無料で猫の不妊・去勢手術をする動物病院 1年半で1万匹に施術

 無料で猫の不妊・去勢手術をする動物病院が東京・杉並にある。名前は「ねこけん動物病院」。NPO法人「ねこけん」代表理事の溝上奈緒子さん(43)が、クラウドファンディングで支援を募って2017年に開設した。開院からの約1年半で、受け入れた猫は約1万匹。経済的負担を和らげることで、不妊・去勢手術が広がり、殺処分される動物がゼロになるように、活動を続けている。

(末尾に写真特集があります)

 10月末のある平日。診察が始まる午前9時を過ぎると、ねこけん動物病院にはケージやキャリーケースを持った人たちが次々とやってきた。

「7匹お願いします」。野良猫の保護活動を行っている団体「ペットと暮らす街づくり支援センター」代表の嶋根康文さん(49)は、キャリーケースを両手に抱えてやってきた。

 7匹はすべて保護した野良猫。ここで不妊・去勢手術をして、新たな飼い主を見つける。嶋根さんは「年間100110匹の野良猫を捕まえて、不妊・去勢手術をしている。ボランティアの集まりなので、すべて自腹でやってきた。こういう病院があるとありがたい」と話す。

 

手術が終わった猫に獣医師がのみ取り薬をつける
手術が終わった猫に獣医師がのみ取り薬をつける

 この日、予約のあったのは13匹。すべて午前中に病院へやって来た。多いときは1日2530匹、少ない日でも10匹ほどを受け入れる。手術にかかる時間は、メスの場合1530分、オスは5分程度だ。常勤の獣医師が1人、ほかに4人の獣医師がボランティアとして活動する。ワクチンやノミ取りなども、平均的な価格の数分の一で受け付ける。犬も対象にする予定だったが、現在、犬の受け入れは休止しているという。

 溝上さんは病院設立のため、2016年8月に朝日新聞社のA-portでクラウドファンディングをスタート。118日間で、560人から目標の500万円を大きく上回る8857655円が寄せられた。集まった資金は安全に手術をおこなうための医療機器の購入や内装費用のために活用。ねこけん動物病院は2017年4月に開院した。

 現在、病院の家賃や獣医師の人件費、医薬品など病院の運営にかかる費用は、溝上さんが経営するペット用品などを扱う会員制ショッピングサイトで集まった会費を当てている。

 

溝上さん(左)
溝上さん(左)

 ねこけん動物病院では、捕まえた野良猫に手術をして屋外に返す場合や、猫を保護して次の飼い主を見つける場合はもちろん、飼い猫も対象にしている。

 野良猫や保護猫だけでなく、なぜ飼い猫も対象とするのか。背景には、多頭飼育崩壊がある。

 溝上さんは、何度も多頭飼育崩壊の現場から猫を保護してきた。不妊・去勢をしなければ、猫はどんどん増える。環境省の資料によると、メスの子猫は生後4~12カ月で繁殖出来るようになる。1回の出産で4~8匹の子猫を産み、1年に2~4回出産できる。そのため1年間で20匹以上に、2年間で80匹以上に増えることもありうる。

 2017年度に全国で殺処分された猫は3万4865匹(環境省調べ)。うち離乳していない子猫は2万1613匹で、6割以上を占めている。

 一般的に都内では、メスの不妊手術は2万5千~3万5千円程度で、4、5万円かかる場合もあるという。オスの去勢手術は1万~2万円ほどだ。猫が増えると不妊・去勢の手術代の負担はより重くなり、足が遠のく。するとさらに猫が増える。

 溝上さんは、「野良猫ゼロ、殺処分ゼロのためには、まず猫が繁殖している家の中をなんとかしなくてはいけいない。そのためにはこういう病院が必要」と話す。

 

病院内には、キャリーケースが並ぶ
病院内には、キャリーケースが並ぶ

 開院から1年半あまり。溝上さんは無料ならではの難しさも感じている。驚いたのが予約キャンセルの多さだ。

 ねこけん動物病院は、完全予約制で運営しているが、当日になって10匹20匹単位で予約が取り消されるケースがあるという。急きょほかの猫を受け入れることも難しく、病院の運営に大きな支障となっている。本当に必要とする人が手術を受けられない事態にもつながりかねない。そこで1年が過ぎたころから、無料枠を一定数とし、枠を超えた場合は3千円とし、運営費に充てている。

 猫を連れてくる人たちの中には多頭飼育崩壊の兆しを感じさせる飼い主もいて、「手応えはある。多頭飼育崩壊を防いでいる実感はある」と溝上さんはいう。見据えるのは、エリアの拡大だ。「もっと力をつけて、全部の都道府県に病院を作っていきたい」と話す。

 そのために必要となるものの一つは資金だ。1028日には、六本木でチャリティーイベントを開催。人気シェフがボランティアで腕を振るい、食材は千葉県いすみ市から提供を受けた。約400人が集い、約250万円が集まったという。「東京の病院までは来られない人もいる。全国に取り組みを広げたい」

(磯崎こず恵)

ねこけん動物病院(完全予約制)
住所 〒166-0011東京都杉並区梅里2-29-1-1F
電話番号 03-6383-2270
営業時間 9:00 AM – 6:00 PM
営業日 日・月・火・水・金・土
定休日 木曜日

sippo
sippo編集部が独自取材した記事など、オリジナルの記事です。

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