですか」という緊急の相談だった。

「じゅじゅちゃんだ」とすぐにわかった。その日はお兄ちゃんの「ハッチ」しか来なかったので、心配していたのだ。

ハッチお兄ちゃん(右)をなめてあげているじゅじゅちゃん(猫の館ME提供)
ハッチお兄ちゃん(右)をなめてあげているじゅじゅちゃん(猫の館ME提供)

「じゅじゅちゃん、がんばれ」

 じゅじゅちゃんは、骨盤を骨折していて手術を受けることになった。手術費用は高額の上、さらに別件の地域猫の治療費もかさんでいた。不妊去勢の費用は市から出るが、地域猫の餌代も治療費も、愛護員の個人負担である。途方に暮れる山本さんに、猫の館から、こんな申し出があった。

「店頭の募金箱やHPで呼びかけて、じゅじゅちゃんの手術代を集めます。手術後はここで預かって里親さんを探しましょう」

「じゅじゅちゃん、がんばれ」という人たちの願いがひとつになり、カンパはあっという間に集まった。手術は無事成功し、じゅじゅちゃんはお兄ちゃんのハッチくんともども猫の館で譲渡希望者を待つこととなった。

 そして、入居後半年の今年2月、じゅじゅちゃんは、聡美さん夫婦の3番目の猫として迎えられたのだった。

ビビリのきりちゃん(左)に付き合って、来客時にソファの下へ
ビビリのきりちゃん(左)に付き合って、来客時にソファの下へ

 思いはひとつに

 募金を提案し、兄妹を預かった猫の館のオーナーの小倉さんは言う。

「地域で猫たちのしあわせのためにがんばっている方たちと手をつなげたら、という思いはずっとあったのですが、じゅじゅちゃんがきっかけで、協力関係を築くことができました。1匹に譲渡先が見つかれば、また1匹保護猫を預かることができるので、いい流れを作りたい」

 山本さんも、思いは同じだ。

「愛護員たちは、家にも保護猫を抱えて、みないっぱいいっぱい。猫の館で、地域の保護猫の預かりや、毎月の譲渡会開催などの協力をしてもらえるようになり、どれほど気持ちが楽になったことか」

 どんな猫もしあわせに、共生社会の中でその一生を全うできますように。じゅじゅちゃんの事故をきっかけとして、山本さんや小倉さんは、同じ思いの人たちと、8月に「share life(シェア・ライフ)」という一般社団法人を立ち上げた。行政にも事業提案をし、町ぐるみの協働を呼び掛けていく。

「じゅじゅちゃん、がんばれ」リレーのアンカーになった聡美さんは言う。

「私たちは、充分に3匹からしあわせをもらっています。この子たちにも『この家に来てしあわせだな』と思って、穏やかな一生を過ごしてほしいですね。いま外にいる猫たちにも」

 さて、じゅじゅちゃんのお兄ちゃん、ハッチくんのその後はというと……。

すぐ膝に乗りたがる甘えん坊ぶりを大いに気に入られ、猫の館を卒業。やはりハチワレの先住猫「ゆきみ」お姉ちゃんのいる家で、「大福」という名をもらい、“雪見大福コンビ”として、仲良く暮らしてしているそうだ。

(この連載の他の記事を読む)

【前の回】「狂暴猫」と呼ばれた被災猫2世 まさかの大変身、甘えん坊に
【次の回】散歩中の柴犬が、次々と子猫を発見 14匹それぞれ温かな家へ

佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「猫との約束」「里山の子、さっちゃん」など。Webサイト「フェリシモ猫部」にて「道ばた猫日記」を、辰巳出版Webマガジン「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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この連載について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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