富士山の見える畑で農業 ダンサー田中泯さんと猫の「冨士男」 

田中泯さんに引き取られた冨士男
田中泯さんに引き取られた冨士男

 田中冨士男に久しぶりに会った。雄の2歳。初めて会った時、彼にはまだ名前がなかった。田中とは舞踊家の田中泯さんの田中。冨士男とは、富士山の見える場所に住む男だから。

 冨士男は、監督した連続ドラマ「グーグーだって猫である2」の最終回に登場する。泯さん扮する孤独な大富豪が、捨てられた子猫を子どもたちから預けられ、ついうれしくなって所有するゴルフコースの上で一緒に踊る。その時の子猫が冨士男。頑張ってくれたなあ。感謝してます。泯さんは冨士男と別れがたく、連れて帰った。

 いま、田中泯さんのドキュメンタリーを作っている。「名付けようのない踊り(仮)」。かつて、フランスの哲学者、ロジェ・カイヨワさんが泯さんの踊りを見たときの言葉からいただいた。昨年夏のポルトガルから始まり、多くの場所で踊りを撮り続けている。

 田中泯というと、天才・土方巽の流れをくむ稀有(けう)な舞踏ダンサーと思う人もいるだろう。だが、泯さんは土方への愛はそのままに、「舞踏」という言葉は決して使わず、自分の踊りはただ「踊り」と呼んでいる。何のジャンルにも属さず、自由であるということか。私は「自由」を撮影し続けているわけだ。

 泯さんは、日々、農業に本気だ。夜、東京で話していても、朝の農作業があれば車を飛ばして富士山の見える山梨の畑に向かう。踊りを褒められるよりできた作物を「美味(うま)い!」と言われた方がうれしそうだったりもする。踊りの後、それを販売する。いつも買って帰るのが楽しみだ。私の昨日の夕飯は泯さんのジャガイモ「みんじゃが」の入ったカレーだった。美味(おい)しかったですよ、泯さん。

 持続し続ける農作業は、田中泯、思索の時間となり、作物だけでなく田中泯の踊る身体を作る。そんな畑に冨士男がいる。一緒に住む別の12匹と自然を生き生きと楽しんで。冨士男、良かったなあ、泯さんと出会って。ああ、洗ったジャガイモに乗っちゃダメ! 洗い直しだよもう!

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犬童一心
1960年東京生まれ。映画監督。主な監督作品に「金魚の一生」「二人が喋ってる。」「金髪の草原」「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「のぼうの城」など

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この特集について
遠い目をした猫
「グーグーだって猫である」などを撮った映画監督で、愛猫家の犬童一心さんがつづる猫にまつわるコラムです。
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