交通事故でけがした野良犬 人のやさしさを知り、飼い犬に
バイクにひかれて足を骨折し、動けなくなった野良犬が保護された。人間と目を合わすことさえしない野生化した野犬だった。その犬は愛犬家宅に託された。
奈良県内の路上で車にはねられ、足を怪我していた野良犬が発見された。だが、なかなか預ける保護団体が見つからず、保護した人は、友人の巽さんに犬を託したという。
犬は人に飼われた経験のない野良犬のようだった。野生化した犬は、ペットの犬のようには人間に心を許さない。なかなか人になつかず、噛みつくなど一筋縄ではいかない面もあり、飼うためには動物行動学に基づいた治療が必要なケースさえある。
その犬は巽さん宅で「永奈(えな)」ちゃんと名付けられ、先住犬のマルチーズ「未来(みく)」ちゃんと一緒に暮らし始めた。
人間を知らなかった犬
巽さんには、永奈ちゃんがこれまでどんな生活を送ってきたのかは分からない。しかし、人間をまったく知らず、警戒心と恐怖心しかない永奈ちゃんに、「人間も悪い人ばかりじゃない」と教えることからすべては始まった。巽さんを含めて人間とは目を合わせない、そして、棒状のものを見ると怖がったという。過去に誰かにいじめられた可能性もあるようだ。
ドッグランに連れて行っても、しゃがみこんでしまったり、ベンチの下に入ってうずくまったりして、他の犬と遊ぶこともできなかったという。
それでも巽さんには不安はなかったという。他に身寄りがいないから、より一層愛おしく、「私の力でいっぱい友達を作ってあげたい」と思ったそうだ。
巽さん宅で、永奈ちゃんは怪我もいえ、少しずつ巽さんや先住犬の未来ちゃんに心を開いていった。やがて未来ちゃんが亡くなり、新しい保護犬の鉄人(てつと)くんがやって来て、いまは2匹仲良く姉弟のように暮らしている。
ドッグランでの悲しい思い
巽さんには、少し悩みがある。ドッグランに、永奈ちゃんや未来ちゃんを連れて行った時、永奈ちゃんを見た別の飼い主が、自分の飼い犬をそっと抱き上げたのだという。
「雑種で野犬だった永奈は、好戦的だと見られることがあります。実は未来のほうがきつい性格なんですが」
成犬は子犬と違い、すでに性格が形成されている。人間を知らずに育った元野良の成犬をなつかせるのは、並大抵のことではなかっただろう。だが、根気よく接することで、巽さんと永奈ちゃんのような絆を結ぶこともできるのだ。

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