お手本は四季「キャッツ」 夫婦がビビリ猫に受け入れられるまで

 若い夫婦が2匹の猫を飼い始めたが、なかなかなつかない。どうすれば猫と仲良くなれるの? 悩んだ妻の頭に浮かんだのは、ミュージカル「キャッツ」の歌だった。そして、夫との寝室を出て……。夫婦はビビリ猫との愛情を深めていった。

(末尾に写真特集があります)

 都内の瀟洒な一戸建て住宅。中西拓也さん(32)と晴美さん(30)夫婦は昨年11月、初めての猫を飼い始めた。白地に焦げ茶の模様が入った猫2匹、3歳になる兄弟だ。

「顔が白いのが『まるもんた』で、鼻に模様があるのが『吉太』です」

ソックリ兄弟のまるもんた(左)と吉太
ソックリ兄弟のまるもんた(左)と吉太

 もともと猫を飼いたいと言いだしたのは、晴美さんだった。

「夫が忙しく、毎日帰りが遅い。私も仕事をしているけれど、7時、8時には帰宅するので、1人でいる時間が長くて。それで、ペットが欲しいな、と。犬だと散歩が難しいので、猫かなと思っていました。主人も同意してくれました」

 夫婦は昨年9月、保護団体「ミグノン」の譲渡会に出かけ、飼い方について質問してみた。晴美さんは「ペルシャ猫を1匹で飼いたい」と思っていたが、夫婦のともに不在の時間があるなら、「猫も2匹のほうが寂しくないかもしれない」と聞き、気持ちを変えた。この時、拓也さんの目に留まったのが、「まるもんた」と「吉太」の兄弟だった。

 もともとは4きょうだいだったが、「まるもんた」と「吉太」にはもらい手がつかず、シエルターに1年、預かりボランティア宅に1年いて、「警戒心が強い」と説明を受けた。それでも、2匹に独特な魅力を感じ、子猫より性格がわかっている成猫のほうが良いと考え、引き取る決意をした。

きりっとイケメンな吉太
きりっとイケメンな吉太

正座して猫にお願い

 こうして2匹を家に迎えたが、ビビリぶりは想像以上だった。トライアル初日は、3段ケージの中のトイレに隠れ、とくに「吉太」はニャーニャーと鳴き続けた。なかなか夫婦になつかず、体にも触れさせようとはしなかった。

「初日はケージを置いた居間で寝てみました。猫同士はじゃれたり走ったりしているけど、私たちに対しては気を張っていて。どうやってコミュニケ―ションをとればいいのか考えあぐねました」と晴美さんはいう。

 そう悩む中で、ふと思い出したのは、大好きなミュージカル「キャッツ」(劇団四季)の挿入歌「猫からのごあいさつ」だった。歌詞(日本語詩:浅利慶太)には、こんな一節がある。

 猫は犬にあらず
 猫にはひとつのルールがある
 こちらからは話しかけない
 だからあなたの方から
 猫にまずご挨拶を
 でも馴れなれしい口をきくと
 しりぞけられる

 晴美さんは、それを実践してみた。

「上から目線ではダメだと思ったので、2匹の前で正座をして、名前を名乗り、『どうか撫でさせてください』と声に出してお願いしました。それが通じたみたい(笑)」

 まず、「まるもんた」が晴美さんに気を許し、それから「吉太」が、そばに寄ってくるようになった。しかし、拓也さんとの距離は、なかなか縮まらなかった。

「あなたが慣れないのは、猫に頭を下げないからよ」

「ああ、確かにしなかったけど(笑)、もともと男性を怖がる性格じゃないのかな」

晴美さんに甘える兄弟猫
晴美さんに甘える兄弟猫

寝室を出て寝袋で

 1カ月もすると、猫たちはだいぶ馴染んできたが、拓也さんは “毛だらけ”になるのではないかと恐れ、2階にある寝室は猫禁止にしていた。一方、一緒に寝れば距離が縮るかもしれないと考えた晴美さんは、1階の居間で、寝袋で寝るようになった。

 猫たちは興味津々で、寝袋の上に乗ったり、潜り込んだり。一緒に寝た後には、晴美さんの後をとことこと追うようになった。晴美さんは喜んだが、拓也さんは戸惑った。

「居間で妻が寝ていると、電気を点けたら起こすんじゃないかと気を遣っちゃって……。結局、そのまま2、3週間くらい、別寝が続きました」

 その後、晴美さんが2階の寝室に戻って眠ると、2匹は階段を上がって“いかないで、いれてよー”というように、寝室のドアをコリコリとひっかいた。これで拓也さんは観念した。

「猫が寂しがっているのがわかったし、僕も居間で音をたてないのはつらいし。寝室に入れることにしました。意外に毛が抜けなかったし、マメに掃除をすれば問題ないことがわかりました」

 2匹は最初のうちはベッドの足元で遠慮がちに寝ていたが、今では夫婦のベッドの脇に用意した「猫用ベッド」ですやすやと眠るという。

「『まるもんた』はストレートに甘えるけど、『吉太』はツンデレ。男子ふたりの攻防が可愛いし、猫に求められることが、こんなに嬉しいことだとは知りませんでした」と晴美さん。

晩酌のお相手をしています
晩酌のお相手をしています

 拓也さんも、驚いたことがあるという。

「夜遅くに帰ってくると、2匹が部屋の入口まで迎えてくれる。前は1人でテレビを観ていたけど、今は猫が前に座って晩酌に付き合ってくれる感じ。警戒心が強いと聞いていたし、こんな時が来るなんて、想像していなかった」

 寄りつかなかった猫たちが、夫婦の後を追い、撫でてと甘えるようになった。夫婦と猫は時とともに、ますます強く結ばれていくだろう。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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